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一人より二人

 小糠雨が降るこの日、昼過ぎに街へ出かけた。
 本当は、昼前に出かけたかったのに、
「えー、こんな天気で出かけるのー」と颯太は言った。
 案の定1時間も遅れて颯太は待ち合わせ場所に来た。慌てて来た様子でもない。
 しょうがないな、と思ったが久しぶりに颯太と出掛けたかったので、
「遅い遅い。じゃあ、行くよ」と、芙美が言い、二人は駅の改札口を通った。
 颯太は、電車好きだ。颯太は家でジオラマを眺めていたらしい。
 「最近この辺りの店もすっかり様変わりして、オシャレになったね」芙美が言った。
 街は人で賑わっている。
「久しぶり、でしょ? この辺りに来るの」と芙美が言うと、
「いや、先月来たし」
「そうなの、なんだ」
「こっち行くよ」と芙美が颯太の前を歩く。
「そっちに行っても何もないと思うよ」颯太は面倒くさそうに言う。

 芙美が以前ここを通って、誰かと行ってみたかった店が二つあった。
 大きな窓から海が見えるカフェ。ドリンクのソーダ、数種類のパン、パスタ。
「うーん、お腹いっぱい」
「そうだね」と芙美が最後のパンをかじりながら言った。
「ねえ、このあとお茶しょ。気になっている店があるから」
「まあ、いいけど」ここまで来たら芙美に合わせるつもりらしい。
 会計を済まして出ようと、伝票を店員に渡すと、
「ありがとうございます。○○くん、レジよろしく」先輩店員がそう言うと、
若い店員がメモをポケットから取り出し、レジを打つ。その手が震えている。
 新人さんなんだな、と芙美と颯太は思う。
 新人がお釣りをトレイに置いたが、多くお釣りを置いていた。
「多いですよ」芙美が言った。
「そうですね」新人店員が言う。
 店を出て、
「新人のレジだったね、手が震えてたよ」颯太が言った。
「そうだね」芙美は、新人の定員が早く慣れて頑張ってと心の中で応援した。それは颯太もそう思っているようだった。
少し歩いていると、雨が降り出した。
 気になっていたカフェがあった。倉庫をカフェにしたようなオシャレな店だった。
 颯太は、焙煎されたコーヒー、芙美はモカ。芙美が座った白いソファは座るといい感じに体重が沈む。
「うん、美味しい」颯太が言った。
 また来たい、そう思わせる店だった。
「肉まん買いたい」そう言って、颯太の方が街を歩き回るのを楽しんでいる。
 芙美も来てよかったと思う。
帰る頃には雨が上がり、夕方6時だというのにまだ明るい。陽が長くなったなと思う。
 やっぱり一人より二人がいいなって思った。

#ショートストーリー #フィクション
#短編小説  


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