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#089 「ファーザー」

いつか、遠くない未来に、自分が介護中心の生活になることを、20代前半からずっと意識してきた。その時が来たら、住んでいる場所と暮らしを捨てて、介助が必要な状態の年老いた母と2人きりで、地元での生活が始まるのを想像してきた。若い頃、そのイメージは明確に悲観だったと思う。
それを自分が受け入れて生きていける確信が持てず、圧倒的な恐怖だった。

幸いにも。と言うべきか決定的な状況は未だ訪れておらず、私もそれなりに歳をとり、母への認識も柔らかく変化したし、私自身の介護への覚悟の持ち方が変わってきているのを感じている。
とは言え、明日連絡が来たらここを去らなくては。というイメージはずっとあるし、タイムリミットがどんどん迫っているのは明らかで、最近は、仕事を含めた身辺整理が最大のテーマになっているが、想像より悲観していない。あくまで、当初の想像よりは。

前置きが長くなった。
この映画が公開された時、うわー観ないといけないやつ。と、思った。
映画の配信リストに並んでいるのを、わーまだ観てない。と、思っていた。
で、昨晩、ちょっと酔って帰ってきた私はこの映画を急に観た。介助者としての視点で観るものだと思っていたので驚いて、驚いている間に映画が終わった。
ポスタービジュアルにまんまと騙されていた私は、色々苦労して、それでもいい時間が過ごせたりして、ありがとうとか抱き合って泣く家族のシーンとか観るのはキツイなぁなどと思っていた(浅)。

この映画は、あらゆる意味で衝撃的だった。介護への教訓なんて何一つ無い。
人間が老いに対して出来ることなんて殆ど無いのかも知れない。そりゃあそうだ。細胞が死んで生まれ変わって。のサイクルがだんだん鈍っていくだけなのだから。あれ、何の為に人は生きていないといけないんだっけ。
と、思った瞬間にエンドロールが流れて、暗い画面の前で、嘘でしょ。と言う自分の声が聞こえた。