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長谷部浩の俳優論。

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歌舞伎は、その成り立ちからして俳優論に傾きますが、これからは現代演劇でも、演出論や戯曲論にくわえて、俳優についても語ってみようと思っています。
劇作家よりも演出家よりも、俳優に興味のある方へ。
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2024年7月の記事一覧

【劇評345】法廷劇に巻き起こる風。野田秀樹作・演出『正三角関係』。

【劇評345】法廷劇に巻き起こる風。野田秀樹作・演出『正三角関係』。

 『正三角関係』には、何が賭け金となっているのだろう。
ずいぶん以前、夢の遊眠社解散のときに、野田秀樹の仕事を概観して、「速度の演劇」と題した長い文章を書いた。今回の舞台は、まさしく役者と演出とスタッフワークの圧倒的な速度を賭け金として、日本の近現代史のとても大切な結節点にフォーカスしている。
 舞台写真にあるように、色とりどりのテープ、球、蜘蛛の糸などが、大きな役割を果たしている。

年齢を重ね

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【劇評343】趣向の夏芝居で観客を沸かせる幸四郎。進境著しい巳之助と右近。

【劇評343】趣向の夏芝居で観客を沸かせる幸四郎。進境著しい巳之助と右近。

 趣向の芝居である。
 七月大歌舞伎夜の部は、『裏表太閤記』(奈河彰輔脚本 藤間勘十郎演出・振付)が出た。昭和五十六年、明治座で初演されてから、久し振りのお目見え。記録によれば、上演時間は、八時間半に及ぶ。私はこの公演を見ていないが、演じる方も、観る方も恐るべき体力が必要だったろう。

 二代目猿翁(当時・三代目猿之助)が芯に立つ。猿翁は、スピード、ストーリー、スペクタクルの「3S」によって、復活

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 【劇評342】文学座の『オセロー』は、滑稽で愚かな現代人の鏡となった。

【劇評342】文学座の『オセロー』は、滑稽で愚かな現代人の鏡となった。

 鵜山仁演出の『オセロー』(小田島雄志訳)は、滑稽にしか生きられない現代人のありようを写している。

 イアーゴの巧みな計略によって、ムーア人のオセローが嫉妬に燃えて、妻デズデモーナを殺害する。この筋は、現代においては、悲劇ではなく、滑稽な惨劇になってしまう。
 シェイクスピアのメランコリー劇だからといって、荘重に演出するのではない。SNSのなかで、興味本位にいじられるスキャンダルに、人間の愚かさ

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