脳内コンピューター【小説】

ごく普通の人は、友達がほしいと思う。
何故かというと、人は一人では生きてはられないかである。孤独は辛いものだ。
今から出てくる話は、実際には起きてはいないが、AIが発達すれば起こるかもしれない。
そう思い著書した。では、ご覧ください。

深夜十時過ぎ・・・
「トルルル・・」
電話機から発せられたら着信音が大阪の某雑居ビルの一室に響き渡った。
白衣に身を包んだ男が受話器を上げた。
「はい、脳研究所の山寺です。」
電話してきた男は四十代くらいの中年である。
右手にメモを取りながら要件を聞き、受話器を元の位置に戻した。
「さあ、忙しくなるぞ!」
白衣の男は独り言を呟いた。
今夜は久しぶりに忙しくなるだろう。
夜は流れて時は過ぎていく。

あれから数週間後・・桜が咲く4月になった。
この時期は出会いと別れの季節。
出会いは運命で別れは必然的・・
多くの学校では、入学式や卒業式が行われる。
今日も大阪の西中学校で入学式がある。
桜の見える教室は新たな新入生を出迎える。

緊張してきたな・・新入生の今山は廊下に貼り付けてあった座席表を閲覧した。
教室は一年C組か、最後の方だな。
C組の教室に入り指定された席に座る。
前の方の席だった。
視力が悪いので助かった。
もちろん、初見の顔の生徒が席に座っている。
もう仲良くなったのか、二人で話しながら入って来るヤツも居たが少数派である。
それもこれも僕にとっては恐怖であった。
本当に友達ができるのだろうか?

そう考えている内に数分がたった。
その時、静まったクラスに担任が入って来た。
「このクラスの担任の山岡です。」
年齢は見た所四十代くらいである。
ザ・教師という見た目からは想像も出来ないハイトーンボイスであった。
しかし、そんな事よりも気になることがあった。
前の席が空いていたのである。
入学式から休む人が気に掛かった。
だんだん、その人に興味が湧いてきた。
休んでいる人にプリントを渡す理由を付けて、その人の住所を担任に聞いた。

彼の名前は今川と言っていた。
僕は入学式が終わり、自宅に戻り自転車を走らせた。
メモに書いてある住所に向かった。
自転車を漕ぎ続けて十五分くらいした所で彼の家を見つけた。
正直に言ってボロくさい家だなと思った。
僕は彼の家の古いインターホンを鳴らした。
「どなたですか?」
少し機嫌の悪い中年の女性の声がした。
直感的に母親だなと思った。
「あ、西中学校の今山です」
「今川くん居ますか?」
二言続けて聞いてみた。
「達夫の同級生?」
そこで始めて今川くんの名字を知った。
「はい、そうです!」
少し元気目に返事した。

それから数十秒ほどしてドアが開いた。
出て来たのは想像していたよりも綺麗な母親であった。
彼の母親に連れられて二階の部屋まで来た。
ここが達夫くんの部屋か・・良く言えばアンティーク風な小さなドアが設置している。
「達夫くん!今日、入学式の日だよ。」
ドア越しで中に聞こえる様な声で話した。
「誰?」
始めて聞く彼の声は僕を安心させてくれる声であった。
緊張のせいか、自分の名前を最初に言う事を忘れていた。
少し空回りしながら
「僕は同じクラスの今山だよ」
と言った。少し間があり、
「名前、似てるね」
と彼の返事を貰った。
僕は予想もしないコメントに戸惑ったが、
「そうだね、担任からプリント渡されたよ」
透明ファイルの中にある数枚の紙を確認し、話してみた。
「部屋、入っていい?」
と続けて聞いてみたが
「悪いけど、部屋では一人で居たいんだ」
と言われた。
変だなと思いながら
「プリントのファイル、床に置いとくね」
と言い、フローリングの床に数枚の紙を置いた。
ふと腕時計を見ると六時を過ぎていた。
早く帰らないと怒られる。
「じゃあ、また明日、学校でね!」
そう言い残し、母親にお礼を言って家に帰った。
これが僕の人生の分岐点であった。
今日は緊張と疲れで早く寝た。

日が昇り次の朝が来た。
「チチチ・・」
朝の騒音、目覚ましの音で起きた。
入学してから二日目の朝、本格的な学校生活が始まる。
食事をして、早歩きで学校に向かった。
今日は今川くん来ているだろうか?
そう思いながら教室に入ったが、今日も来て居なかった。
中学校に入り、初めての授業を終えて、早くも、放課後になった。
授業内容よりも彼の事が気になったので、今日も彼の家に向かった。

