ちょっと脱皮できた2021年(会社編)
2021年を振り返ってみて、一言で言うと、「脱皮」の年だった。
Natureのプロダクトでは、Nature Remoは累計販売台数が40万台を突破したものの、念願の電力小売事業への参入となったスマート電気の方は、サービスローンチ直前にまさかの電力市場の沸騰。そこから軌道修正を加え、年末にはようやくなんとか軌道に乗り始めた。
Nature自身では、リブランディングで会社のロゴや製品のデザインを一新したり、ビジョンやバリューを明文化したり、オフィスも心機一転で横浜に引っ越した。組織周りでも、自由でフラットなホラクラシー組織の原型を作ってきた。
そんなこんなで年始を迎えたわけだが、兎に角、人が足りない!!ということで、よく転職候補者の方から聞かれる、以下のようなポイントにも触れつつ、2021年を振り返りたい。書いていたら、長くなったので、個人の振り返りの話はこちらに。
・電力小売事業って大変なことになってなかったっけ?
・電気ってよく分からない。業界で何が起きてるの。
・Natureは結局何をやろうとしているの?
・Natureって、ハードウェアの会社じゃないの?
現在募集中の職種はほぼ全てだが、一応募集ページのリンクをご紹介。
まさかの電力市場価格の沸騰
2021年1月15日、日本卸電力取引所(通称、JEPX)のシステムプライスは、250円/kwhを超えた。
2020年12月15日頃から、徐々に上がり始めた電力市場価格は、関係者が度肝を抜く高値を記録した(それまでの、JEPXの価格は、10円/kwh以下の低水準で推移)。
その頃Natureでは、新メンバーで電力小売のエキスパートのミスターチャン(劉)が加わり、開発側は開発をリードしていたキッツ(北原)を中心としたメンバーで怒涛の勢いで電力小売市場に参入すべく準備していた。しかも、電力市場価格に連動したプラン1本で。
それまでの電力市場価格には、低水準で遷移しており、市場価格に連動させることが顧客にもNatureにとってもメリットがある、Win-Winのプランのはずだった。さらに、市場価格に連動させることは、顧客が電気をより安い(つまり、供給に余裕がある)時間で使うように動機付けできることが、電力需要の平準化にもつながるはずだった。
その図式が市場価格の高騰で一気に崩壊する。
予定していた2021年3月1日のサービスローンチは、あまりにも時間がなかったので、やむなく市場価格連動一本のプランで突っ走った。電力価格の高騰は突然の事故のようなもので電力市場の設計上の課題も露呈されていたので、そこまでの価格高騰が継続的に発生することはないだろうと信じて。
結果、いくつものメディアに取り上げてもらったにもかかわらず、初日の申し込み数は、なんと
たったの2件。
甘かった。
顧客の反応は、僕らの希望的観測より遥かに辛辣なものだった。これは、まずい。すぐに次なる打ち手が必要だった。
2021年3月7日、旧電力会社より高い場合は差額を補填するという価格上限を設定した。
まだ反応は鈍い。話がややこしすぎた。
2021年5月18日、遂に固定価格のプランをリリース。同時に、「スマートエコモード」という既存のスマートリモコンと連携できるサービスも投入した。スマート電気とスマートリモコンを連携することで、電気の需給が逼迫した時に、お客さんにポイント(のちにAmazonギフト券と交換可能)を付与する代わりに電気の温度を自動でそっと調整させてもらう(逼迫した状況が終われば自動で元に戻す)ということが可能になった。
ここで一気に風向きが変わった。
これまで苦労していた顧客獲得が徐々に実績に現れ始めた。それから、半年間の試行錯誤を続けた結果、Natureスマート電気の顧客獲得はようやく軌道に乗り始めている。
逆風の中での資金調達
2021年4月。事業拡大のための資金調達に動き出した。
もともと、電力小売事業をスタートさせた後で、事業拡大の資金を調達することを考えていたが、そのタイミングでの外部環境がとても厳しかった。
2021年1月に電力市場が2016年の完全自由化後で類を見ないほどに高騰した。それを受けて、F Powerが倒産した。そして、ほぼ同時期に電力業界で有望視されていたパネイルの倒産も発表された。
また、Natureとしても当初は、完全市場価格に連動したプランを考えていたが、市場の高騰を受けて、市場価格に連動することに対するユーザーの拒否反応が強く、市場価格連動プランではにっちもさっちも行かない状況になってしまった。そのため足元での獲得状況も芳しくなかった。
そこで数社に声をかけてみたところ、電力小売事業の実績を示してほしいということで、このタイミングの資金調達は断られた。一方で、既存の投資家はNature Remoのこれまでの販売実績とミッション実現に向けて着実に事業を進捗させてきたことを高く評価してくれていた。
そこで、既存投資家との信頼関係に賭けた。
その判断が功を奏して、大和企業投資の後藤さんが先人を切って社内決裁を通し、2.5億円の増資を確約してくれた。そこに環境エネルギー投資の河村さん、中村さん、山岸さんもリード投資家として5億円の出資を決めてくれた。既存投資家の方の協力もあり、スピーディーに僅か1ヶ月で着金まで完了。
