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「本」というジャンルから解放された、新しい本のカタチを見た

本の価格は二極化していく。

1つは、徹底的な値引きだ。本の原料の紙の原価は、今後もどんどん上がっていく。下がることはまずない。そして「情報のチャネル」と単に見た時の紙の価値も、競合メディアの台頭でどんどん下がっていく。そうなると、あとは「コストを下げて値段を下げる」しかなくなる。すでにこれは起こっている。ハードとしてのコストカットは、流通を迫り、今後は「EC」や「電子書籍」の方向に向かうだろう。これもすでに起こっている。

もう1つは「本」というジャンルの軛から解放された、新しい本のカタチだ。

先日、青山ブックコミュニティのメンバーと、藤原印刷さんにお邪魔した。教育書・学術書などを手掛けつつも、デザイナーの発注による変わった書籍の印刷を手掛けている会社だった。

「10人デザイナーがいたら、10人違うオーダーをもらう」

新たに増えている仕事に「デザイナーの書籍」があるそうだ。そして、デザイナーは自身の世界観を表現するために、ときに書籍の常識を超えたオーダーをもらうことがあるという。

・黒地にマゼンダ印刷
・ページごとで違う紙の冊子
・白地に白字印刷で奥行きを実現
・使用済み段ボールを使う
・バッグの素材を使う

従来の印刷会社では、こうした”無茶振り”にこたえるのが難しかったという。だが、この業界では後発だった藤原印刷では、あえてこれにチャレンジし続けた。

「無理です」と最初から答えたくありませんでした。印刷業界の経験がなかったから、無理とか先入観がなく取り組めました。応えているうちに「藤原印刷だったら、なんでもできるよ」という口コミをもらうことが増えてきました。

従来の印刷会社では難しかった尖った本は、安い本ではないが、クリエイターのファンや、海外ではすぐ売れてしまうそうだ。オーダーメイドの場合、作り手側の気持ちが違ってくる。だから「●円だから買う」を超えて、値段ではない価値訴求で、お客さんが付いてくる。

藤原印刷でデザイナーさんが作る本は、著者さんが値段を決めています。従来の出版だと「1円でも下げる」という発想になりますが、藤原印刷では、コストから逆算した価格ではなく「価値」に基づいて価格を決めてもらうようにしています。

1冊でも多く売るより、狙った層にちゃんと届けたい。実際に、普段は本を買わない人に買ってもらえているそうだ。

本を出して儲けるではなく、本を出すことで儲ける

デザイナーにとっては、本を出すのは、儲けるのではなく、自身の活動やビジョンをより解像度高く表現するための手段だ。

だから「コストを下げる」ではなく「より表現する」ことに、印刷や表現を振り切ることができる。そこから生み出されるものは、出版不況という閉塞感から解放された新しいクリエイションだ。

藤原印刷さんへの訪問は、本、出版、印刷、書店をめぐる、新しいビジネスチャンスを感じる、そんなひとときだった。

(次回予告)

(Twitterもやってます)


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