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【劇評342】文学座の『オセロー』は、滑稽で愚かな現代人の鏡となった。

 鵜山仁演出の『オセロー』(小田島雄志訳)は、滑稽にしか生きられない現代人のありようを写している。

 イアーゴの巧みな計略によって、ムーア人のオセローが嫉妬に燃えて、妻デズデモーナを殺害する。この筋は、現代においては、悲劇ではなく、滑稽な惨劇になってしまう。
 シェイクスピアのメランコリー劇だからといって、荘重に演出するのではない。SNSのなかで、興味本位にいじられるスキャンダルに、人間の愚かさが見えてくる。その姿に共感する。そんな現代の構図を生かしているように思われた。

 横田栄司のオセローは、まるで自らの生をあざわらっているかのようだ。「腹が立つ」と絶叫しても、その力み返る性向は、将軍のしての強さよりは、その裏側にある弱さがあらわになる。
 ヴェニスの美女を妻とした幸福に安住できない精神の脆さを徹底して描きだしたところに、鵜山演出とタイトルロールを演じる横田の決意が見て取れる。

 このオセローに対して、妻デズデモーナを演じたsaraは、儚いまでの美しさを追求している。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。