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【溶けて、重なり、降り積もる】

 泣くのを我慢していると、喉の奥がぐうっとなる。熱くて苦い塊が詰まって、そこから抜け出せない。苦しくて歯を食いしばるのだけど、それでも堪えきれずに一粒溢れてしまう。そうなったらそこからはもう、歯止めが効かない。

 泣きたい気持ちと泣きたくない気持ちが同居したとき、はじめはいつも後者を選んでしまう。傍に居てくれる誰かを悲しませたくない。困らせたくない。そんな思いからブレーキをかけることが多いのだけど、時折ブレーキが誤作動を起こす。昨日の晩もそうだった。ちゃんと我慢しきれなかった私は、子どもみたいに泣きながら眠った。

 翌朝、目覚めた私の隣に、見慣れた顔と規則正しい寝息。もぞもぞと寝返りをうつと、彼は目を閉じたままで腕を伸ばしてきた。

「元気?」
「うん」
「ほんとに?」

 隠そうとしても気づかれる。だったらいっそ、身も蓋もなく泣き喚いてしまおうか。口にはできない本音を、投げつけてしまおうか。ふいにそんな子どもじみた気持ちが湧いてきて、思わず苦笑した。

「なに笑ってんの?」
「別に」
「ふーん?」

 帰らないで。此処に居て。
 ずっと、居て。

 そう言ったら、この人はどんな顔をするのだろう。困るだろうか。呆れるだろうか。私を、面倒な女だと思うだろうか。

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