アイスリボン推しが『家出レスラー』を観た結果

アイスリボンとスターダムの間には、固い鎖でかかった禁断の扉がある。

これはファン周知の事実。ジュリアが電撃移籍してから完全に閉ざされた扉。彼女や離脱した選手たちのアイス批判は、運営だけでなく応援してきたファンの喉元も締め上げた。大企業と提携したスターダムは選手が憧れる舞台となったが、悪評を浴びたアイスリボンは身の丈にあった運営で今も生きのびている。

アイス推しのわしは、去った選手たちの言葉に傷ついた一人だ。好きな団体を否定されて、スターダムに立つことがステイタスのようにドヤされて、面白いわけがない。輝くスターダムが眩しくないと言ったら嘘だけれど、どんなに話題があっても「スターダムは観ない」とアイスリボンのロゴマークに誓った。敵対心というより無心。スターダムに関わらなくてもアイスはアイスの世界で楽しいし、仲間の団体もたくさんいる。そんな平和なアイスライフを送っていた折、目を疑うニュースが飛び込んできた。

藤本つかさが・・・
スターダムに対戦を要求?!?!

ロッシー小川が去りスターダムへのしこりがなくなったことは確か。しかし、まさかその1点で凍り固まっていた両団体の間に春の水が流れるなんて。そのままタッグマッチとして対戦が実現。続けて岩谷麻優さんのベルトを賭けてタイトルマッチを行う流れに。禁断の扉は開かれた。

わしはスターダムの選手を知らない。岩谷麻優とは何者なのか。女子プロに詳しい友人の推しだから、魅力とクセのあるレスラーであることは間違いない。開国するのならその突端に立つ選手を知りたい。そこで彼女の実話を元に作られた映画『家出レスラー』を観に行くことにした。

観た結果。泣いた。女子プロレスの情動、人情味が描かれていた。スターダムの歴史、選手たちの葛藤。アイスリボンの過去にも通じる苦さがあった。実際の選手や試合の流れはよく知らないけれど、終始面白かった。岩谷麻優さんの愛されっぷりたるや。彼女の存在がスターダムそのものだった。

ベストフレンズに潰されたとき、スターダム界隈に広がった悲愴感の正体。映画を見た後に気づいた。それはスターダムを守りたい故の拒絶反応だと。アイスリボンなんかに敗れたという安易なプライドではない。岩谷麻優=スターダムが壊されるかもしれない、そんな穏やかではない緊張感。アイコンとしての重責を抱える岩谷麻優、余裕の藤本つかさ。この状況でファンができることは一つしかない。応援する人がいなくなったらその団体は終わるけれど、愛あるファンがいる限り終わることはない。

岩谷麻優さん役の平井杏奈さん本当に素晴らしかった。リング上での立ち姿を見ているだけで涙が。向後桃さんも良かった。気になる選手がたくさん。映画のおかげで、わしも閉ざしていた扉を開くことができそう。

映画の集客は苦戦しているらしい。でもこの映画には興行収入では推し量れない意義がある。今後岩谷麻優の stardom story に光明を得てレスラーを志望する選手がいたら。それが彼女の願うところ。プロレス界への貢献は計り知れない。それくらい熱く、温かく、愛のある作品だった。