呪われたクラス2【小説】

2001年3月8日

彩。今年も春が来たよ。桜がキレイだ。君は桜より美しい。墓地と桜は妙に似合っている。ここに君が眠っているとは感じたくないけど事実は変わらない。目を瞑り、数珠を付けた手を合わせる。君のことを愛して愛してやまない。亡くなった今でもあの日を忘れない。心を落ち着かせる為に深呼吸すると同時に自分が置いた線香の匂いがする。

周りは静かで、鳥の音だけがする。供えた花が風に揺られた。音が微かにした気がする。君が亡くなってから12回目の春が来た。君と居た時間が長く感じたからか、君が居なくなってからの時間が経つのは速い気がする。あっという間に時が過ぎて21世紀になった。

ー21世紀ー

15年前のことを思い出した。

〜15年前、大学時代〜


講義が終わった彼女が居た。私は長い廊下で待ち伏せをしていた。この彼女の講義が終わると一時間の休みがあることを知っている。話しかけるタイミングを狙っていたのだ。

「彩、講義終わった?」

「やっと終ったー」

「聞きたいんだけど、1999年に世界が滅びるって本当かな?」

「ノストラダムスの大予言?桜山さんは信じているの?」

「いや、21世紀は来ると思う。今より未来は明るくなってると思う」

「私は未来がどうなるか分かんない。でも、21世紀になっても桜山さんと一緒に居たい」

そう言い二人は笑った。付き合いたての二人は未来を語った。22歳の私は就職先が決まっていた。来年には高校の教員になる。3つ下の彼女は小杉彩。19歳。大学のテニスサークルで知り合った。彼女も同じ教員になりたい夢がある。同じ夢を語り合う内に仲良くなって、次第に付き合うようになった。彩は勉強に熱心だった。何事にも真っ直ぐで、嘘を付く人が嫌いだった。そんな彼女に惚れた。そして、自分自身に嘘を付かないと誓った。

この当時は未来が明るかった。経済的・社会的な意味でも自分の未来が輝いていると思えた。若いながら生きる意味が彼女と居ることで分かった気がする。そして、大学を卒業してから高校教師になった。学園ドラマのように行かないけど、それなりの生活を送っている。夢も理想も現実の壁にという壁に当たってきた。でも、乗り越えてきた。何度も死にたいと思ったことがある。でも、その分生きたいと思った。

人生は何があるか分からない。三年後、彼女も同じ高校の教師として赴任してきた。担当教科は国語。その時は嬉しいという言葉しか出ないほど胸に感動を感じた。こんな幸せなことがあるだろうか?しかも自分が担任をしている三年のクラスの副担任になった。初めて担当したクラスの副担任になるなんて最高のパートナーだと思った。これは偶然か?それとも必然的なのか?これは予想だが、彼女は自分から、私が働いている学校の教師になりたいと希望したと思う。

人生の中で幸運を使い果たしたせいか、事件が起こった。卒業式前夜、彼女の乗った車が交差点の真ん中でパンクした。そして彼女はトラックと衝突して亡くなった。最愛の人を失った。私は思った。これは単なる交通事故じゃない。

殺されたのだ。

誰に殺されたのか分かっている。私のクラス生徒の仕業だ。卒業式前夜、この目でクラスの問題児が彼女の車をパンク寸前までしているのを見た。止めようとした時、生徒が逃げた。彼女が来たのだ。そして彼女は車に乗って走り出したので、止めることが出来なかった。

あの時、止めれていたら未来が変わっていたかもしれない。


卒業式当日・最後のホームルーム


胸に花を付けた生徒が別れの挨拶をしている。黒板には「卒業おめでとう」とデカデカとチョークで書かれている。泣いている生徒も居る。

「昨日、小杉先生が亡くなった。理由は交通事故だそうだ」

私は話を続ける。

「お前ら、小杉先生は本当に交通事故で亡くなったと思うか?」

みんなの目線がこちらに集まった。泣いている生徒も泣き止んだ。お喋りしていた生徒も黙った。

「黒山どう思う?」

「先生、そう思いたくない気持ちは分かります。でもこれは不慮の事故です」

「そうか。このクラス目標覚えているよな」

「宮前、言ってみなさい」

「噓を付かないことでしょ!桜っち先生」

「そうだ。お前ら嘘を付いてないだろうな?」

そう言うとクラス中が静まった。教壇からよく見える。明らかに嘘を付いているが黙っている。目線を反らす生徒が多数をしめた。私には分かっている。必死に姿を消そうとしている問題児たちよ、お見通しだ。この事が私の頭に火を付けた。もう、高校生じゃない。生徒たちも立派な大人だ。罪の欠片も無いのか。止める生徒は居なかったのか?全員グルなのか?提案者は誰なのだ?

