右腕がボロボロになった話
前々回に引き続き暴力の話。
ちょっとだけ痛いです。
お前なんて先生になる資格ないねん!!!と言われてから1年後に無事保育士になることができました。
ハスキーボーイとはその後の関係は良好でよくドッジボールやキャッチボール、戦いごっこなどをして遊んでいました。カードゲームやボードゲームもしたなぁ。それはもう必死で。負けたらバカにされるから。「大人やのによっわ!!!」そんなん言われてる場合ではない。
勝ったら勝ったで「ホンマ大人気ないわ!」と半泣きになりながら言われるんですけどね。
実に子どもらしくて可愛いです。
就職も決まり、アルバイトを辞めるとなった時に「え、やめるん?」とびっくりしてくれたことを覚えています。いつのまにかちゃんと寄り添える人になれていたのかもしれません。その子のそばに居てもいい人になれていたんだと都合よく解釈させていただきました。
さてまた前置きが長くなった。
就職先はアルバイトしていたところと同じくような乳幼児親子から小中高生が対象で地域の方々とも交流が深い施設でした。
そこはアルバイト先とは反対に街の真ん中にあり常に観光客が行き交い、少し歩けば観光名所、繁華街という良くも悪くも賑やかなところでした。
芸能人がロケをしているところにも遭遇したことあります。ミーハーは私は喜んでインタビューに答えました(落ち着いて)
利用者の男の子。4兄弟の末っ子でそれぞれに父親が違います。一番上の兄とは10歳くらい離れていたでしょうか。母の代わりに一生懸命、男の子の面倒を見てくれていました。
その子もまた、絵に描いたようなヤンチャボーイ!!目がくりっくりで声が可愛く人懐っこい甘え上手。些細な変化に気が付ける、そして感謝をまっすぐに言葉にできる子でした。
「髪切ったん?似合うやん」(前髪を少し切っただけでも気付きます)
「今日の服可愛い」(新しいジャージを買いました)
「俺のこと待ってたん?ありがとう」(学校から帰ってくるの遅いから仁王立ちしてただけやねんけど)
「このおやつ作ったん?先生めっちゃ美味いな」(ごめん作ったのは生協の人やわ)
当時若干6歳。おそろしい能力を持っています。そんなキュートボーイ(と名付けます)。
日常生活に少し不便がありました。父は別のところに住んでいて不在。母は仕事の都合で帰りが遅くほぼ兄と兄の彼女が面倒をみてくれていたのです。また母は日本語がほぼ話せず読むこともできませんでした。
キュートボーイは感情が爆発すると手も口も出てしまうタイプでした。
トラブルがあると相手を執拗に追いかけ煽り引っ掻いたり叩いたり噛みついたり…なので私たちは未然に防ぐため必須に目を光らせていました。
どうか平穏に1日が終えられますようにと毎日祈るような気持ちです。ちなみに小学生相手だと保育園のような配置基準はほぼ存在しないのでカオスです。菩薩の笑みが浮かびますね。100人を2人で見るなんてこともありました。ただし小学生、ベイビーではないので話は通じます。
ある日の土曜日。お弁当を持って来なければならなかったのですが、その子は朝から弁当を持たずにやってきました。
お弁当がない子は一度家に帰って食べてから戻ってきてもいいというルールもあったため
「とりあえず家に帰って何か食べてきて。それかお母さんに言ってお金もらっておいで。買い物は先生一緒に行くから」
と伝えましたが。
「ママ仕事やし。どうせ帰っても無駄や。何にもない。鍵も持ってへん」
我々も分かっていて言ってます。母が仕事なことも今は家に不在なことも知ってます。でもご飯を食べさせないといけないんです。これは親の仕事。
「とりあえずお家行ってみなよ」
「いかへん!いややし!どうせおらん」
「お兄ちゃんか彼女はいるやろ」
「しらん。いやや。俺お腹空いてないからご飯いらんねん」
押し問答が続き、キュートボーイはイライラしてきました。私の手を振り払い部屋中を駆け回り暴れて時間稼ぎをしているのがよくわかります。
「もーええって!」
「よくないねんて。ご飯はちゃんとたべなあかん」
不適切保育になるねん。とは言えません。
でもこれ放置したらそう言われますよね。
昼ごはんを食べさせなかった
正しい援助をしなかった、と。
正しいとはなんぞや?ですけど。
「だからお腹減ってないねん」
ほなええか、と引き下がれたらどんなに楽か。
