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【劇評255】幸四郎、右近の愛情深き『荒川の佐吉』

四月大歌舞伎、第二部は新作歌舞伎とめずらしい舞踊の狂言立てとなった。

 真山青果が大の苦手な私にとって、唯一、愛着が持てるのが『荒川の佐吉』である。
 この戯曲は、「運命は自らの手で切り開く」といったメッセージ性ばかりが立ってはいない。

 偶然から共に暮らすことになった男ふたりと幼子の愛情の深さが描かれている。血が繋がっているから家族なのではない。ともに、いたわり合う心があってこそ、家族なのだと語りかけてくる。

 今回は、幸四郎の佐吉、尾上右近の辰五郎の組み合わせである。
 佐吉はやくざの子分となる前は、大工職人という設定。辰五郎は現役の職人である。幸四郎と右近は、この職人気質を巧みに演じている。さらにいえば、職人のホモソーシャルな世界観が根底にあるように思われる。

 こうした見方からすると、同性のカップルが、視覚障害を持った子供を育てる話とも読み解くことができる。青果は、こうした解読がなされることを予期していたのだろうか。
 今回の上演では、明解に打ち出されてはいないが、こうした解釈に基づく演出の『荒川の佐吉』が舞台となれば、新しい地平が開かれるに違いない。


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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。