【劇評222】ゴミ袋から発見された赤子は、路上生活者を救うか。藤田俊太郎演出『東京ゴッドファーザーズ』の奇跡。
生まれたばかりの幼子ほど、保護を求めている存在はない。また、ときに、幼子は、奇跡を呼ぶ天使になぞらえられることがある。
『東京ゴッドファーザーズ』(土屋理敬・上演台本 藤田俊太郎・演出)は、今敏のアニメを原作とする。土屋の台本は、基本的にアニメの台詞に忠実で、原作の持つファンタジーを損なわない方針でまとめられている。
アニメにはアニメの特質があり、演劇には演劇の法則がある。
たとえば、アニメは視点の設定とその転換が自由であり、クローズアップも俯瞰も自在に出来る。それに対して、演劇は客席からの見え方は、座席に拘束されており、役者は生身の人間であるから、疾走や跳躍には限界がある。
こうしたメディアの間にある相違を埋めるために、演出の藤田は、ありったけの技巧を用いる。まず舞台は、二方向の客席から見るオープンステージである。せりをつかって舞台上にも段差を作りだす。また、両サイドのエプロンステージも用いているので、階層は基本的に三層あることになる。地上と天上と地下を舞台に作りだしている。
そればかりではない。天井に吊されたゴミ袋に映像を投影して年のネオンサインを浮かび上がらせ、ブルーシートやキャリアを巧みに使って、路上生活者の現実を伝えていく。
照明と効果音、そして衣裳のフルに動員して、クリスマスイブからの数日、東京の端から端まで走り抜ける三人の主人公を描き出していく。
年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。