マガジンのカバー画像

長谷部浩の俳優論。

71
歌舞伎は、その成り立ちからして俳優論に傾きますが、これからは現代演劇でも、演出論や戯曲論にくわえて、俳優についても語ってみようと思っています。
劇作家よりも演出家よりも、俳優に興味のある方へ。
¥1,480
運営しているクリエイター

2023年9月の記事一覧

【劇評314】時蔵の定高と松緑の大判事。この名作をのちの世につなげる秀逸な舞台。

【劇評314】時蔵の定高と松緑の大判事。この名作をのちの世につなげる秀逸な舞台。

 『妹背山婦女庭訓』の「吉野川」は、近松半二の華麗で、なお実のある詞章にすぐれる。両花道を使い、上手、下手の館を、急な川で隔てた舞台面も独特で、歌舞伎屈指の名作といって差し支えない。

 二○一六年九月、秀山祭で出てから、七年を隔てての上演だが、時蔵の定高、松緑の大判事ともに、位取りが高く、公にみせる厳しい顔と、子を思う内心の情がこもり、すぐれた舞台となった。

 ふたりの親ばかりではない。前半を

もっとみる
【劇評311】伊藤英明の目。人間の欲望に迫る『橋からの眺め』。

【劇評311】伊藤英明の目。人間の欲望に迫る『橋からの眺め』。

 アーサー・ミラーの『橋からの眺め』がNYブロードウェイのコロネットシアターで初演されたのは、一九五五年。すでに七〇年近い時間が過ぎ去り、アメリカ演劇の古典となった。古典となった戯曲が、近年、リバイバルを果たし、見直されている理由は、いくつかある。

 もちろん戯曲自体が持っている本質的な力があってのことだ。それに加えて、現代の演出家たちは、美術家の協力を得て、原作の時代設定や場所にこだわらない斬

もっとみる