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尾上菊之助の春秋 その壱 春

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尾上菊之助さんの話題が中心のマガジンです。筆者の長谷部浩は、『菊之助の礼儀』(新潮社)を以前、書き下ろしました。だれもが認める実力者が取り組む歌舞伎、その真髄について書いていきま…
有料記事をランダムに投稿します。過去の講演など、未公開の原稿を含んでいます。アーカイヴが充実すると…
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#玉三郎

歌舞伎に未来はあるか、断崖にいる私たちについて考えたこと。

歌舞伎に未来はあるか、断崖にいる私たちについて考えたこと。

 大阪では、医療が緊迫している。東京も明日はどうなるか、わからない。

 ロンドンやニューヨークの大劇場が、閉鎖を強いられているなかで、日本はかろうじて綱渡りのような公演を続けてきた。

 感染者数や死者が、加速度的な上昇にまで至らなかったこともある。また、GO TO TRAVELや五輪との整合性を取るために、移動や大規模公演を認めざるを得なかった政府の方針もあるのだろう。

 けれども、第四波が

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玉三郎と菊之助に何が起こったのか。伝承のさまざまなかたち。



 伝承には、さまざまな形がある。

 名だたる家に生まれた歌舞伎俳優にとっては、師匠であり、親でもある父との共演がまず、なにより先立つ。歌舞伎の配役は、なかなか一筋縄ではいかないが、一般に親は子を子役として使う。祖父の意見が大きく左右することもある。
 次第に長じてくると、立役の親は、子を女形として、自分の相手役として使う。音羽屋菊五郎家も、このやりかたで、菊之助を育てた。つまりは、菊五郎

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【劇評194】菊之助代役の『日本振袖始』。創世記の神話にふさわしいだけの大きさが備わっていた。

【劇評194】菊之助代役の『日本振袖始』。創世記の神話にふさわしいだけの大きさが備わっていた。

 コロナ渦の影響で、玉三郎から菊之助に替わった『日本振袖始』を観た。急な代役にもかかわらず、舞踊としての高い水準を保っている。

 幕が開くと深山の趣。甕が八基並び、上手には瀧。妖気漂う絵で、演出家としての玉三郎の美意識が緊張感を生む。

 まずは、梅枝の稲田姫の出がいい。村人たちに囲まれて生贄に捧げられる姫の純粋さ、哀れさが一瞬にして伝わってくる。澄み渡った心境、自己犠牲の哀れ。役がまとう雰囲気

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菊之助は、玉三郎の代役、岩長姫を誰に教わるのだろう?

菊之助は、玉三郎の代役、岩長姫を誰に教わるのだろう?

 感染者数の拡大とともに、私の身近にも関わりのある人が見つかるようになってきた。
 今日、もっとも驚愕したのは、坂東玉三郎が来月の歌舞伎座、第四部『日本振袖始』を七日まで休演するとのニュースだった。

 日刊スポーツの伝えるところによると「22日に新型コロナ感染を発表した片岡孝太郎(52)と対面で会話をする機会があったため。2人ともマスクをしており、会食などではないという」という。

 国立劇場第

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