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【劇評346】勘九郎の『髪結新三』。果敢な挑戦。

型の美しさより、人間の業と考えれば、勘九郎初役の『髪結新三』が、がぜん意味を持ってくる。

 私たちの世代には、十七代目勘三郎、十八代目勘三郎の新三が目に残っている。
 「上州無宿」を重く見るところから、牢屋にも入った悪党として新三を通すのが、中村屋のやりかたとされるが、十八代目は、必ずしも、悪党一辺倒ではなかった。

 忠七の髪をなでつけながら、言葉巧みに駆け落ちを持ちかける件りは、持ち前の愛嬌とともに、廻り髪結の世渡りがありありと描写された。なでつける段取りの巧さに誘われて、芝居が生きる。これは、踊りの技術と表現の関係とも似ている。十八代目は、このバランスが見事であった。
 「先代、そっくり」と声がかかることが、みじんも恥ではなく、むしろ初役では必須条件とされる世界で、今回の勘九郎は、果敢な挑戦に踏み出している。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。