【劇評252】正確な描画力にすぐれる菊之助の『盛綱陣屋』
三月の国立劇場は、『近江源氏先陣館』を菊之助が出した。
「歌舞伎名作入門」と題したシリーズのひとつで、昨年の『馬盥』に続く。骨格の太い時代物を広く愉しんでもらうのが企画の方向だろう。今回も萬太郎による「入門 〝盛綱陣屋〟をたのしむ」があり、休憩を挟んで、丁寧に『盛綱陣屋』を舞台に掛けている。
菊之助の佐々木三郎兵衛盛綱は、初役。
近年は、立役が多く、しかも、『義経千本桜』の知盛のように、勇壮な英雄も演じている。
『馬盥』の光秀、『盛綱陣屋』は、いずれも陰影に富んだ役作りに挑んでいる。善でもなく悪でもなく、複雑な性格を克明に描写するのが、菊之助の身上だろう。
柱はふたつある。
ひとつは、敵の陣営に属する高綱の息子、小四郎をめぐる和田兵衛秀盛(又五郎)とのやりとりを終えて、見送ってからの寂寥感である。
竹本は語る。
〽盛綱は只茫然と、軍慮を帷幕の打ち砕き、思案の扇からりと捨て
高綱は、母の微妙(吉弥)に、小四郎(丑之助)に切腹するように言い含める考えを伝えることにした。もとより、小四郎は高綱にとって甥、微妙にとっては孫である。母に孫の死を託さなければならない。
年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。