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解雇予告は突然に。

それが、ラブストーリーであったなら、いつ何時であっても突然に現れてくれたって構わないのに。そんなことを思っている私の前に現れたのは、甘酸っぱくて淡いピンク色をした恋物語ではなく、苦くてすぐ味のなくなってしまう消え入りそうな灰色をした解雇予告の物語だった。


「7月末で、事業縮小のため解雇になります。」

ちょうど5日前くらいにそんな事実を職場から告げられた。

「はじめてのおつかい」ならぬ、私の人生初「はじめてのかいこ」である。
今ここで、ひらがなでその文字を優しく書いて、柔らかく、そしてあたたかく表現できている自分の余裕に100点満点をまずつけてあげたい。そんなことを思う。

せっかくなので、今日は私の身に起こった貴重な解雇にまつわる体験を書き留めておこうと思う。

なんとなく、薄々勘付いてはいたけれど、私が所属している会社はそれなりに経営難だったらしい。私自身は、その会社に、正社員ではなく、契約社員として雇用されていたため、そこまで詳しくは知らなかったけれど、とりあえず私の所属している部署の事業を撤退する旨を告げられた。

そんなこともあろうかと、事前に、失業保険についてなどアレコレを調べていた私はすぐさま切り返す。

「会社都合による離職ですよね?」

「それはまだわからない。」

まだ、わからない、、、。 
何かがはじまる予感がして、心臓が鳴った。のではなく、何か嫌な予感がして、腕が唸った。
こういうとき、花束みたいな恋の予感には疎いくせに、不利益な悪いことが起きそうな予感には過剰に敏感に反応して、自分の正義を貫こう、どっからでもかかってこい、喧嘩上等だよと、腕をブンブン振り回して、構えの姿勢を取るのが早い私の祖先のルーツは、スケバン時代の女番長だったのではないかと思うときがある。

そんなことはさておき、そんなことを言われて、私は自分の所属している会社へのすべての信頼を失ったと言っても過言ではない。


7月末退職となれば、時はもうすでに5月。
契約書に記された解雇予告をする場合の期限の1ヶ月よりは確かに前だけれど、普通に職を失う身としては困る。
それに、その事実を伝えるにあたって、職を失う側のことを本当に心配してくれているならば、会社都合退職の場合の準備だってしてくれたっていいはずなのに。


あやしい。

私は即座に思った。
解雇される従業員は私を含めて2人。
私の契約は、今年の12月末までとなっているので、通常であれば、契約期間内の解雇となるため、会社都合退職が一般的だ。

会社都合退職になれば、自己都合退職のケースとは異なり、失業保険をもらう際の条件が緩和される。特に大きいのは、失業保険をもらえる時期が、自己都合退職の場合は退職から2ヶ月の待機期間を要するが、会社都合退職後の場合、翌月からすぐにもらえるという点だ。

シンプルに7月末だとゆとりもった転職活動もできないため、そこは、今後の職探しをする資金面のことを考えても、重要な点になる。

そこすら確認せずにただ単に、「契約終了です。特にこちらからは次の職場の提案もありません。」とだけ伝えられた事実に、私も、もう1人のスタッフも怒りの感情さえわかずに呆然と立ち尽くした。


けれど、そんなことを平気でしてくる会社のことだ。事業を縮小はするのだろうけれど、会社自体が潰れるわけではない。
考えられることは、会社側としては、その会社に残る選択肢を掲示したけれど、それを断ったとして、自己都合退職として処理される可能性が浮上した。
ネットで検索してみたけれど、実際、従業員を会社都合退職にすることの会社側のデメリットも大きいため、それを自己都合退職として処理して、離職票を発行されてしまうも少なからずあるらしい。

あやしい。

とりあえずその気持ちが拭えなかったので、解雇を言い渡された2日後に、私はハローワークを訪れた。

「はじめてのハローワーク」

「はじめてのかいこ」よりは響きがいい。うむ。

はじめての場所だったので、少し緊張したのだけれど、名前を呼ばれて座った目の前にきた窓口の方は優しそうな女性で、私は安堵のため息をついた。


私が通されたのは、失業保険に関わる相談窓口だったので、今の現状を話して、とりあえず、失業保険についての基本的な説明を一通り受ける。
丁寧に記載された説明書をもらって、「他に質問はありますか?」と聞かれたので、私が会社にもったあやしいという印象のアレコレをお姉さんに話してみた。

すると、目の前で、今までほがらかに対応してくれていたお姉さんの目の色が明らかに変わったことが分かった。かけていた眼鏡がキラリと光る。

「うむ。通常であれば、〇〇さんのケースだと確実に会社都合になると思いますが、それはいささか違和感がありますね。」

「何か証拠とかもっといたほうがいいでしょうか?」

「うむ。とりあえず、まずは、会社側から退職願いや退職届の提出等を求められても、提出はしないようにしてください。」

「そうなんですか?」

「はい、それを提出してしまうと、あくまで自己都合退職であるという会社側の証拠書類を作ってしまうことになるので。」

「あぶないところでした。承知しました。肝に銘じます。」

「はい、それとあとは、会社都合退職を何かしら書面で残したほうがよいかと。おそらく契約期間が変更になるので、会社側から新しい7月末での契約書を巻き直すよう提示される可能性があります。その際に、通常であれば同じ契約書で、期間を変更して結ぶだけでよいのですが、念のため、その新しい契約書に、期間変更理由を会社都合と明記してもらうのはどうでしょう?」

