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長谷部浩のノート お芝居と劇評とその周辺

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#国立劇場

国立劇場の売店は、物産展。『妹背山婦女庭訓』にちなんで、奈良になじみの品々。吉野葛を求めてみました。

 気合いが入っているような、入っていないような。国立劇場一階、入口左手、文化堂の向かいにしょんぼりやっている演目ゆかりの物産展が好きです。  今月は、『妹背山婦女庭訓』「吉野川」で、時蔵、松緑、梅枝、萬太郎が、よい芝居を見せています。なにかないかなと売店で物色すると、吉野葛が目に入りました。このごろ、片栗粉であんかけをするのですが、一度はトライしてみたかった本格の葛。なんとなく老舗らしきパッケージにひかれて求めてみました。あ、芝居はぜひ、おすすすめです。

菊之助の『春興鏡獅子』と『京鹿子娘道成寺』配信から見えてきた舞踊の魔

 菊之助が国立劇場とともに収録した映像「尾上菊之助の歌舞伎舞踊入門」を観た。  『春興鏡獅子』と『京鹿子娘道成寺』が、昨年八月に収録されたが、今回、配信されたのは、それぞれ解説編と本編、計四本となる。  まず、解説編だけれども、外の景色からすると、国立能楽堂で収録されたものだろうか。入門の名にふさわしく、舞踊の背景を丁寧に語っている。菊之助の語りだけではなく、舞踊のダイジェストもインポーズされているので、解説を聞きながら、なるほどと膝を打つ楽しみがある。  私たちは舞台の

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「尾上菊之助の歌舞伎舞踊入門」が、明日から配信される。

 尾上菊之助さんは、現在、歌舞伎舞踊の頂点に立つ一人ですが、国立劇場が独自に収録した『春興鏡獅子』と『京鹿子娘道成寺』が配信されることになりました。「尾上菊之助の歌舞伎舞踊入門」芝居が休みの月に、渾身の力をもって、後世に残すべく制作された映像です。  収録は、それぞれ昨年の八月四日と二十日に、国立劇場大劇場で行われました。  収録の日には、私も劇場で拝見しましたが、藤間勘祖さんの立ち会いのもと、ぴりぴりとした空気で、舞台は張り詰めていました。  『春興鏡獅子』は、小姓弥生の美

【劇評252】正確な描画力にすぐれる菊之助の『盛綱陣屋』

 三月の国立劇場は、『近江源氏先陣館』を菊之助が出した。  「歌舞伎名作入門」と題したシリーズのひとつで、昨年の『馬盥』に続く。骨格の太い時代物を広く愉しんでもらうのが企画の方向だろう。今回も萬太郎による「入門 〝盛綱陣屋〟をたのしむ」があり、休憩を挟んで、丁寧に『盛綱陣屋』を舞台に掛けている。  菊之助の佐々木三郎兵衛盛綱は、初役。  近年は、立役が多く、しかも、『義経千本桜』の知盛のように、勇壮な英雄も演じている。  『馬盥』の光秀、『盛綱陣屋』は、いずれも陰影に富ん

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三月国立劇場。菊之助の『盛綱陣屋』は、丑之助が鷹揚たる小四郎を見せる。

 私信ではなくても、封書を開けるのは楽しい。愛用のペーパーナイフを使って、のり付けされたベロの部分に刃を入れる。何か、新しい情報にふれるときの儀式として、とても大切に思っている。  国立劇場から封書が届いた。  なんだろう。いつも案内が届く時期ではないのにと思って開いたら、三月歌舞伎公演の案内だった。一月の国立劇場公演筋書で、「演目=鋭意選定中。出演=尾上菊之助ほか」と予告されていた内容が決まったとの知らせだった。 「歌舞伎名作入門」と銘打たれたシリーズで、昨年は『馬盥

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【劇評209】芯のある時代物。菊之助渾身の『時今也桔梗旗揚』。

 緊急事態宣言下にはあるが、関係者の努力によって、芯のある芝居が観られるようになった。  今月の国立劇場は、歌舞伎名作入門と題した公演で、菊之助の『時今也桔梗旗揚(ときわいまききょうのはたあげ)』三幕がでた。多くは、「馬盥(ばだらい)」と「愛宕山」の場の上演だけれども、昭和五十八年、年吉右衛門が新橋演舞場で上演したとき、このふたつの場に先立つ「饗応」を復活した。  四世鶴屋南北の時代物として知られるが、明智光秀(劇中では武智光秀)が主君、織田信長(小田春永)を討った本能寺

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菊之助が造形する光秀の像はいかに。

 三月の国立劇場は、『時今也桔梗旗揚』で、四世南北の「明智光秀」を見せる。  昨年の三月は、菊之助が『義経千本桜』の三役、忠信、知盛、権太を演じる予定だった。コロナ渦のために急遽、中止となり、いち早く無観客配信されたのは記憶に新しい。  今年は、この『義経千本桜』に再挑戦するのかと思っていたが、『時今也桔梗旗揚』とは意表を突かれた。  近年の上演では、「馬盥」が中心となる。菊之助の演じる武智光秀が、馬を洗う盥で酒を呑まされ、過去の恥辱を明かされる。この春永(織田信長)の横暴に

