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私の未来を加速させる最悪な金曜日

鼻の下がヒリヒリする。

仕事終わりの電車に揺られてる時に気づいたそのヒリヒリは、私がオフィスで号泣した本日、固めのティッシュで鼻をかみすぎた為にできた痛みである。

研修期間である4週間の最終日だった今日は、入社からコツコツ積み上げてきた私の微々たる自信を綺麗に粉砕してくれる「最悪な金曜日」となったのであった。

この4週間でいろんなことが起きた。

海外移住を目指している私は、とにかく会社からのVISAを求め各国を練り歩いている。今の勤め先は割と名の知れた大きな会社だし、ポジションによってはVISAもあるかも、と面接の際に言われていたので期待をしていた。

しかし、「自分が勤めているオフィスではVISAサポートはない。VISAが欲しいのなら、結婚するのが吉。」と酔った勢いで先輩に言われた、入社から2週間経ったその日を境に、既に私は行く先を見失っていた。

それから、私のモチベーションが若干落ちたことは言うまでもなかったのだが、「まだ分からんぞ」と粘り、他の仕事を探しつつではあるが残り2週間の研修を終了させたのが、今日。最悪な金曜日。


ちなみに、私は現在の勤め先でカスタマーサポートをしているが、今のところこの分野で才能を見出せそうな予感はしていない。同僚と英語で話した後に日本語で顧客対応に当たった際は、「現在の状況」と言いたい時に「なう」と言ってしまったが、そのまま何事もなかったかのように会話を続けたこともある。

今回の「号泣事件」も、完全に私の勉強・経験不足であるため起きてしまった出来事である。社内情報に関することなので細かいことは言及できないが、兎に角、対応したのが私ではなく他の人であれば問題なく進んだはずだろう。

対応中、相手にミスを立て続けに責められ、事前に状況を正確に把握できていないことから、更にたじろいでしまい、そこをさらにつけ込まれてしまって、逆に「この人はなんでこんなに弁が立つのか。もしかしたら、これがこの人の本業なのかもしれない…。」と電話相手に感心してしまうほどだった。

私の対応が不慣れなことは電話口ではバレバレ。なかなか引いてくれないし、相手側の要望は一点張りで、電話の途中で「無理だ…。」と涙が出そうになったのだが、ここで泣いてしまっても何も解決しない。もうこれ以上攻められる余地を残してはいけないと、必死に画面を睨みつけ、暇を持て余している右手で電話の線をいじりながら、保留できるタイミングを待った。

「上のものと話を」と言われたので、一旦電話を保留にしてチームリーダーを呼んだ。駆けつけたチームリーダーの彼は「ダイジョウブですか?」と片言の日本語で、私に声をかけてくれて、その違和感と優しさで笑いながら泣いた。チームリーダーの落ち着いた声で、味方がいるという安心感が生まれたのか、感情を抑えていた蓋が外れて、立て続けに涙が溢れてきて止まらなくなった。

こういった「泣きじゃくる」みたいな状況って、私にとって1年に1回あるかないかのイベントだ。とにかく「悔しい」って思ったときに発生する発作的なもので、自分ではコントロールできない感情の爆発である。

全くコントロールができないので、人目を憚ることなく周りが引くぐらい泣く。正直、自分でもドン引きの泣き方である。もし、私情を抑え、人前で涙など見せないのが大人の常識であるのなら、一生大人になんてなれないかもしれない。女だって、男だって、大人だって、悔しい時は思い切り泣ききった方が美しい人生だと、身勝手に思う。

大抵は、泣いている途中でアホらしくなってきて笑えてくるものだ。周りから見たら号泣しながら笑っているから、理解不能だし、これを美しいと形容するのはやっぱり間違いかもしれない。

今日も「大丈夫?」と聞いてくれた人がいたので、「大丈夫!恥ずかしいから、見ないで!私の顔ヒドくない?」って冗談のつもりで言ったけど、クスリともしなかったから本当に酷い顔をしていたのだろう、と思う。

何とか「最悪な金曜日」を乗り越え、オフィスを出て駅まで歩く。オフィスでは、今日の出来事が恥ずかしすぎてずっと顔を隠しながら歩いてたから、やたら開放感があった。

既に暗くなった街には、何処かで飲んできた帰りのようなグループや、仕事終わりのサラリーマンが、それぞれの帰路についている。

夜道を照らしているビルの窓の光は、ギラギラとしたネオンのようなものではなく、太陽が反射する海みたいにキラキラしたものでもなく、ぼうっと光っていて。そこを、ほろ酔いのニコニコした人達が駅に向かって歩いていた。

