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【劇評187】 猿之助の智慧。観客の好みを知り尽くした舞台

 歌舞伎座の十一月は例年通り、顔見世の月だけれど、八月からの四部制が続いている。大顔合わせというよりは、大立者から花形まで、それぞれの出し物が並んでいる。

 第一部を飾るのは猿之助の『蜘蛛の絲宿直噺(くものいとおよづめばなし)』。歌舞伎座が開くようになってから猿之助の出演は、三度目になるが、この四つに分割された上演をいかに盛り上げるか、智慧を絞った演目選びに感心する。

 お客が今、何を望んでいるかを敏感に察知し、その期待に応えるのが澤瀉屋の伝統で、猿之助はその要諦をしりぬいている。亀治郎の会を主宰し、正月の浅草花形歌舞伎で卓抜な企画をみせたことも今につながる。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。