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城田優主演、藤田俊太郎演出のミュージカル『NINE』。過去に日本で上演されたデヴィッド・ルヴォー演出の舞台評を再録します。

私にとっては忘れられないミュージカル『ナイン』が、藤田俊太郎演出、城田優主演で、上演されるとの報道があった。

https://www.umegei.com/nine2020/

デヴィッド・ルヴォーと縁の深い梅田芸術劇場ならではの企画。

2004年に上演されたデヴィッド・ルヴォー演出の舞台について、当時、記事を書いたので、再録しておきます。

まず、はじめは、日本経済新聞に書いた劇評です。

 氷のように冷ややかな情熱で、女性から女性へと渡り歩く男がいる。

 デヴィッド・ルヴォー演出のミュージカル『ナイン』(アーサ・コピット脚本、モーリー・イェストンの作詞・作曲 青井陽治翻訳・訳詞)は、半透明のガラスと鉄骨によって構成された装置もあって、スタイリッシュでクールな切れ味がある。

一九八二年、ブロードウェイで初演されたこの作品は、イタリアの映画監督フェデリコ・フェリーニの『8 1/2』を原作としている。

 名声に包まれた監督のグイード(福井貴一)は、妻のルイーザ(高橋桂)とともに、保養地を訪れている。新作のシナリオは完成していないというのに、プロデューサーのリリアン(大浦みずき)はクランクインを強行しようとする。愛人のカルラ(池田有希子)は、離婚を迫ってくる。
 結婚生活も仕事も破綻しつつあるグイードの内面が、奔放なイメージの連鎖で綴られていく。

 ルヴォーの演出は、これまでセクシュアリティの視点から、古典・現代劇を読み直す作業を貫いてきた。
 数多くの女性との関係を創造のエネルギーとしてきた映画監督の物語は、その集大成としての迫力に満ちている。

 古代エジプトのネクロフォラス(安奈淳)が、枢機卿との会見を仲立ちする場面には、女性の根源的な力を信じたいと願いつつ、一方で、既成の宗教に反発するグイードの混乱が見て取れる。

 また、奇怪にして混沌としたフェリーニ的世界が、舞台前面にしつらえたプールのなかに、溺れるように沈んでいく演出に、水都ヴェネチアの地勢が重なる。

 第二幕冒頭のクラウディア(純名りさ)とグイードのデュエット「A Man Like you」「Unusual Way」が楽曲・歌唱ともにすぐれている。

 グイードの福井は、権力者の絶望をよく演じているが、口を不用意に半開きにする癖が残念だ。日本のミュージカル上演史に記憶されるべき舞台である。

さらにこの舞台を受けて、東京新聞の依頼で書いた評論を合わせて掲載いたします。

 昨年(2005年、筆者註)四月、デヴィッド・ルヴォーの演出によって上演されたミュージカル『ナイン』(アーサ・コピット脚本、モーリー・イェストンの作詞・作曲 青井陽治翻訳・訳詞)を観て、前衛の行方について考えさせれた。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。