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【劇評199】いつもの正月のように。なにも変わないことの貴重さ。菊五郎劇団の国立劇場。

 いつものように正月が訪れる。初芝居に行く。繭玉を観る。それがどんなに貴重なことか。  菊五郎劇団の国立劇場、正月興行は、復活狂言を上演してきた。 長い間上演されなかった戯曲には、それなりの理由がある。脚本を整理し、演出をほどこす作業は、座頭である菊五郎の負担が大きい。 平成一八年の十一月だったろうか、『菊五郎の色気』(文春新書)を書くために、菊五郎の楽屋を訪れた。眼鏡をかけた菊五郎は、書見台に台本を置いて見入っていた。 「来年の正月の国立の台本ですよ」  なるほど、こ

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未曾有の苦難にあえいだ歌舞伎。今年、私が揺さぶられた三本を選んでみた。

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新春歌舞伎の天気図。明日はきっと晴れ。

 年末なので、今年の回顧を書こうかと思ったのだが、例年とは事情が異なる。悲しい気持ちになるのは必定で、こうした人災のような事態を招いた政府への恨み節となるやもしれない。  そこで気分を変えて、正月の歌舞伎について書いてみる。  浅草公会堂での花形歌舞伎は、早々に中止が発表された。東京での公演は、歌舞伎座、新橋演舞場、国立劇場の三座となる。  まず、歌舞伎座から。なんといっても注目は、第二部。吉右衛門の由良之助、雀右衛門のおかるによる七段目。言わずと知れた『仮名手本忠臣蔵

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【劇評198】独自の藝境に至る白鸚の「河内山」。福助の「鶴亀」、染五郎の「雪の石橋」はいかに。

 歌舞伎役者もまた、いつかは父を、乗り越えようと試みるものなのだろうか。  国立劇場の第二部は、『天衣紛上野初花』、「河内山」と呼ばれる芝居を「上州屋」「広間」「玄関先」と通している。白鸚の河内山だが、二代目を襲名してから二年、自分の芝居を突き詰めて、独自の領域を切り開いている。  もちろん、筋書に掲載された談話には、「播磨屋(初代中村吉右衛門)と高麗屋(七代目松本幸四郎)から、父が受け継いだ大事なお役です。父は「河内山には品がなくてはいけない」と言っておりました」 と、語

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【劇評190】仁左衛門の『毛谷村』の粋。踊り二題は、梅枝の自在。鷹之資、千之助の懸命。

 広大なロビーを一階と二階に持つ幸福。トイレために行列もできにくい。幕間取れる。三密もおのずと避けられる。国費を投入した権威主義的な建物が、こんなときに役に立つものだと妙なところで感心した。  今月の第一部、第二部は、時間の制約はあるものの歌舞伎を観る醍醐味がある。  この危機に際して、国立劇場の制作はじめスタッフが、歌舞伎の未来を担保しようと懸命に智慧を絞っているのがわかってうれしくなった。  さて、第二部は、仁左衛門の『毛谷村』である。  騙されやすい剣の達人が、不思

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【劇評186】晴れやかに観る吉右衛門の「俊寛」。悪逆非道な清盛も痛快である。

 国立劇場が、十月から充実した狂言立てで、存亡の危機にいる歌舞伎を支えている。  十一月の第一部は、『平家女御島ー俊寛』。言わずと知れた近松の作だが、ミドリで出るときの二幕目「鬼界ヶ島の場」に先だって序幕に「六波羅清盛の場」を出している。  歌舞伎ならではの楽しみに役者の変幻がある。  今回、清盛の場で、吉右衛門が悪逆非道な清盛を演じ、鬼界ヶ島では、清盛に流された清廉な俊寛となる。  同様に、菊之助は、一幕目、言い寄る清盛をはねつけ自害する東屋を演じ、二幕目では瀬尾の横暴

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【劇評181】平成歌舞伎の精華。菊五郎の『魚屋宗五郎』に秋風が感じられる。

 私が本格的に歌舞伎の劇評に手を染めたのは、もちろん、昭和ではなく平成になってからである。  書き始めた頃は、勘三郎や三津五郎だけではなく、先代芝翫、先代雀右衛門や富十郎も健在であったから、顔見世や襲名で大顔合わせになると、「昭和歌舞伎の残映」という言葉をたびたび使った。  なぜ、こんな話をはじめたかというと十月の国立劇場、第二部の『魚屋宗五郎』は、「昭和歌舞伎」とはいかないが「平成歌舞伎の精華」といいたくなるほどの出来映えであった。  『魚屋宗五郎』は、菊五郎の宗五郎

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