ーこいつら全員殺してやるー

亡くなった数週間後、彼女の墓の前で誓った。それから卒業したクラスメイトたちを理由を付けては呼んで殺していった。川に落としたり、田んぼに落としたりとか殺し方は様々。高校を卒業したら家を継ぐのが当たり前で、ほとんどの生徒が地元に居たので殺しやすかった。ただ黒山と宮前は東京に行った。目撃情報も少なく、警察の目も上手くごまかした。

あの事件から10年後のこと。ほとんどの生徒を殺したが、二人だけ残っている。黒山と宮前だ。そう思っているとポストに一枚のハガキが届いていることに気付いた。そこには『1989年度同窓会のお知らせ』と書いていた。

幹事は黒山。そうか、東京に行った黒山はクラスの生徒が宮前と黒山以外殺されたことを知らないのか。多分、宮前だけ来るのだろう。あいつら仲良かったからな。これは絶好のチャンスだ。あと二人だけ始末してなかった。場所も地元の居酒屋だし、馴染みの店だ。

同窓会が開かれる前日に盗聴器を机の下に仕掛けた。どの席に座るか分かる。黒山は模範解答みたいな生徒だから、一つだけ仕掛けとけばいい。彩も、生きていれば同窓会に呼ばれて、この居酒屋に来たはず。そう思うと二人を早く殺したいと思った。

それから当日を迎えた。自家用車の中で会話を聞いていた。案の定、二人だけ来ていた。二人は嘘を付いている。二人に会い、どうせ殺すのだから自白した。嘘付きは嫌いだ。そして帰り際に二人の頭をコンクリートブロックで殴った。そして、二人は死んだ。


二年間を経て現在に至る


目を開けて、数珠を閉うと同時に、鞄から89年度の卒業アルバムを出した。線香はもう消えている。当時、自分が担当していたクラスのページを開く。自分以外の人の顔写真の上に赤ペンでバツが付いている。ジグゾーパズルのように埋まっていくページ。最後のピースがハマっていない。それは自分自身だ。

一枚の桜の花びらがアルバムの上に落ちた。その花びらは宮前美月の顔写真の上に落ちた。この生徒は唯一私のことを慕っていた生徒だ。馴れ馴れしく呼ぶ生徒は、教師としては注意しないといけないが、悪い気がしなかった。あの事件から担任を持つことが何回かあったが、このような素直な生徒は宮前しか居ない。嘘を付いたこと以外は彩に似ている。死ぬ前に寄りたい所が出来た。


地元の市役所に出向いた。ここに来るのは久しぶりだ。二年前の事件の時以来だろうか。自動ドアが開くと正面に受付の人が居たので話しかけた。

「宮前さんに会いたいのですが・・・」

「市長に、どのようなご用件でしょうか?」

市長?市役所の職員だったような気がするけど。まあいい。

「桜山さんが来ましたと伝えて貰えれば分かると思います」

そう聞いた受付の人は、足早に椅子から離れて聞きに行った。数分後、元の席に戻って来た。

「三階の市長室にお上がりください」

と言われた。面会許可が降りたのだろう。エレベーターで三階に上がってエレベーター近くの案内図を見て市長室の前に立った。

三階の端にある市長室の分厚いドアを三回ノックする。

「どうぞ、お入りください」

扉を開けるとスーツに市長のバッジらしき物を付けた宮前美月の父親が立っていた。もう60歳くらいになろうとしているが、若く感じられた。

「久しぶりです。桜山先生」

宮前は真ん中にあるフカフカの黒いソファーに案内してくた。横には大きなアンティーク風の机がある。向かい合って座る。秘書らしき人がコーヒーを持って来てくれた。スケルトンの机に並べる。