それでも、電力小売事業については、色々と厳しい質問を受けた。
その時、説明したのは以下の通り。
・有力な新電力会社の倒産原因ともなった高圧は避け、Natureは低圧のみを対象とすること
・低圧は収益も確保できるし、個人向けであればNature Remoの既存顧客ネットワークとシナジーがあること
・電気調達のマーケットリスクは、相対電源の確保(大きな発電所から直接電気を買う)や(長期的には)再エネ発電所の保有でヘッジ可能であること
電力小売事業には、いろんなチャレンジがあるのは事実だが、Natureの成長ストーリーには乗り越えるべき試練だと信じている。
リブランディング
2021年のNatureにとって電力小売への参入も大きなイベントだが、その他に会社のリブランディングを着々と進めてきた。
Natureには、元々「自然との共生をドライブする」という明確なミッションがあり、そこに資する事業しかやらないというはっきりとした経営方針があったが、それがメンバーが共有するValuesに落とし込まれてなかった。それで昨年は、以下の3つのValuesを定めた(当時のValuesを作った背景もnoteに書いているのでご参考まで)。
1. for nature
Natureは、「自然との共生をドライブする」というミッションをビジネスの力で実現するために存在している。全てのメンバーが一丸となりそのミッションの実現を最優先して行動する。
2. Creativity
"自然との共生"というのは、人類にとって重要で大きなテーマだ。好奇心とハングリー精神を持って学び続け、創造的な思考と行動をもって、前例のない革新的なアプローチでその大きな課題に粘り強く挑む。
3. Liberty
管理より自由を、ルールより文脈を。我々は、メンバーを信用し、裁量や情報を十分に与えることで、オーナーシップが芽生え、大きなミッションの実現に必要な成果に繋がると信じている。
Valuesの明文化の後に、会社設立当時に僕自身が考えたNatureのロゴ(自然を体現する太陽と海を形にしたもの)をデザイナーのKitにコンセプトは継承しつつもよりスタイリッシュに仕上げてもらった。それに合わせて、Kitの提案でHPを含めてNatureのブランドデザインを一新した。ハードウェアのパッケージなど幅広くプロダクトラインがあり、ようやく一巡して新デザインで統一できたところだ。
さらに、うちのメンバーの友人経由でプロのコピーライターにNatureのビジョンのコピーを仕上げてもらった(ビジョンのコピーは以下の通り)。本当にしっかり創業ストーリーやプロダクトへの想いを汲んでコピーに落とし込んでもらえて嬉しい。
自然とつながるテクノロジー。
自動運転、リモート医療、AIロボット。
新しいテクノロジーは、人と人を、人とモノをつなげていく。
だったらテクノロジーで、人と自然もつなげられるはずだ。
例えば、
太陽エネルギーで暮らす家が増えれば、
この世界はもっと便利になる。
季節や天気にあわせて、家電を動かすことができれば、
今日がもっと豊かになる。
そうやって人は、
自然とつながることで、心地よく生きていける。
さぁ、未来へ進もう。
ヨットが帆を張るように、自然を全身で受けながら。
最後は、Natureのオフィス移転だ。
元々、採用しやすい場所ということで渋谷や恵比寿にオフィスを構えていたが、昨今のリモートワークの流れもあり、オフィスがどこにあるべきかを考えていた。
その時、メンバーのうーみー(海原)が、「なんで、Natureなのにオフィスが渋谷なんですか?全くNatureっぽくないですよね」と言われ、その言葉に背中を押されて、もっと自然の近くに移転することになった。本当は、鎌倉くらい自然に囲まれた場所が良かったんだが、メンバーの反対もあり、港町・横浜でおさまった。
移転に際しては、これまでの経験をふんだんに生かして木下さんが完璧な仕切りをしてくれて助かった。僕は、ほとんど書類仕事しかしてないので頭が上がらない。
ホラクラシーへの挑戦
大学院を卒業して、三井物産に入社する前に自分の中で決めていたことが1つある。
それは、従業員の立場でどんな会社で働きたいかを徹底的に考えること。
自分は将来起業するのでこれが人の会社で働くのは最初で最後の経験になる可能性が高い。なので、この機会にそこはしっかり見極めたいと思っていた。
3年で辞めるつもりで入ったけど、結局6年いることになった。その結果、僕の「従業員の立場でどんな会社で働きたいか」という問いに対する答えは、「任せてくれる会社」だ。
また、大企業で働いてみて、意思決定の所在が適切でないと感じることも多くあった。意思決定というのは、その企業の中でもっともその決定に適した人がやるべきだと思うのだが、そうなっていない実態をまざまざと見せられた。
そんな苦い経験をしていたので自分で会社を作るときは、自由で適切な権限委譲がなされているフラットな会社を作りたかった。
それをいちばん体現している組織体系が何かということを考えた時に、それはティール組織であることは自明であったし、その中でもホラクラシーという組織形態が今までやってきてたスタイルにも親和性が高いことがわかった(ホラクラシー導入の経緯は以下のnoteにまとめている)。
