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【劇評332】仁左衛門、玉三郎が、いぶし銀の藝を見せる『於染久松色読販』。

 コロナ期の歌舞伎座を支えたのは、仁左衛門、玉三郎、猿之助だったと私は考えている。猿之助がしばらくの間、歌舞伎を留守にして、いまなお仁左衛門、玉三郎が懸命に舞台を勤めている。その事実に胸を打たれる。

 四月歌舞伎座夜の部は、四世南北の『於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)』で幕を開ける。土手のお六、鬼門の喜兵衛と、ふたりの役名が本名題を飾る。

 今回は序幕の柳島妙見の場が出た。この場は発端であるが、単なる筋売りではない。千次郎の番頭の善六と橘太郎の久作京妙の茶屋女、玉雪の手代久助、松三の丁稚久太、いずれも腕こきの藝を見せる。
 もちろん錦之助と彦三郎が場を締めるのだが、脇がのびのびとしているから舞台が弾む。こうしたやりがいのある場を出さなければ、歌舞伎の未来がおぼつかないとさえ思った。

 続く小梅莨屋の場は、玉三郎のお六、仁左衛門の喜兵衛が、南北の真髄を見せる。恩ある竹川からの手紙に居住まいを正したかと思うと、棺桶をかついできた松悟のやりとりでは、伝法な調子にうって変わる。この振幅が、お六という役を深いものとしている。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。