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【劇評264】鄭義信の大胆な『てなもんや三文オペラ』。生田斗真のメッキーは、泥沼に咲く蓮の花のようだった。五枚。

 傑物とうなりたくなる芝居を観た。

 『てなもんや三文オペラ』(鄭義信作・演出 ベルトルト・ブレヒト原作 クルト・ヴァイル音楽 久米大作音楽監督)は、ブレヒト、ヴァイルの『三文オペラ』を換骨奪胎した新たな創作である。

 鄭は、舞台の背景に戦後の大阪を選ぶ。
 アパッチ族と呼ばれた窃盗団が、大阪砲兵工廠跡地から、鉄くずなどをかっぱらって売りさばく。荒々しくも、泥臭い時代の空気をたっぷり盛り込んでいる。荒くれ者たちが欲望を全開にしている。人々を戦争に駆り立てた国に対する憎悪を原動力として、諍いを起こし、いがみ合う。裏切りさえも日常であった。

 私たちは、上手と下手にそびえ立つ怪しいバラックと向き合う。正面奥には、空襲で焼き払われたが何本か残った煙突が、おぼろに見えている。
 池田ともゆきの美術は、すべてがクリアではなく、煤煙に覆われた陰鬱な街をまず観客に提示している。

 今回の上演を傑物と呼んだのは、鄭が設定だけではなく、役の位置づけを大胆に改変しているからだ。

 まず、生田斗真の演ずるマック(原作ではメッキー・メッサー 通称マック・ザ・ナイフ)は偶然出会ったウエンツ瑛士が演じるポールに一目惚れして、結婚式を行うごたごたから劇を始めている。

 原作では乞食の元締めピーチャムの娘だが、ここでは、美少年に変わっている。マックは欲望を全開にした男であり、この時代背景ではいかなる倫理や道徳も無になり、マックがだれよりも、自由に生きようとしているとわかる。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。