また昨年末、NatureのCultureについてまとめたCulture Deckを作成した。手がつけられていなかった福利厚生の充実化にも着手し、Natureらしいところで言えば、「自然アクティビティへの費用支援」も入っている。個人的には、雨の日リモートDayもやってみたかったんだが、今はそもそもコロナによる時代の変化でリモートとオフィスワークの併用がベースとなっているので、制度にあまり意味がなくなってしまった。
エネルギー革命とNature
僕たちは、大人になると、日々の生活に終われ、世の中を現実というスナップショットで捉えがちだが、一歩引いて今を考えてみたい。
前段で紹介したホモ・デウスの著書のハラリ氏は、サピエンス全史の中で人類がこれまで経験してきた飛躍を「認知革命」「農業革命」「科学革命」という切り口で分けている。
認知革命が起きたことで認知的能力に大きな変化が生まれ、物語を語れるようになった。農業革命により、安定的な食料確保が可能になり、人口が爆発的に増えた。今まさに現在進行形で起こっている科学革命により、基本欲求を満たされている人口が増え、人類が生まれ変わろうとしていると言う。
科学革命に関しては、これまでの情報革命から今、エネルギー革命の時代を迎えようとしている。エネルギーの供給源が化石燃料から再生可能エネルギーにシフトすることでより安定的なエネルギー源を確保できるようになり、これまで多くの国が争ってきたエネルギー争奪戦の争いから解放される可能性も大いにある。
かつての情報革命がそうだったように、再生可能エネルギー主体のインフラは現状のものと大きく異なる。効率を重視して一箇所に集中して発電し、それを分配していた従来のモデルから、発電リソース自体がより分散化され、需要に近いところで発電されるモデルへとシフトしていくであろう。
今、大きなトレンドとなっているオンサイト発電といのは、需要地で発電するというものだ。火力発電と違い太陽光のような再生可能エネルギーはルーフトップに置けるくらいの小型化が可能であり、需要地での発電と相性がいい。
一方で、再生可能エネルギーの欠点は、それ単体では電力需要を賄いきれないところにある。再生可能エネルギーの発電では、発電量を自由にコントロールすることが難しく(特に、太陽光や風力)、電気を貯めることができる蓄電池とセットで考える必要がある。そこには、今後、各家庭に普及するであろう電気自動車の蓄電池としての活用が期待される。
再エネ時代の電力供給モデルでは、発電と消費をセットで考える必要がある。戸建ての太陽光であれば、日中発電された電気を家にある電気自動車で吸収して、夜間に使用することになる。地域にある風力発電であれば、余った電気を家庭の電気自動車で吸収して、足りなくなった時に家庭や電力ネットワークに供給することなるだろう。
Natureでは、再エネ普及のために必要な電気自動車の電池を活用したエネルギーマネージメントを今後の主力事業と位置付け、EVステーションと呼ばれる家庭向けの電気自動車のエネルギーマネージメントデバイスも開発予定だし、既存のNature Remo EというHEMS(Home Energy Management System)デバイスでも既存のEVステーションともう間も無く連携可能となる見込みだ。
今後は、家庭向けの電力事業をリデザインし、再エネ100%の世界の実現を目指すという目標に向かって日々邁進している。将来的には、国内だけではなくて海外でもチャレンジしたい。
最後に
このNatureの構想を全て実現できている頃には、おそらく大企業と呼ばれる規模の会社になっている必要があるだろう。それに比べて、足元ではわずか正社員30人程度・・・・。
つまり、激しく人が足りていない。
Natureは、スマートホーム製品のNature Remoを作っているので、ハードウェアの会社であると思われている。だが、実際にプロダクトチームの過半数はソフトウェアエンジニアだ。
IoT製品の開発においては、もちろんものによるが、ファームウェア、サーバー、スマホアプリ、機械学習などソフトウェアの開発の方が圧倒的にヘビーな場合が多い。Natureでも、ハードウェアのエンジニアは電子回路設計と機構設計の2人。一方でソフトウェアエンジニアは、7名在籍している。
また、ソフトウェアの開発環境もサーバーサイドは、GolangとAWS、スマートフォンアプリはReact Native、ファームウェアはC(今後Rustも使う予定)となっており、一般のWebやスマホサービスの開発環境と大きく変わらない。実際に、中にいるメンバーもWebやスマホサービスの会社からの転職組が多い。
ぜひ、これを読んで興味を持ってもらったソフトウェアエンジニアの方には、カジュアル面談でお話をさせて欲しい(もちろん、他の業種も含めて全方位で採用中なので、他の業種の方もぜひ)。
PS. 実は、この1月からCo-founderのMashさん(大塚)がNatureに帰って来てくれた!その話はまた別途本人から!
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