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【劇評343】趣向の夏芝居で観客を沸かせる幸四郎。進境著しい巳之助と右近。

 趣向の芝居である。
 七月大歌舞伎夜の部は、『裏表太閤記』(奈河彰輔脚本 藤間勘十郎演出・振付)が出た。昭和五十六年、明治座で初演されてから、久し振りのお目見え。記録によれば、上演時間は、八時間半に及ぶ。私はこの公演を見ていないが、演じる方も、観る方も恐るべき体力が必要だったろう。

 二代目猿翁(当時・三代目猿之助)が芯に立つ。猿翁は、スピード、ストーリー、スペクタクルの「3S」によって、復活狂言を打ち出していたが、この作品は、太閤・秀吉を核とした「太閤記物』の集大成である。本作は、秀吉の出世譚ではなく、空想ゆたかに孫悟空に見立てるなど、おさな心にあふれる芝居となった。

 秀吉をめぐる筋が「表」。山崎の合戦で信長の係累にあたる小野お通、備中高松城の軍師鈴木喜多頭と、息子の孫市をめぐる物語が「裏」。宙乗りや本水を使った立廻り、勢揃いの所作事で幸四郎が奮闘し、夏の娯楽作にふさわしく、観客を喜ばせる。
 こうした趣向の物語に、スペクタクルを盛り込むと、どうしても場数が多くなり、芝居が慌ただしくなるのは避けようもない。役者としては、そのなかで、核となる場面でしっかりとした芝居を見せたい。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。