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河合祥一郎による『新訳 サロメ』(オスカー・ワイルド)を読み解く楽しみ。

 翻訳家・東京大学教授の河合祥一郎さんから、オスカー・ワイルドの『新訳 サロメ』をご恵贈いただいた。

 河合さんのご著書は、詳細な訳者あとがきが際立っている。あとがきというよりは、この翻訳の基盤となる研究の成果が凝縮されている。今回も、英語版に先立つフランス語による著作を原本とした理由が、実に丁寧に解説されていて、読み応えがある。

 なぜ、母語ではないフランス語を用いた作品なのか。それはワイルド自身の言葉によれば「まだ弾いたことのない楽器を愛するように私が愛する言語なのです」と、ブラム・ストーカー夫人となったフローレンスへの手紙に書き記している。

 なるほどと、うなずくのだけれど、河合さんは、さりげなくワイルドが学生時代に、フローレンスに惚れて求愛していたことを紹介している。学問的な厳密さとともに、同性愛者として知られたワイルドの別の一面を示唆するとき、私たちははっとさせられる。

 こんな手掛かりを含め、訳業を読み直すとき、これまでとはまた異なるサロメやヨカナーンが浮かびあがってくる。
 本書には、英語版に収められたオーブリー・ビアズリーの挿画が収録されている。文学と美術が響き合う。その楽しみも味わうことができた。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。