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最高に爽やかな別離礼賛映画

『はじまりのうた』(2013)

2024年1本目映画。
約8年ぶり、3回目くらいの鑑賞。
改めて見ると印象変わる〜。

お互いの才能を認め合い、良い影響を与え合っていたミュージシャン二人の円満カップル。「映画音楽に使われる」ことで彼氏(デイブ:アダム・レヴィーン)の方が有名人になり、彼女(グレタ:キーラ・ナイトレイ)が添え物のように扱われてしまう。当初は、グレタもマネージャーのように彼氏をサポートすることに喜びを感じていたけれど、浮気の発覚により別離、それぞれが音楽の方向性としても別の道を歩み始めるようになる。自分が立ち上げたレーベルから解雇を告げられた元敏腕プロデューサーのダン(マーク・ラファロ)が、ひょんな出会いでグレタの才能を見出し、これまでの縁や経験を全て注ぎ込んで彼女をプロデュースし、デビューまで漕ぎ着けるというストーリー。

ひとつとして無駄なシーンがないし、レーベルに頼らず、ニューヨークの街全体をスタジオに見立てて自作でプロモーションを作るのは時代先取りだと思った。

最後、デイブがグレタをライブに招待し、グレタの作曲である『Lost stars』を歌うシーンがとても象徴的。大切な人を思って作った、グレタにとっても思い入れのある自分の歌を、ダサいヒゲを剃ってハンサムな姿に戻ったデイブが、グレタの望む原曲アレンジのまま観客の前で披露するのを見て涙ぐんでいたのも束の間、後半のサビでデイブの言う「多くの人を楽しませたい」というアレンジに切り替わり、観客の女子達が沸く姿を見て、グレタはライブ会場を去る。音楽に対する二人の捉え方の違いが明らかになり、グレタはスッキリとした顔で自転車で夜の街を駆けていく。

不可抗力的な外的要因によって、それまで統制が取れていた関係性にひずみが生まれてしまうことは往々にしてある。お互いが変わることで続けるのか、離れて別の道を歩むのか?マーク・ラファロ演じるダンは夫婦生活において前者を選択し、創作を決意するグレタは後者を選択する。ふたまた有線イヤホンでお互いのプレイリストを流しながら夜のニューヨークを遊び回るというロマンチック極まりないデートを経て、ダンに淡い想いを抱く(というか抱かざるを得ない)グレタは、最終的には二つの失恋を経験するわけだけれども、確実に今後の糧を手にしている。

ダンは有名になったから「変わってしまった」のではなく、売れる前から、もともと彼は大衆的にウケる音楽でヒットして名声を得たかったんだよ、という友人のセリフがとても印象的("Carpool Karaoke"でおなじみのジェームズ・コーデンが本当に良い友人役)。人ってそういうもので、「それが分かって、お互い良かった」と事象を捉えていくのがあっさりしてて良いなと思った。

ジョン・カーニーは別れを肯定的に捉える監督だと思う。人生の節目節目で、痛みをともなう別れはあるけれど、人は、人と関わることで、あるいは何かを創作することを通して、色んなものを乗り越えて強くなれるというポジティブなメッセージが通底している。

そして、なんてことない景色を変えてくれる音楽っていい、と改めて感じさせてくれる素晴らしい映画。