パン屋
バイト先まで送った。
「バイクで行くから、大丈夫」
「天気予報では、1日雨らしいよ」梨沙が言った。
「そうなの?それなら車で送ってほしい」
「いいよ」
車で送っている間に雨がフロントガラスを強く打ち始めた。
「送ってもらって、助かったよ」
「うん」
「あっ、そこを右に曲がって、次は左、
この駐車場に入って」
「うん」
「ここで止めて」
車は止まった。
「夜の7時に今度は迎えに来て」
「うん」
車を走らせると、雨は激しく降り、車体に当たる雨の音とスピードででタイヤが水を弾く音とでラジオから流れる音楽が聴き取り難い。
そうだ、パン屋へ行こう。梨沙はそう思った。早起きはするものだ。この時間だと沢山の種類が店頭にパンが並んでいるはずだ。
なのに、なぜか車線を間違えた。隣の車線を走って右に曲がるはずが、左の車線にいるため右折出来ない。仕方ない、真っ直ぐに行くことにした。
待てよ、ここを左折するとスーパーが確かあったはず、そのスーパーにもパン屋があった。
そう思うのも束の間、通り過ぎた。
ぐるっと遠道して、ようやくパン屋に着いた。
壁がレンガで、春の花たちが植えられていて、カントリー風の店。店先には椅子とテーブルが置いてある。
中に入ると、既にお客が何人かいた。まず目に入ったのが、ピーチのカスタードパイ。それを買って、店の人気No.2のホットドッグを買った。もっと買うと身になるだけなので、この二つにした。レジを済ませて、店を出ようとすると、隣がイートインだった。
気分的にここで食べて温かいコーヒーといただいてもよかったなと、少し後悔。
雨がまだ激しいが、走って車に乗った。
自宅に着くと早速温かいコーヒーとパンをいただく。パンの入った袋がカサカサ音がして、何か僕の美味しいものだと猫が鼻をくんくんしながらテーブルの上を上がってきた。
だめだめ、これは違うよ。梨沙は猫にそう言った。
ピーチの甘酸っぱさとカスタードが絶妙で初めて食べる味だ。
雨だし、何処も行かないが、美味しいパン屋のパンを買って食べることが今は幸せだ。
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