育児をしながらのキャリア形成には限界があるのか?
二元論で分類されてきた女性のキャリア
緊急事態宣言が延長され、保育園休園も延びる見込みが強くなってきた。こうなってくると、自分の手元の問題、つまり育児と仕事のバランスに悩む時間が増えてくる。
わたしは20〜30代、ずっと仕事をしてきたものの、「バリキャリ」というほどの学歴や職歴があるわけではない。遅いキャリア形成のスタートに慌てて、ハードワークとスタートアップ企業へ潜り込むことで経験を近道し、なんとか40代の今でも仕事にありつけている。そういう状況だ。
一方、わたしが取り得たルートのもうひとつであったのが「ゆるキャリ」の道だった。40歳を目前に子供を妊娠したとき、わたしは大企業に所属しており、このまま在籍していれば産休・育休はしっかり取れる見込みだった。だが、育休から復帰したときの想像ができなかった。
見聞きする範囲でいうと「子育てする母親を差別せず仕事を任せる」という名目のもと、実際は家族や夫のサポートをフル活用して働く女性の姿があった。それが難しいのであれば、「ゆるキャリ」として時短でアシスタント的な業務に就くのが現実的なところだ。
言い換えると、実家や親戚のサポートが得られないのであれば、「マミートラック」に乗らざるを得ない未来しか描けなかった。そしてわたしは当時の会社を辞め、何か他の働き方がないか、探すことにした。
「フルキャリ」という概念
会社員を一度降りて、いち求職者になり、自分の求める働き方で求人を探してヒットするのは、「ママでもキラキラ!」「扶養内で稼ぐ!」というような「ゆるキャリ」案件ばかりで、違和感があった。
子供がいてもいなくてもわたしの過去のキャリアは変わらないし、積み上げたスキルがゼロになるわけではない。なのに、「ママ」になり、保育園のお迎えなど時間制約が発生しただけで、急に違うカテゴリへ突っ込まれる。この分断はなぜなんだ、と思っていた。
その後、個人プレーで孤独への耐性と自律が求められる業務委託という働き方に限界を感じていた頃、現在の会社と出会った。そこで教えてもらったのが「フルキャリマネジメント」という本だった。
周囲のサポートを受け「バリキャリ」として仕事を極めるか、キャリア形成を諦めて「ゆるキャリ」としてバランスを取っていくのか、の2択しか見えていなかったわたしにとって、「これは今のわたし自身だ」と思えるアンケート結果がたくさん並んでいた。
この本では、仕事も生活も「Full」に取り組みたい女性のことを「フルキャリ」と定義している。5000人を超える対象者への調査によると、半数以上の働く女性が「仕事も生活も意欲的に取り組みたい」と答えているのだという。まったく同感だと思った。
わたしが取るのは「バリキャリ」でも「ゆるキャリ」でもなく、「フルキャリ」なのだ。迷っていた感情に落とし所が見えたら、自分の進むべき道も見えてきた気がした。
育児をしながらのキャリア形成には限界があるのか
そんなこんなを経て現在、スタートアップ企業で時短勤務をしているが、母親をやりながらのキャリア形成に限界はあるかどうか?という問いに答えはまだ出ていない。なぜならわたしもまだキャリア形成の途中だと自認しているからだ。
40代、昔の自分の価値観で考えると、ほぼキャリアは形作られており、ここからのキャリアチェンジや働き方のシフトは仕事人としてのスローダウンを意味するのだと思っていたが、これが違った。人生80年、約60年間を働くのだとしたら、まだまだ自分のキャリアを積み上げていく必要がある。幸か不幸か、労働年齢も延びている。
わたしは少なくとも娘が成人するまでのあと20年を、社会人として稼いでいきたい。しかも、家族との時間を最優先事項としながら。もしかしたらまた個人事業主に戻るかもしれないし、この情勢で「会社員」という働き方がナンセンスになり、全員がフリーランスとしてプロジェクト型で仕事に関わっていくようになるかもしれない。
疫病が働き方の改変を推し進めていくのであれば、いち労働者としてはその波に乗るしかないのだ。40代になってからのキャリアチェンジやワークスタイルの変更は、正直しんどい。でもこの変化も、前向きに受け入れていこうと思う。
もし現時点で「調子はどう?」と聞かれたら「上々だよ」と答えるだろう。それは自分のキャリアを活かし、家庭とのバランスを取ることができる会社との縁に恵まれたからだ。転職や就職は縁がすべて、とはいえ、黙って座っているだけで縁は紡がれない。そして自分で掴んだ縁であればあるほど、自分に自信が持てるのではないか。そしてその自信が、自分のキャリア形成のさらなる後押しをしてくれるのではないか。
まだまだ育児をする労働者としての道は長く、たまにうんざりするときもあるけれど、楽しいことだってたくさんある。「フルキャリ」のようにそれを後押ししてくれる概念もどんどん出てきている。
辛いこともあるけれど、辛さを感じるとき、新しい痛みが生まれ、痛みを解決するために様々な事業が生まれる。つまり、チャンスがこれからたくさん生まれるのかもしれない。(そうだと思っていないとやってられない、という面もあるが、)今はそんなふうに考えている。
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