個性的なデザインをしたビルが乱立するロンドンの一角。オフィスの間をすり抜けるジェットコースターのようにルート設定された電車に揺られながら、移りゆく景色を眺める。

何も言わない無機質なビルと、静かに光る窓の間をスルスルと抜けていくその感覚はまるで未来にいるかのようで、「このまま何処か知らないところに行ってしまいたい…。」と思うと、鼻の下がヒリヒリして、また今日の出来事が脳裏に浮かび、自分の不甲斐なさに凹む。

電車を降りたら、ゴミを蹴りながら歩いている人を見た。この人ももしかしたら最悪な金曜日を過ごしたのかもしれない。

ゴミを蹴るその人と、蹴られているゴミを見ていたら、何だか虚しくなった。

「どこか行きたい」と思ってGoogleマップをみていたが、乗り換えた地下鉄で電波が届かなくなったので、読みかけの「10年後の仕事図鑑」を開いた。


「毎日やることを決めず 、惰性で生きていることのほうが多いのが実情ではないだろうか 。たとえば 、僕はよく 「今日は今までと違った道で帰ってみよう 」とか 「今日は電車ではなく歩いて帰ってみよう 」と講演で言う 。そんな些細なことさえ実践できている人がどれだけいるだろうか 。そうでもしなければ 、自分を他人と差別化することなんてできない。」

落合陽一・堀江貴文(2018年)「10年後の仕事図鑑」[Kindle版] SBクリエイティブ株式会社)


ここでの生活を変えなくてはいけない、と思い始めていた。

自分を変えたいと思い海外に出たのに、未だにメンタルの弱さは豆腐並みで、目標をまだ達成しておらず、このままではいけないと常に感じながら、未来に悲観しながら、生きている。


「だからこそ 、まずは昨日の自分と今日の自分を差別化することからはじめてみよう 。大事なのは 、 「すぐに行動に移せるかどうか 」だ 。」

落合陽一・堀江貴文(2018年)「10年後の仕事図鑑」[Kindle版] SBクリエイティブ株式会社)


と書かれた文に差し掛かったところで、いつも降りる一つ前の駅に到着した。一駅分歩いてみることにして、電車から飛び出した。



駅一つ分だけしか離れていないはずなのに、知らないお店がたくさんあった。この辺りに住み始めてもうひと月は経つのに、引きこもりな生活をしていた自分を嘆く。


行ってみたい場所はたくさんある。会ってみたい人もいる。

でも、まだ全然達成できていない。


たまに自分がしたいことがわからなくなる瞬間がある。友達や家族と離れて、一人異国にいて、何をやっているのか…と思うと気分がどーんと沈んでしばらく立ち直れない。

照明が暗いお洒落なバーでは、楽しそうに話している人たちがたくさんいて、道をすれ違うカップルは幸せそうで、歩いていたらますます心の暗闇の方に落ちていった。


「JAZZ BAR」と書かれたこじんまりとしたバーの外から中で演奏されているバンドをしばらく眺めていたけど、入店することなく再び歩き続けた。結局どこに行くわけでもないのなら、普通に電車を降りて、普通に帰宅して、普通にNetflixでも観ていればよかったのかもしれない。

そろそろ行くところもなくなってきた、というところで、交差点で立ち止まると女の子二人組を見かけた。楽しそうに話している二人の内の一人が、「13」と書かれたバルーンを持っていた。「13」という数字の下には”Happy Birthday”と文字が並んでいる。

「13歳」


何かに不安を抱いている様子もなく、人生をエンジョイしているその子達をみていたら、「ガーン」と何かで頭を打たれた気分になった。隣に並んで同じ信号を待つ、私は先日25歳になったところである。そして、人生をエンジョイしきれていないのは紛れもない。


「統計的処理に基づくロボティクスが圧倒的低コストで 、なおかつ人間以上に効率的な仕事をこなす時代がもうすぐやってくる 。いや 、もうすでにそうした時代ははじまっているといっていいだろう 。もはや私たちに未来を悲観する暇など 1秒たりともない 。」

落合陽一・堀江貴文(2018年)「10年後の仕事図鑑」[Kindle版] SBクリエイティブ株式会社)


「10年後の仕事図鑑」にある、落合さんの言葉が、頭の奥でこの13歳という数字に照らされた。


そうだ。私が未来に対して憂いている時間なんてない。


そう思った瞬間に、さっきの倍のスピードで帰路を駆け抜けた。

私がやらなくてはいけないことはまだごまんとある。クレームの一つなんかで私は私を潰してはいけない。理不尽な世の中には立ち向かわなくてはいけない。


やりたいことが、明確になっていくのがわかった。


最悪だった金曜日が、エネルギーに変わった瞬間だった。


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ハルノ

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