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【ベイビー・ブローカー】 母親は赤ん坊を「捨てた」のか、「託した」のか

本記事は、“言葉と戯れる読みものウェブ”「BadCats Weekly」にて掲載していた映画エッセイを転載したものです。
本稿は、初出の記事に加筆・修正を加えております。

◇◇◇

この世に生まれなければ良かった命など存在しないと、自分は彼らに言い切れるのか?

映画「ベイビーブローカー」公式HPより引用

映画『ベイビー・ブローカ―』公式HPに記載されている、是枝裕和監督の言葉である。

生まれなければ良かった命。「そんなものはない」と、一片の疑いもなく言い切れたなら、どんなにかいいだろう。そう言い切ってしまいたい感情の奥で、日頃ひた隠しにしている本音が呻き声を上げている。

「要らなかったのなら、生まないでほしかった」

私がそう言ったとき、母がなんて答えたのか、もう覚えていない。ただ、その顔は悲しそうではなく、面倒そうな、疎ましいものを見るような表情だったことだけは鮮明に記憶している。

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