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長谷部浩の俳優論。

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歌舞伎は、その成り立ちからして俳優論に傾きますが、これからは現代演劇でも、演出論や戯曲論にくわえて、俳優についても語ってみようと思っています。
劇作家よりも演出家よりも、俳優に興味のある方へ。
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2022年4月の記事一覧

【劇評257】斬新な演出で幻影を見る。『セールスマンの死』

【劇評257】斬新な演出で幻影を見る。『セールスマンの死』

 アーサー・ミラーの『セールスマンの死』は、憂鬱な戯曲だ。家族のために懸命に働いてきたウィリー・ローマンは、ローンの完済を目前にしているが、職を奪われ、金の工面に汲々としている。ローンが終わった日に、二〇〇〇〇ドルの保険金を残すために自殺する。

 彼は家族思いではあるけれど、息子二人とは、うまくいっていない。アメリカ的な成功、金を儲けて、ひとかどの存在になることをいつも夢見て、ふたりの息子にもそ

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【劇評255】幸四郎、右近の愛情深き『荒川の佐吉』

【劇評255】幸四郎、右近の愛情深き『荒川の佐吉』

四月大歌舞伎、第二部は新作歌舞伎とめずらしい舞踊の狂言立てとなった。

 真山青果が大の苦手な私にとって、唯一、愛着が持てるのが『荒川の佐吉』である。
 この戯曲は、「運命は自らの手で切り開く」といったメッセージ性ばかりが立ってはいない。

 偶然から共に暮らすことになった男ふたりと幼子の愛情の深さが描かれている。血が繋がっているから家族なのではない。ともに、いたわり合う心があってこそ、家族なのだ

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