内申点、内心気にしてる。【小説】

学校生活に関わらず、世の中は数字に縛られている。年齢、年収、身長、家賃。知らず知らずの内に数字が絡んでくる。そんな世界は嫌だ。特に数字に縛られるのは学生時代。テストの点数、順位、内申点・・・沢山有り過ぎて、もう分かんなくなっちゃうよ。いつの時代も生徒は先生の言いなり。数字という呪縛からは逃れられないのだ。数字から逃れられたいと思いと幼馴染に恋する気持ちが交差する学生物語である。では、ご覧ください。

第一章 自由に縛られた学校生活

生徒はペットですか?

駄目だ。頭がボーっとしていた。授業に関係の無いことを考えていた。

国語の授業はつまらない。他人の朗読は眠くなる。まるで、睡魔発生機。寝ることがこんなに幸せだと学生生活を送るにつれて気が付いた。今は斜め前の生徒が読んでいる。もうすぐ、僕の番だ。そろそろ目を覚まそう。

「おい、内田!」

担任の先生に怒鳴られた。自分が思うより早く僕の番が回ってきたのだ。なぜ早いのか思い出した。今日は一番前の端から斜めに読んでいく日だった。なんで、こんなややこしい当て方をするのだろう。

立って読むのもしんどい。声が震える。でも国語の授業は頑張らないと。内申点が掛かっている。受験を控えた中学三年生には死活問題なのだ。特に国語担当の先生は厳しい。時には生徒の態度次第で点数が変わる。

先生に媚を売る生徒もいる。まるで、担任が飼い主に見える。生徒が餌という名の内申点を貰うペットみたい。その生徒のことを惨めな目で見てしまう。僕は絶対先生に媚を売らない。恥ずかしい真似をしたくない。言いなりになんてなりたくない。そう思っていると授業が終わった。長い一日が終わった。廊下を出た。

「内田くん?」

第二章 好きな人は灯台下暗し

聞き覚えのある声。後ろを振り向くと同級生の桜田が居た。ああ、三組のクラスも終わったのか。話の長い担任の先生が居るクラスにしては早い。一日の疲れが吹っ飛んだ。幼馴染の彼女が居るとなんだか小さい頃を思い出す。あの頃に戻りたい。

10年前・・・

「けんちゃんは何になりたい?」

河川敷の石を拾いながら、彼女は聞いた。彼女は幼馴染の桜田優。家が近い。近いというより僅差。隣同士。彼女の家族が引っ越してきてから知り合った。第一印象はカワイイ。

何になりたいって。聞かれても分からないから、答えれない。あと、馴れ馴れしく下の名前を呼んで欲しくない。なんだか恥ずかしいよ。僕の頬に夕日が照らす。なんだか、照れくささを表現してくれているのかな。将来何になるんだろう。まだまだ先のことなんて分からない。作って行くのだから。

「私はペットになりたい」

ペット?

「どうして?」

桜田の家は犬を飼っている。小さい柴犬。名前はルル。何度かお邪魔した時に紹介してもらった。ペットになりたい理由は嫌な勉強もせず、働かずに家でダラダラ出来るからと言った。意外な理由だ。でも、僕はペットになるぐらいなら人間として生きて行きたい。そう思い、夕日を眺めた。

時は流れて・・・

あれから10年か。時が経つのは早いな。そんな彼女を見るたびにチラ付く。風の噂で桜田が先生に媚を売っていることを知っている。点数稼ぎだよ。昔に語っていたペットになりたい夢あったよね。少しながら叶えているんじゃないかな。教えて上げたい。でも、余りにも失礼だ。少し会いた口を閉じた。

「帰るわ。また明日」

うなずく彼女、小さく手を振る二人。彼女の後ろ姿と僕の後ろ姿の距離が段々離れる。近くにいるのに遠くにいるみたいだ。

第三章 友達

いつもの授業。数学の授業。頭がボォーとする中で聴こえた。先生は数学の起源はインドと話している。インドか。カレーが食べたくなってきた。仏教の国でもあるインドには一度は行ってみたい。大学生になったら行ってみたいな。一人旅。


「面ー!」

授業が終わり、放課後になった。友達の真二にスキを突かれた。勉強を忘れたいためにクラブ活動を熱心にしている。友達と剣道をしていると楽しい。友達っていいよな。嫌なことや良いことを共有出来る人間関係。大切にしないといけない。

「うちけん、お父さんって何してたっけ?」

『うちけん』とは僕のニックネーム。僕の本名である内田健介の内と、健と剣道の剣を掛けて、組み合わせたもの。

突然聞かれたことに戸惑った。僕のお父さんは・・・言葉が出なかった。お父さんが音信不通だと打ち明けた。

第四章 数字という名の呪縛

「ただいま」

一人ぼっちの家に挨拶をした。家に帰っても母は仕事で居ない。父は数年前に「修行に行ってくる」と言い、家を出て行ったきり音信不通。生きているのか、死んでいるのかさえ分からない。いや、分かりたくもない。なんとなく冷蔵庫からコーラを出して飲む。ガラスコップに注ぐ。どうしても科学の実験を思い出してしまう。頭のことは彼女と勉強のことばかり。受験生だから仕方がない。職業病ならぬ勉強病みたいだ。

部屋に戻り勉強をする。机の上に散らばった教科書・参考書。苦手科目は理科と数学。理系が苦手。数学の勉強をしていると人生の殆どが数字に絡んでいることに気が付いた。数字の世界からは逃れられない。時間という数字は止まることを知らない。

