いじめは凶器2【小説】

いじめ問題は深刻だ。あらゆる手を考案して実行してきたが、いじめは無くならない。しびれを切らした政府はいじめ対策基本法に『いじめっ子と体罰教師を抹殺する』ことを追加する意向を示している。まず、社会実験として主人公は辞令でこのプロジェクトに参加することになったのだが・・・


理部化学省

私の名前は斎藤治郎。53歳。省内の教育改革課の総括課長補佐をしている。いつものデスクで報告書をまとめている所である。小さい頃からいじめられていた。中学生の時に教育改革をしてみたいという大きな夢を持ち、国家公務員を志望した。東大に入った。第一志望は教育に関わる理部化学省にした。なんとか内定を貰って、自身の希望で教育改革課に配属して頂いた。

私が入庁したての頃は教師による体罰は当たり前で、それが良しとされていた時代だった。苦しむ生徒になんとか助けたいという思いから体罰ゼロに向けて様々な業務に取り組んで来た。エリートコースには乗れなかったが、時間をかけて昇進して、今の役職に至る。いつものデスクで視察に行った学校報告書をパソコンでカタカタ打つ。最近は特に面白みのない毎日が続いている。

いつものようにパソコンに向き合って居ると、総括課長が来た。

「大事な話がある」

神妙な顔で私の目を見た。いい報告では無さそうだ。同じフロアの近くの会議室に入った。いつも殺風としている。

「特別任務だ」

と言いながらタブレットを渡された。そこには『辞令:西中学校の教頭に任命する』と表示されていた。西中学校と言えば元理部化学大臣で現総理の娘さんが先生をしている学校だ。省内では噂になっていた学校だ。皮井なんとかという先生で間違い無いだろう。彼女も西中学校出身ということで勤務しているらしい。その学校の教頭になる理由が分からない。

「詳しくは、ここに表示しているから」

と言い、足早に出て行った。椅子に座ってタブレットを眺める。半分読み終えた所で、仕事内容が書いていた。

《教頭に就任してから、生徒や教師の行動を監視して、問題のある生徒や体罰教師をリフトアップして抹殺するように。但し、自身では手を下さずに業者に依頼すること。これは政府からの要望だ。新しく法案に抹殺事項を追加するための社会実験です。これは秘密事項です。外部漏れ厳禁》

一通り読み終えた。どうやら重要な任務を任されたようだ。現職の教頭先生にはプロジェクト内容を話して、了解を得た上で、別の学校に転勤してもらったらしい。読み進めると同時に緊張とワクワクが対立してきた。任命は一週間後。

一週間後

西中学校の正門前まで来た。ジャージを着た教師が学校を案内してくれた。光田と名乗った。一通り案内を終えたが普通の学校だ。特別変わった所は無い。しかし、探せば問題を抱えている生徒や教師が居るはずだ。職員室に行き、全教師の前で挨拶をした。数名ほどの教師が拍手をする。私が国家公務員だと言うことは校長先生だけ知っている。臨時の教頭と偽りの身分で仕事にあたった。

「皮井です。よろしくお願いします」

挨拶を終えて案内された前の席に腰を下ろすと同時に皮井先生が個別に挨拶しに来た。この人が総理の娘か。特別話すこともないので、適当に返事を返した。辺を見回したが、見た目は普通の教師ばかりだ。しかし、中身は何を考えているのか分からないから侮れない。

職員室を出て辺を巡回した。まるで警察官になった気分だ。まずは、いじめをしている生徒を見つけないといけない。かといって不自然に目配りする訳にもいかない。たまたま通ったことを装わないといけない。廊下を歩いていると

「おい、弱井!」

という声が聞こえた。見てみると生徒が金を貸している。三千円くらいか?この生徒は問題だ。抹殺リスト行きだな。しかし、名前が分からない。かといって聞くのも不自然だ。

職員室に戻ると同時に皮井先生が着て自身のデスクに座った。一番前の席なので辺を見渡せる。ここはイノベーションするべきだ。いくらなんでも配置が古すぎる。もっと先生同士の感覚を開けたほうがいいな。生徒が入りにくい環境になっている。これでは、生徒と教師の関係を築きにくい。報告書に付け足そう。

すると、男の先生が皮井先生に近寄ってきて

「今日中に仕上げろよ」

そう言い残して男の先生は教室を出て行った。いつの間にか光田先生も居ない。皮井先生がこちらを見た。少し、目を反らした。あの先生の名前が分からないとリストに入れられない。困惑している皮井先生を応接室に呼び出した。

「さっきの先生の名前は?」

「平戸先生です」

「さっき、何かありましたか?」

「ええ、」

皮井先生は平戸先生のことを話した。生徒を殴ったりしている問題のある先生で主任の光田先生も注意出来ないようだ。他の先生も仕事を押し付けられて迷惑しているらしい。抹殺対象だ。

「弱井という生徒はどんな人ですか?」

皮井先生は平松という生徒からいじめを受けていることを話し出した。他に問題を抱えている生徒を聞いた所、三年の平目という光田先生が担任をしている生徒の名が上がった。三人共、平が付く。これは偶然だろうか?皮井先生は平戸先生の抹殺計画を話した。皮井先生も殺したくて仕方なかったようだ。

まずは、平戸先生から抹殺しなければ。

数週間後・・・

「今夜、飲みに行かないか?」

と平戸先生に誘った。平戸先生は嫌な顔をしたが、しぶしぶ許可した。新宿に誘った。赤提灯に焼き鳥と書いている店に二人で入った。そして、左遷の話を持ちかけてみた。それは嘘だ。口からでまかせを言った。

駅に向かおうとしているベロベロに酔った平戸を着けていった。殺害を頼んだ業者が暗闇に連れて行き四人がかりで殴ったり蹴ったりしている。もう死んだだろう。辞めるように指示を出して早急に退散した。

業者に札を渡した。鼻歌を歌いながら札を数えている。病院に確認した所、先生は生きているらしい。すぐに皮井先生に連絡した。

「あいつは生きている。トドメだ」

点滴に消毒液を入れるように指示した。これで平戸はあの世行きだ。あとは、平松と平目という生徒だ。

上野という生徒から平松と平目は堤防によく行くということを聞いた。夜中に、その堤防に行くと二人が居た。背後から二人の背中を強く押した。叫び声と川に落ちた音が聞こえる。

これで任務は終了だ。新しい教頭が見つかったと言い省に戻ることにしよう。これで政府による任務は終了した。その時、辞令に書いていた《但し、自分で手を下さずに業者に依頼すること》の部分を思い出した。自分で殺してしまった。有頂天になり手を下してしまった。これからどうすればいいのか?上司に見せる顔が無い。私は公務員失格だ。

頭がフラフラした。足も同時にフラついて坂から転げ落ちた。そして、死んだ。真のクズが社会から消えた。

〜作者からのメッセージ〜
このお話は「いじめは凶器」の話を教頭先生視点から書いたものです。理分化学省はありません。教育改革課もありません。法案も追加されません。実在する人物も居ません。全てフィクションです。映画とかに出てくる省庁が関わっている物語を作りたいと思い、執筆しました。

植田晴人
偽名。下書き保存を忘れて書き直ししました。イライラしています。