「市長になられたんですね」

「他にする人が居なかったからですよ。半分押し付けみたなものです」

私はコーヒーを飲んだ。

「こうして二人で話すのは娘の事件以来二年ぶりですね。あの時はまだ市長になる前でした」

「その娘さんのことですが」

これまで細かった宮前の目が少し開いた。

「桜山さんも知っている通り、娘は誰かに殺されました。悔やんでも悔やみ切れません」

「父親として、なぜ殺されましたと思います?」

顔が少し険悪になった。心を落ち着かせるためかコーヒーを一口含んでいた。コーヒーカップを置く手が震えているのが分かる。

「なぜそんな事を聞く意図が分からないが、娘は殺されるようなことはしていない」

「私は美月さんとあの事件の当日、同窓会で会いました」

「何が言いたいんだ?」

「殺したのは私です」

驚いて止まっているように感じた。明らかに絶句している。開いた口が塞がっていない。その時、時間が止まった気がした。

「ふざけるのもいい加減にしろ」

「ふざけてないです。本当に殺しました」

怒りを通り越したのか、呆れ返っている。困惑して視点が定まっていない。

「私が担任をしていたクラス生徒全員殺しました」

「市役所で噂されていた呪われたクラスの犯人は君だったのか。なぜ殺したんだ?」

「理由は副担任です」

「確か交通事故で亡くなった人だと聞いた。それが理由なのか?」

「それは事故じゃなかったんですよ…」

副担任が殺された話をした。それが私の彼女であることも。話していると頭が整理させる。そして当時の嫌な記憶も同時にフラッシュバックする。全部話し終わると

「やったのはクラスの問題児だろ。娘は関係ないじゃないか」

「彼女は嘘が嫌いだった。そして、クラス目標も嘘を付かないことにしました。それでも生徒全員嘘を付いた。あなたの娘さんもです」

「私は気が狂ったのでしょうか、全員殺したいと思ったのです。いわゆる復讐です」

「どうしてそのことを伝えに来たんだ?」

「私は最後のピースをハメるために死のうと思います。これで呪われたクラスは結末を迎えます。その前に宮前さんの父親に話したかったのです」

「なぜ私なんだ。他の親御さんでもいいだろう。いや、黙っているのが普通だろう」

「美月さんは私のことを慕ってくれてました。その人を殺してしまった時、罪の重さに気づいたのです。」

桜の花びらが娘さんの顔写真の上に落ちて来たからとは言えなかった。

「それで、副担任だった彼女は天国で喜んでいると思うか?」

「分かりません。でも、私も死のうと思います。そして、天国でもう一度彼女と暮らしたいと思います」

「娘には婚約者が居た。君と同じくらいの年齢の人だ。その人は私が紹介した市議会議員だ。その人の気持ちを考えたことはあるか?他の親御さんの遺族の気持ちもだ」

「失礼ですが、娘さんは本当にその議員のことが好きだったんですか?」

「それは・・・。実は娘は私に反抗してきたんだ。黒山って言う好きな人が居るって」

宮前は泣き出した。同窓会が開かれている居酒屋に入る前に車で盗聴していた事を思い出した。やっぱり黒山の事が好きだったんだな。もう、会話は辞めよう。横目に席を立って市長室から出た。宮前は止めなかった。

どうせ捕まるのだったら死のう。捕まったら確実に死刑。彩にどうしたら近づけるか考えた。問題用紙を作るよりも時間が掛かる気がする。答えが出た。彼女と同じように死のう。そうすれば天国と言う広い世界でも近づけると思う。

自家用車をパンク寸前までナイフで刺した。刺す感触は久しぶりだ。車を生徒に見立てて刺しまくった。車をガレージから出す。ガタガタ音が鳴り運転しにくい。思わず舌を噛みそうになった。彼女が死んだ交差点に差し掛かる。その時、彼女が交差点の真ん中に居た。幻覚?半透明に見える。

間違いない彩だ。思わず急ブレーキを踏んだ。車がストップする。後ろの車からクラクションが聞こえる。ヤジも聞こえる。幻覚であろう彼女の口が開いた。

「や・め・て」

口パクだが、口の動かし方からなんとなく聞こえた気がする。どうしてだよ。涙が溢れて来た。どうせなら彼女と同じように死にたい。後ろからパトカーの音がする。警察官により、たちまち警察署に連れて行かれた。頭が整理されていない状況ながら、これまでのことをすべて話した。彼女の言った通り嘘は付きたくない。すべての真実を話した。

そして数週間後、今は古びた刑務所に居る。コツコツと刑務官の足音が聞こえる。もう悔いは無い。

「もうすぐ、君に会えるね」

鉄格子から少しだけ桜が残った木が見える。その木から最後の桜が散った。

〜作者からのメッセージ〜
このお話は『呪われたクラス』に出てくる先生が主人公になります。今回は彼女を殺した生徒たちに復習する物語です。最愛の人を亡くした主人公は気が狂ってしまった。彼女と同じように死のうと思ったが、目の前に彼女と思われる幻覚が現れた。人生何が起こるか分からない。それが逆に面白い。主人公が最後にどうなるのかはご想像にお任せしましょう。

植田晴人
偽名。最近、シリーズ物を多く執筆しています。