「なるほど。そしたら確実に会社都合によるものと証明ができますね!」

私は即座に手元に開いていたノートにメモを取った。

「その書類があれば、万が一離職票が自己都合で処理されてしまっていたとしても十分な証拠書類になりえます。まずは、その契約書の作成を依頼することからになるので、それを会社側に伝えたときにどう返答がくるかの問題にもなってきますが、、、。」

「そうですよね。。とりあえず、聞いてみます。」

「もし、そのあたりで他にも不安な点や懸念点があれば、在職中であれば、労働基準監督署にも相談が可能になるかと思うので、その連絡先も併せて記入しておきますね。ハローワークと違って、労基は会社側に指導もできる立場にありますので。」

「ありがとうございます。助かります。」

連絡先を書き終えた資料を私に渡してひと段落したお姉さんが悲しそうな表情で、声をかける。

「大変でしたね。。。」

「はい、私もびっくりしました。」

「まだまだ、大変かと思いますが、離職票が一度発行されてしまうと、そこから覆したりすることはかなり難しかったり面倒になることもあるので、なんとか、事前に確証を得れることを祈っています。また何かございましたらご相談ください。」

「いえいえ、本当にありがとうございました。知らないことも多かったので大変助かりました。」

そう言ってハローワークを私は後にした。
早速、お姉さんに言われた通り、会社側に、期間変更の契約書と合わせて、そこに退職理由を記載してもらうことを依頼した。さすがにもう信用もできなかったので、それが難しい場合は、労基に相談するという文言も加えて連絡をした。
会社側も何かしら察したのか、結局、契約書自体のまき直しをすることにはならなかったけれど、解雇予告通知書を発行してもらって、そこに、退職理由を会社都合の旨で記載するという約束で、今、私はその解雇予告通知書の到着を待っている。
そこに至るやりとり自体もすべて、チャットで行って、解雇予告通知書にその退職理由を明記するイコール会社都合退職という認識で間違いないかという問いを投げかけて、「間違いない」という返答ももらって、念のため、その文面もスクショして、携帯に保存した。
念には念を入れて、解雇予告通知書が届いたら、それを持って、退職前にもう一度、ハローワークに確認の相談に行こうと思っているところだ。
というわけで、何とか会社都合での退職で事なきを得そうな段階ではあるが、まさか、自分がこんな目に合うとは思いもしなかった。

ふと、窓口で対応してくれたお姉さんのキラリと光った眼鏡の奥に浮かんでいた悲しそうな目の表情を思い出す。

直接言いはしなかったけれど、おそらく、私と同じようなケースで、会社都合であるはずなのに、自己都合で処理をされてしまって泣き寝入りをした人たちがきっと数多くいたのだろう。そんなことを思う。

「もしも、会社から解雇されたなら。」
「もしも、仕事がない状態になったなら。」
「もしも、失業保険を受給することになったなら。」

みたいな情報は、普段この日本で普通に義務教育を受けてきていたとしても、受動的に知り得ることではない。
義務教育の中で、そのようなことを教わった記憶は私にはなかった。
失業保険について私がざっくりとだけれど知っていたのは、私自身に転職経験があったからであって、転職をしたからこそ、自己都合と会社都合退職での受給条件の違いのことも知っていたし、今回のケースにおいても、会社側があやしいという疑念を抱くことができた。

おそらく、その情報を知っていなかったとするなら、退職後、自己都合として処理された離職票を持っていって、失業保険が、すぐすぐもらえないという事実に愕然とする人もたくさんいるだろうし、もしそこで気づいたとして、そこから会社都合退職に変更するという際の何かしらの書類がないことで、結局覆せないみたいなケースもたくさんあるのだろうと思う。
それに、失業保険受給には、自己都合退職の場合、「雇用保険に直近1年間加入していることが必要」という条件があるが、それが、会社都合退職になることで、その条件期間が緩和されることになる。けれど、それを知らなければ、その条件になくなく該当しないことになって、受給ができないケースだって考えられる。


こうして、考えてみると、「会社」都合、「自己」都合、たった2文字が変わるだけなのに、それを知っていた場合と知らなかった場合での差異が大きすぎて、なんだかなぁと思った。

とりあえず、怒涛のような約1週間が経った今、もちろん私に次の仕事の選択肢はまだないし、これからどうしようなんていうのも考え中だけれど、今回対応してくれたハローワークの方には心からの感謝の気持ちを伝えたいし、急に仕事を失うという一種のパニック状態に陥った私の話を聞いて、励ましてくれた友人たちにも心から感謝合掌である。

しばらくゆっくりと自分の進路について考えてみようと思う。






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