家に着き、自転車を置いて家に上がり、ドアの前にたった。
「今川くん、どうして学校に来なかったの?」
心配で心配で、この胸がいっぱいだった。
「ちょっと体調が悪くて・・ごめん」
シンプルな返答は返って納得させる。
「今日、始めて授業があったんだよ」
今日の出来事を鮮明に話そうと決めた。
「へーどうだった?」
ぶっきらぼうな言い方だが、興味が湧いてきたらしい。
「一番良かったのは担任の授業かな」
山岡先生は理科の担当だ。
「なにが良かったの?」
昨日よりも、口調が柔らかになっていた。
「ダジャレ言って、滑ったり」
今日一日の密度の高い話をした。
前よりも長く話をした感じが妙に気持ちよかった。

いつものように朝起きて学校に行き、その日の事を今川くんに話す日々が続いた。
同じ毎日を過ごしているせいか、時の流れは恐ろしく早く過ぎて一年が経過した。
しかし、いくら慣れあった同士でも部屋の中に入る事は許されなかった。
僕は、それが唯一の不安であり、心配でもあった。
どうして開けてくれないのだろう?
そう思い、心は重い扉を閉じ込めてしまう。
そう思い始めて数日たったある日、彼の家に来た。
いくら我慢してもしきれないぐらいに、ドアを開けたい衝動に駆られた。
ついに、僕はドアを開けてしまった。

中を見てみると・・・
奇妙な物を目の当たりにして声を発する事さえも出来なかった。
部屋の中は薄暗く、中心には天井からライトが照らされてガラスに包まれた筒の中には、人間の脳が剥き出しで回転していた。
その光景を目にした僕は自分の脳から彼と過ごした思い出が、ガラスのように砕け散り消えていった。
恐怖心や罪悪感が混じり合い、走って階段を降りた。
その時、母親とぶつかったが気にせずに家を飛び出した。
「ちょっと待って!」
という母親の声が聞こえるが、その場から走って逃げ出した。
行く先が無い人のように彷徨いながら思わず涙を流して走った。
いつの間にか交差点の真ん中を走っていた。
「止まれ!」
「やめろ!」
という通行人の声が聞こえたが無視して走った。
信号が青に変わった。
横から車がクラクションを鳴らしてこちらに来る。
そう思った瞬間、意識が遠のいていった。
彼はあっけなく人生を終えたのである。

静かな自然のある病院・・
医師
「珍しい、脳に傷は無いようです。」
今山の父親
「亡くなったので喜べません」
白い布に覆われた体を見ると涙が溢れて来た。
落ち込んでいると霊安室のドアが空いた。
白衣を着た中年男女、二人が入ってきた。
「そうですよね、彼の脳を私に提供してくれませんか?」
突然、博士らしき人が言った。
「えっと誰でしたっけ?」
父親は不思議そうに聞いた。
「申し遅れました。脳研究所の山寺です」
名刺ケースから名刺を取り出した。
「一年前に依頼した人でしたか!」
思い出した。あの日の事を・・

時は逆上り一年前
今山の父親は、息子に友達を作らせたいという思いがあった。
街を歩いていると一枚のチラシが落ちていた。
「なんだコレは?」
内容を見てみると『絶対に友達を作らせます』という意気込みが書いてあった。
「脳研究所、山寺まで・・」
意味深ながら電話を掛けた。
「息子に友達を作らせたいのですが・・」
ひと通りの内容を話した。
「はい、分かりました」
「絶対に出来ますよ」
と山寺博士は念を押した。

あれから一年がたった。
まさか、こんな事になるとは・・
「あの、今山くんの脳が欲しいのですが・」
山寺はすまなそうに言った。
「なぜです?」
「脳を研究の材料にしたいのです」
少し悩んだ。
「もちろん謝礼させていただきますので」
と山寺は頭を下げ、土下座した。
「仕方がないですね分かりました」
少し悩んだが承諾をした。
そして、数日後・・

脳研究所では新人カウンセラー研修が行われていた。
「カウンセラーの皆さん、お集まり感謝します」
山寺は十数人のカウンセラーの前に立ち、演説した。
「今回の授業のテーマは、友達の大切さです」
近くにいる助手に例の物をと言った。
透明ガラスに入った脳を運んできた。
「コレは研究サンプルだ」
「彼には名前が付いている、その名は、今山くんだ。」
周りを見渡し、
「君、ちょっと来なさい」
と指を指して、新人カウンセラーを前に呼び止めた。
「彼に話しかけてご覧」
と指図した。
「なにか、あったの今山くん?」
カウンセラーというものは優しく声を掛けることが大切だ。
「大切な友達をなくしたんです・・」

終わりに・・・
友達とはなんだろう?
一度、距離を置いて考えて欲しい。
もしかしたら、読んでいる中に会ったことのない友達は居ませんか?
その人はもしかしたら、もしかするかもしれませんね。

植田晴人
自称ブロガー、趣味は短編小説を書くこと。
YouTube好き。最近はスマホ中毒です。
書いた短編小説は計15作以上