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【劇評335】ミージカルの最前線。三浦透子の深く、悲しい演技と歌唱。人間の心の闇を描いて、見逃せない『VIOLET』。


撮影:岡千里

 傷痕は、誰のこころにも刻まれている。

 藤田俊太郎演出の『VIOLET』(ジニーン。テソーリ音楽 ブライアン・クロウリー脚本・歌詞 ドリス・ベイツ原作 芝田未希翻訳・訳詞)は、二○一九年、ロンドンのオフ・ウェストエンドで初演された。二二年二は日本でも初演されたけれど、コロナ禍のために、ごく短期間の公演にとどまった。


撮影:岡千里



 今回、満を持して再演されるにあたって、主役のヴァイオレットは、三浦透子と屋比久知奈のふたりで、ダブルキャストを組んだ。
 この作品は、一九六十年代、人種差別が根強くあったアメリカを描いている。ヴァイオレットは、少女時代に父親の斧によって顔に傷を負ったテレビ宣教師によってその傷を癒したいと願う彼女は、ノースカロライナ州のスプールスパインから、オクラホマ州のタルサまで、グレーハウンドバスで旅をする。
 このバス旅行のあいだに、ふたりの兵士とのかかわりが生まれる。黒人兵士のフリック(東啓介)と白人のモンティ(立石俊樹)のあいだにあって、心を閉ざしていたヴァイオレットは、他者を気づかう人間へと成長していく。

 当時も根深い人種差別があった。ホテルもバーも、白人と黒人が画然と別れていた。特異な時代背景にもかかわらず、この舞台が普遍的な物語として成立しているのはなぜか。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。