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長谷部浩の俳優論。

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歌舞伎は、その成り立ちからして俳優論に傾きますが、これからは現代演劇でも、演出論や戯曲論にくわえて、俳優についても語ってみようと思っています。
劇作家よりも演出家よりも、俳優に興味のある方へ。
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#片岡仁左衛門

【劇評249】仁左衛門の知盛。一世一代の哀しみ。

【劇評249】仁左衛門の知盛。一世一代の哀しみ。

 仁左衛門が一世一代で『義経千本桜』の「渡海屋」「大物浦」を勤めた。

 確か、仁左衛門は、『絵本合法衢』と『女殺油地獄』も、これきりで生涯演じないとする「一世一代」として上演している。まだまだ惜しいと思うが、役者にしかわからない辛さ、苦しさもあるのだろう。余力を残して、精一杯の舞台を観客の記憶に刻みたい、そんな思いが伝わってきた。

 さて、二月大歌舞伎、第二部は、『春調娘七草』で幕を開けた。梅

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【劇評236】仁左衛門、玉三郎。『四谷怪談』は、観客を地獄へ連れて行く

【劇評236】仁左衛門、玉三郎。『四谷怪談』は、観客を地獄へ連れて行く

 急に秋雨前線が停滞して、底冷えのする天気となった。怪談狂言を観るには、いささか寒すぎるせいか、四世南北の描いた冷酷な世界が身に染みた。

 今年の歌舞伎座は、仁左衛門、玉三郎の舞台姿が記憶されることになるだろう。
 玉三郎に限って言えば、二月の『於染久松色読販』、三月の舞踊二題『雪』、『鐘ヶ岬』、四月、六月の『桜姫東文章』上下、そして今月の『東海道四谷怪談』と舞踊を交えつつも、孝玉の真髄を味わう

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【劇評218】南北、郡司学、仁左衛門、玉三郎、奇跡の巡り会い、ふたたび。

【劇評218】南北、郡司学、仁左衛門、玉三郎、奇跡の巡り会い、ふたたび。

 歌舞伎では、一座を代表する女方を、畏敬もって立女方(たておやま ルビ)と呼ぶ。

 六代目歌右衛門、七代目梅幸、四代目雀右衛門、七代目芝翫は、歌舞伎座の立女方にふさわしい威光を放っていた。玉三郎は、歌舞伎座のさよなら公演のあたりから、その名に、ふさわしい存在だと私は思っていた。

 詳しい事情はわからないけれども、いつの間にか、特別舞踊公演などの独自の公演が増え、重い演目の役を勤める機会が少なく

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【劇評227】仁左衛門、玉三郎、エロティシズムの根源。『桜姫東文章』の秘法。

【劇評227】仁左衛門、玉三郎、エロティシズムの根源。『桜姫東文章』の秘法。

 四月の歌舞伎座を満席にした『桜姫東文章』(四世鶴屋南北作 郡司正勝補綴)の下の巻が、六月の第二部に出た。

 上の巻は、前世の因縁と清玄と桜姫の墜落を描いた。下の巻は、ふたりの流転と、仁左衛門二役の釣鐘権助の荒廃ぶりに焦点が合う。

 序幕は、岩淵庵室の間から。歌六の残月と吉弥の長浦は、上の巻にも増して、嫉妬と憎悪に貫かれている。美男美女と対になる醜悪な悪党ぶりで、場内を沸かせる。歌六、吉弥、仁

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