マガジンのカバー画像

長谷部浩の俳優論。

71
歌舞伎は、その成り立ちからして俳優論に傾きますが、これからは現代演劇でも、演出論や戯曲論にくわえて、俳優についても語ってみようと思っています。
劇作家よりも演出家よりも、俳優に興味のある方へ。
¥1,480
運営しているクリエイター

2021年8月の記事一覧

令和三年の菊之助。後半には『京鹿子娘道成寺』の白拍子花子、『摂州合邦辻』の玉手御前、『義経千本桜』のいがみの権太が見たい。

令和三年の菊之助。後半には『京鹿子娘道成寺』の白拍子花子、『摂州合邦辻』の玉手御前、『義経千本桜』のいがみの権太が見たい。

 現在の歌舞伎は、変則的な興行が続いている。

 三部制を取っているために、出し物の長さにも制約がかかっており、狂言立てを作るにも苦心がいるのがわかる。
 玉三郎や猿之助の談話からも、役者たちが自分の出し物について、時間の制約を考慮した上で企画を考え、松竹とのやりとりのなかで、番組が決められていると思われる。だとすれば、今まで以上に、役者本人の企画力、プロデュース力が問われる時代が来ている。

もっとみる
【劇評235】七之助、真に迫る豊志賀の恨み。勘九郎の洒脱な狸の踊り。

【劇評235】七之助、真に迫る豊志賀の恨み。勘九郎の洒脱な狸の踊り。

 七之助が恨みの深さを存分に見せる。

 『真景累ケ淵 豊志賀の死』は、明治を代表する落語家、三遊亭円朝の口演から劇化されて、歌舞伎の演目として定着した。

 六代目尾上梅幸の豊志賀、六代目尾上菊五郎の新吉の顔合わせで、明治三十一年に市村座で上演され、当たりをとっている。
 六代目梅幸は、五代目菊五郎の話として、
「化物と幽霊を一ツに仕ちゃアいけないぜ、化物の方はおどかすように演り、幽霊は朦朧と眠

もっとみる
【劇評234】巳之助代役の『加賀見山再岩藤』。上上吉の出来映え。

【劇評234】巳之助代役の『加賀見山再岩藤』。上上吉の出来映え。

 代役は、役者が大きくなるための好機である。
 猿之助の休演を受けて、巳之助が八月花形歌舞伎第一部で、芯となる役を勤めた。

 『加賀見山再岩藤』では、鳥井又助に配役されていたが、この役は鷹之資に渡した。巳之助は、多賀大領、御台梅の方、奴伊達平、望月弾正、安田隼人、岩藤の霊の六役を早替りで演じ分けた。

 早替りであり、しかも、今回は上演時間を二時間以内に収めての「岩藤怪異編」である。すべての役が

もっとみる