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【劇評203】幸四郎家三代の『車引』に酔い、勘三郎を受け継ぐ『らくだ』に笑う。

 新春の観劇予定を立てたのは、十二月の半ばで、緊急事態宣言が迫っているとは思っていたが、一月初旬になるとは予想していなかった。演舞場、国立も開いており、また、勤務先の仕事も詰まっていたので、歌舞伎座第三部を見るのは、十日とした。
 結果的に、翌十一日から、第三部の開始時間が早まり終演は八時にならない新しい時間表が組まれた。

 第三部は、高麗屋の繁栄を言祝ぐ『菅原伝授手習鑑』の『車引』。絵面の様式美と三つ子の個性が際立つ。白鸚の松王丸、幸四郎の梅王丸、染五郎の桜丸と、三代が揃って舞台に立つ。
 松本幸四郎家の三人で、それぞれの年齢にふさわしい三役を演じ、ひとつの舞台に立つ幸せを思う。 
 家の藝がどのように継承されていくかを、観客が自分の年齢とともに見守るのが歌舞伎の楽しみだろう。私自身は、白鸚よりは下だが、幸四郎よりは年長で、染五郎は子供の年代となる。

 まずは深編み笠で顔を描くし、梅王丸と桜丸の問答が続く、観客は今か今かと、華のかんばせを見るのを楽しみにしている。笠を取ったときの梅王丸の晴れやかさ、桜丸のはじらい、いずれも眼福であった。
 もっとも、この顔がさらされるまでに、身体のこなしで梅王丸と桜丸の役柄が語られていなければならぬ。
 おそらくは白鸚によって指導された芝居を愉しんだ。白鸚はまさしく座頭が勤める松王丸の貫目がある。見得をみせても、やはりひときわ大きく、舞台を圧する。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。