数字で思い出した。テストの悪い教科を内申点でカバーしないと。でも、先生の媚を売りたくない。どうすればいいのだ?頭の中がグルグル回る。数字の呪縛から逃れられない。逃れたいけど、無理だ。これは運命なのか分からない。そんなことを考えながら、いつの間にか寝ていた。

第五章 生きたいって言いたい

朝日が登る。眩しい。朝から眠い。昨日考えすぎた。気分が悪い。でも、学校に行かなくては。面倒くさい事だらけの朝。

いつもの通学路を歩く。

「内田くん、おはよう」

桜田さん!疲れが吹っ飛んだ。挨拶一つでこんなに変わるんだな。顔から笑みが溢れそうだ。テンションが高くなったノリで放課後に合う約束をした。話したいことがあるんだ。

放課後・・・

「用事って何?」

彼女の制服の袖から見える細い腕に腕時計。腕の太さに合わずにゆるゆるだ。

「俺は桜田がペットになって欲しくない」

彼女は不思議そうな顔をしている。そらそうだよな。突然呼び出して、不可解なことを言い出す同級生って変だよな。意味不明な事を言い出す僕。嫌われたかな。

「内申点、内心気にしてるんだ」

え?

「風の噂は嘘だよ。風のように過ぎる噂なんて信じる方がどうかしてるよ。」

そうだったのか。恥ずかしい。遠回しに彼女はペットみたいだ。なんて言ってしまった。ごめん。大変なのは皆一緒だよね。彼女に限って、そんなことするはずないと信じて良かった。涼しい風が彼女の髪をなびかせる。帰り道の通学路。二人、肩を並べて歩く。

「生きたい」

小声で何か聴こえた。気まずい雰囲気。上手く聞き取れなかかった。

「なんか言った?」

「なんにも言ってない」

そういう彼女は体調が悪そうだった。大丈夫かな。

第六章 伝えたい気持ち

蛍光灯を照らして、一息つく。今日、返ってきたテストの点数を見る。テストの点数が悪い意味でヤバい。内申点は幾つ貰えるだろうと考えてしまう。授業中の態度は悪くないはず。県内の高校に進学したい。理由は簡単。桜田が通う予定の高校に一緒に行きたい。僕ってバカだから分かんないや。勉強も出来ないし恋愛だって上手くいかない。彼女が何を考えているのか分からない。

エスパーでもあるまいし、人の気持ちなんて分からない。何年一緒に居たって分かり会える関係じゃない。必然的に避けて来た。ベランダに出て彼女の家を眺める。よく言えば探偵。悪く言えばストーカーみたいだ。隣のベランダに彼女が出て来た。ヤバい。変な人みたいになってしまう。こちらを振り向いた彼女の目を見ると、泣いてた。ゆっくりと落ちる涙をただじっと見つめていた。隣のベランダとの距離は近いのに遠くにいる感じ。

彼女は部屋に戻った。何も言わずに。僕の存在に気づいていたのには違いない。でも、声を掛けてくれなかった。そして、声を掛けれなかった。悪いことしたかな。初めて、あんな姿を見てしまった。

「健介!」

母の声だ。帰ってきたらしい。甲高い声が聴こえてくる。嫌な予感がした。下のリビングに行くと母は僕の顔を見るなりヒステリックに怒り出した。テストの点数が悪いとか、桜田さんを見習いなさいとか。言いたいことだけ言って最後に

「内申点、先生に頼みなさい」

母はポツリと言った。

は?

「生徒は先生のペットじゃない」

彼女と比べられるのまでは我慢出来た。でも先生に媚を売るのはゴメンだよ。内申点に縛られる学生生活なんて嫌。嫌という感情が僕の感情を渦巻いた。さっきの母の言葉の意味を推測すると媚を売りなさいという意味だ。

僕の叫び声にポツンとする母を横目に、二階の僕の部屋に駆け上がった。ベットに駆け込む。こんな世の中は嫌だ。震える。母は僕の気持ちなんて考えてくれていないんだ。数字が一番大事なんだよ。なんだよそれ。僕は親のロボットでもない。


昨日、泣いてたせいか、シーツがシミになっていた。耳を済ませば鳥の音。そうか、今日は休みだったな。いつもの習慣で早めに起きてしまった。勉強するか。内申点を気にするよりも、テストの点数を上げよう。だってしょうがないじゃないか。僕は大した人間じゃないんだから。一生懸命頑張るしかない。好きな人と一緒になりたい。その思いだけが僕を動かす。

第七章 一緒になれるね

数週間後、桜田は死んだ。余りにも突然のことだった。小さいころから体が弱かったらしい。知らなかった。長く一緒に居ても知らないことばかりだった。同じ学校を目指す目標を失った。生きている意味ってあるのかな。涙溢れる。外の空気を吸いたい。天気は雨。風が気持ちいい。下を覗くと桜田が居た。薄っすらと笑顔を見せている。生きてる?会いたい。手を伸ばしても届かない。その時、濡れた床で足を滑らした。

あっ。

でも、ずっと一緒になれるね。

〜作者からのメッセージ〜
結果的に恋愛物語になった。やはり、恋愛物は書きやすい。展開しやすい。世の中は数字で溢れている。見えない内に数字が渦巻く世の中。時には逃げ出したくなってしまう。人生の中で数字と離れることは出来ないのだ。この主人公もそうである。数字について書いてみようと思い、この小説を執筆した。

植田晴人
偽名。某映画を見ているとアイディアが浮かんだ。久しぶりの長文小説です。