こちらもあの手この手です。(ちなみに母に電話しましたが繋がらずでした)
「ほなとりあえず先生家まで一緒にいこか?」
「それなら帰る。どーせだれもいないけどな」
一人で帰るのが嫌だったんだとわかりました。どうせ無駄なんです。本当に無駄な作業をさせないでくれと嘆いていたんだと知りました。
キュートボーイの家まで10分ほどの道のり。
手首をぎゅっと掴んで歩きました。離すと逃走することが目に見えていたので。
本当に一筋縄ではいきません。
どっか走り去って友だちの家にでも上がり込んだら、事故に遭ったら、戻って来なかったら…いろんな最悪の事態を想定しておかなければなりません。
1番の最悪の事態を避けるために申し訳ないけど手首を掴みました。
目論見がバレバレなので強く掴んでいたわけですがキュートボーイは
「逃げへんからはなせや」
と私の腕に爪をたてます。まじでめっちゃ痛い。容赦ねぇ。
「んなわけあるかい」
「痛かったやろ?」
「当たり前やん。見てみこんなに爪の痕ついてるやん」
手首は離しません。
「じゃぁこれは?」
と摘んだりつねったり拳で連打してきたり。本当にまじで痛かった。それでもこっちは離せない。この子を無事に家に送り届けなくてはいけないから。
途中からもうええわと思い好きなだけ攻撃させました。ありがたいことに私は痛みに強いタイプです。
「それは痛くないわ」「まだまだなやな」「人間のめっちゃ痛いところはな、こそじゃなくて…」
なんて。捻られたら痛い場所も教えてあげました。「やっていい?」と聞かれたけどさすがにそれはお断りしましたがその代わりに
「もしあなたの身に危ないことが起こりそうやったらやってええで。覚えとき。人間はここが痛いねん」
目がキラキラ輝きました。大人ってそんなこと教えていいの!?みたいな目だったように思います。
「あとはここは痛くないからピンチの時にやったらあかんで」
「え!ほな(先生に)やってみていい?」
「ええで」
「どう?」
「全然痛ないわ」
「じゃぁ痛い方やっていい?」
「それはピンチの時の必殺技やからあかんなー」
いつのまにか和やかな雰囲気に変わっていました。右腕は肘から手首にかけて爪の痕とあざと引っ掻き傷と大変なことになっていましたが絶対そのことは掘り返さない。
私の右腕はボロボロになったけどキュートボーイの心は非常に穏やかになっていました。
私がそっと手首を離しても振り払って逃げていかないくらいに穏やかでお喋りに夢中になっていました。
おしゃべりの内容は「俺は強い」だったと思います。ケンカでの武勇伝を聞かせてもらいました。
「そんなことしたん!また思い切ったなぁ」
「よっぽど強かったんやな」
「今、怖い人が来てもやっつけてくれそうやな!頼もしい」
そしてそのあとは、他愛のない話へと変わりました。俺が強い話でもケンカの武勇伝でもなく。家でゲームした話、学校での出来事。
あの時どうすることが正解だったのだろう。
この行為は暴力と言えるのだろうか。
私は正解だったと思いたい。いろんな意見があるだろうけど、たくさん選択肢のある中の一つの正解として経験値で残しておきたい。そう思いました。
今でも腕に2つ、爪を立て捻られた傷跡が残っています。
暴力をわざと実行するよう促した酷い保育士だと思う人もいるでしょう。
間違ってなかったと思う、それも一つの方法だったよねと言ってくれる人もいるでしょう。
そして同じような経験をしたことがある人もいるでしょう。
自分で促したせいで被った怪我、なかなかの内出血でしたがもちろん病院には行っていません。
でもたとえば、意図的に悪意を持って利用者に暴力を振るわれたとして。
素直に現場を報告し病院に行けるでしょうか。労災、おろしてくれるでしょうか。
上司は私の言うことを否定せず聞いてくれるでしょうか。
おまえのやり方が間違っていたから怪我したんだと言われないでしょうか。
利用者さんのせいにしたくないし自分の悪かったところを探してしまう職員がほとんどではないかと思います。
あぁこれまた難しい問題ですね。
ちなみに幾つになっても厨二病の私は傷だらけの腕をみて「かっけぇ」と呟いたのでした(スーパーポジティブ)
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