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【小説】菜々子はきっと、宇宙人

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<あらすじ> 大学を卒業し、晴れて新社会人となった美春。想像したよりも過酷で、憂鬱な社会人としての生活に、身体と心が限界になり、生きる意味を見失っていた。そんなとき、まるで宇宙か…
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#生き方

【小説】菜々子はきっと、宇宙人(第16話)最終話

【小説】菜々子はきっと、宇宙人(第16話)最終話

菜々子がいなくなってから約半年の月日が流れた。
もう、この町に菜々子の気配はない。

菜々子がいなくなってすぐは、町の人も、職場も人たちもなんだか物足りないといったように、「菜々子は今どうしているのかな。」と思い出話に花が咲いていた時期もあったのだけれど、時の流れというものは、過ぎ去っていく日々を、少しずつ、少しずつ、気づかないくらいのゆるやかなテンポで消化して、いい意味でも、悪い意味でも、過去の

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【小説】菜々子はきっと、宇宙人(第7話)

【小説】菜々子はきっと、宇宙人(第7話)

新しい職場に通うようになってから、もう約1か月が過ぎようとしている。季節は5月を過ぎ、山の木々たちは、旬を迎えたと言わんばかりに青々とその葉をたくましく茂らせている。

木々たちに加え、地面を張っている草たちもものすごいスピードで成長していて、毎朝のように、出勤前から、所長さんが、その草たちの成長速度に負けないようにせっせと草刈機で草を刈っている。

その様子はまるで、草刈りの専門業者みたいだった

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【小説】菜々子はきっと、宇宙人(第6話)

【小説】菜々子はきっと、宇宙人(第6話)

3月の月日はあっという間に流れ、なんとか菜々子の手伝いもあって、引越し作業も無事に落ち着き、晴れて4月1日を迎えた。

今日は、菜々子が紹介してくれた、これから働く山奥の林間学校での仕事の初出勤日だ。

いつもより早く目が覚めた私は、朝からお湯を沸かして、インスタントコーヒーを作り、それを持ってベランダに出る。

今日の天気は晴れ。朝日のまぶしい光と、少し肌寒いけれど朝日によって少しあたたかくなっ

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【小説】菜々子はきっと、宇宙人(第5話)

【小説】菜々子はきっと、宇宙人(第5話)

季節は春、3月の終わり。長かった冬の季節も終わりを告げようとしていて、ぽかぽかとあたたかな昼間の陽気の中で、愛おしいピンク色をした桜たちがまるで、私の新生活を応援してくれているようで、私の胸は躍った。

人生、心機一転、新しい生活がはじまる。そう意気込んで、期待に胸ふくらませて、新しい私の住みかとなる、あの川に面した小さな古民家のドアを開けたその先にいたのは、とてつもなく大きなゴキブリだった。

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【小説】菜々子はきっと、宇宙人(第4話)

【小説】菜々子はきっと、宇宙人(第4話)

「ちょっとお風呂セット家から取ってくるから、川の音聞きながら待ってて!」

そう言って菜々子はすぐ裏にある家へと消えていった。取り残された私はとりあえず、菜々子の言う通り、目の前にある川のほとりに腰掛けて、川のせせらぎに耳を澄ませた。

季節は、一般的に、もうすぐ秋がはじまろうとされている9月。けれどまだ、その気配は遠く、じりじりとした焼きつける太陽の光に反発するように、川の水たちはその光を吸収す

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【小説】菜々子はきっと、宇宙人(第2話)

【小説】菜々子はきっと、宇宙人(第2話)

時刻はまもなく、深夜の0時半を回ろうとしている。
なんとか無事に帰宅した私は、あの肌にまとわりついたジメっとした空気と、目の前で強く身体に触れた電車が通ったときの風の感触をとにかく洗い流したくて、そそくさと脱衣所に行ってシャワーを浴びることにした。

シャワーの水量をマックスにして、いつもよりも多くボディソープを手に取る。

手の指の先、手のひら、腕、首回り、、順を追って上半身から下半身へときめ細

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【小説】菜々子はきっと、宇宙人(第1話)

【小説】菜々子はきっと、宇宙人(第1話)

ふと、目の前に釘付けになっていた、煌々と光るPCの画面から目を離して、座っていた椅子の背もたれに、背中を思い切り預けて背伸びをする。

そのとき、100人ほど収容できるオフィスの、私が位置している反対側のフロアの電気が消えた。
それにより、時刻はすでに、23時を過ぎていることを私は知る。
電気を消した上司が、まだ新入社員がちらほらと残っている私が位置しているフロアに移動してきて声をかける。

「そ

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