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【劇評206】仁左衛門と玉三郎。見交わす目と目の陶酔。

 番組が発表されたときから、舞台への思いは始まる。その期待が自分の予想どおりに満たされたとき、観客の満足は、いよいよ高まる。

 二月大歌舞伎第二部は、二本とも仁左衛門と玉三郎の出演。特に『於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)』は、昭和四十六年六月に新橋演舞場で上演されてから、「お染の七役」として、ずっと当たりをとってきた「とっておき」の出し物である。

 昭和の歌舞伎が懐かしい古老も、伝説の舞台をこの目で確かめておきたい若手にも期待された舞台だった。

 今回は、通しではなく、「妙見」「小梅長屋」「油屋」が出た。七役のうち玉三郎にとっては、まぎれもない本役の土手のお六が、これまでと変わらず、仇なおんなっぷりで酔わせる。

 対になる仁左衛門の鬼門の喜兵衛も、水際だった悪党ぶりで、ぞっとする色気がある。役者と役者、お互いの信頼が、これほどまでに舞台を盛り上げるのかと思う。一度、二度の共演では、この息は生まれるはずもなく、ともに年を取るのを忘れて、舞台に華を咲かせてきた喜びが踊っている。

 柳島妙見の場では、吉之丞の庵崎久作が、強情な田舎者をまっすぐに演じている。仙次郎の油屋番頭善六とのやりとりもおもしろく、脇の技を愉しむ場面となった。
 彦三郎の油屋太郎七、山家屋清兵衛は権十郎。このふたりも菊五郎劇団で同じ育ちだから、安定した芝居を見せる。

 小梅莨屋の場は、饐えた場末の匂いが漂う。酒の肴がたにしの木の芽和えというあたりを仁左衛門が聞かせいる。死人の入った早桶を蹴倒すあたりの凄みに胸がすく。玉三郎は、久作に頼まれた裄丈直しの賃仕事を「急ぎでなくば直してあげよう」とそっけなく投げ出す風情が人を舐めてかかる性根が滲む。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。