のぼる小寺さんを観ました。

映画館にて鑑賞。
別途雑記にて映画と映画館について思っていることを綴っています。映画館は昔から特別な場所でした。

小寺さんは天然で少し不思議な女子高生。彼女はひたすらボルダリングに打ち込んでいる。そんな小寺さんを見つめるのは卓球部の近藤。親の言いつけで運動部に入ることを余儀なくされ、その中でも一番緩い卓球部を選択をした経緯がある。それゆえに卓球への熱意はなかった。
同じ体育館を使うボルダリング部と卓球部は隣どうしで、近藤はいつも壁に挑む小寺さんを見ていた。
ほかにも学校をいつもサボる倉田や周囲に迎合し自分を出せない田崎、同じ部に所属する四条と、彼女を見つめるのは近藤だけではなかった。
いつも全てに対してひたむきに取り組む小寺さんを見て、また触れ合って、それぞれの壁をのぼっていく物語。

感想をば。
原作のニュアンスや展開を再編集しながらも的確に抽出した作りは正直感動的とも言える。ラストシーンと近しいシーンは原作では3巻目で描かれており、4巻のラストシーンとは明確に違う。
映画では尺の問題は避けられず変更が加わることは当然だ。しかし原作を知っていてもこのラストは納得だし、映画においてはこれしかないのではとまで思わせる。

この映画、原作もそうであるがタイトルの小寺さんはなにか意図的な働きかけはほとんどしないという点を書いておきたい。
卓球部の近藤くんもやる気のなかった卓球に打ち込むようになったのは、小寺さんが真摯にボルダリングに挑む姿を見て突き動かされただけであり、彼女が直接的に近藤くんの背中を押したことはない。小寺さんの一挙一動が影響を及ぼしてはいるが、おそらく彼女自身にその自覚はない。
小寺さんは率先して干渉してくることは少ない。彼女は基本的に壁をのぼっているだけなのだ。劇中で一番懐いているのは倉田だがお互い無理に合わせようとはしない心地よい距離感が描かれているように思う。

展開は基本的には近藤くんの目線が多く、彼の憧れの眼差しを表現しているかのように、窓から差し込む光の中で、壁をのぼる小寺さんはひたすらに美しい。小寺さん役の工藤遥さんはボルダリングの練習を相当に積んでいたそうで、劇中の身のこなしの軽快さは必見だ。当たり前のように教室の窓から飛び出していくシーンは衝撃的だった。
近藤くんは同期の二人とダラダラと卓球をしていた。しかし進路調査の提出時、進路をクライマーと書いたことで担任に苦言を呈された小寺さんの、とりあえず目指してみる、という言葉を聞いてから彼は急速に変わっていった。変わろうとしている様子が丁寧に描写されている。

現実問題として中学でも高校でも、大学にしてももしかしたら社会においても、なにマジになっちゃってんの? という冷ややかな視線は多い。国民性なのか教育の賜物か、出る杭はいつも平均までならされてしまう。右に同じの前例主義が義務教育であるかと思うほどだ。
英語でネイティブな発音をすれば失笑を買い、周囲と違うことをすれば冷遇される。そんな生活ばかりしていれば我を出すことを是とすることは難しい。

小寺さんは不思議な女の子だ。天然だが周囲に嫌われているわけでもない。世渡りが上手いのだ。
周囲に馴染むという行為は保身だ。田崎が写真の本をなんでもないと隠すのはそういうことだ。一度浮いてしまえば同じ深さに戻ることはできない。だから手を取り合ってお互いを押さえつけているのだろう。

頑張ることは悪で、周囲に迎合することが少なくとも学生を生きることでの最適解に思えるが、その時期を終えたとき手のひらにはなにも残っていない。
合わせてた、みんな、と連絡を取ることなどほとんどないし、世渡りが上手い人はその後もなんなくこなしていくのだ。その場しのぎでついて行っていた人たちはたちどころに置いていかれてしまう。そんな世の中だ。

小寺さんは頑張ってもいいと教えてくれた気がする。彼女はとても美しい。失敗しても、だったらやり直せばいいと、彼女の行動は伝えてくれる。
単なる青春映画として処理できない重要なことを伝えてくれた。
どなたかがツイッターに感想を乗せていた。今すぐにでも走り出したいと。今からでも当時手のひらから溢れたなにかを掬い上げられるだろうか。

最後に原作との相違などを箇条書きで書き連ねていく。映画、原作共にネタバレを多分に含むのでご注意を。

小寺さんは金髪から黒髪へ。
原作だと無口というよりは接触機会が少ないので喋っていないように思えるが、映画はかなり無口。
鉛筆をカッターで削るサマはなかった。園芸部の残した庭園に水やりしている。
近藤くん、四条くん、田崎さん、倉田さん全員同じクラス。
四条くん長身の手足が長い要素はなし。
四条くんに彼女ができる点は同じ。彼女は金髪小柄から黒髪ポニーテールの美少女に。バレー部所属。
田崎さんメガネとカメラが強い。
倉田さん彼氏らしき方は見えず。映画では学校終わりにネイルのスクールに通う。
宮路さんは登場せず。それに合わせて文化祭で清剛くんも出ず。代わりに名前の出ない親子登場。あのシーンのスルスルとのぼる小寺さんはすごかった。どう撮影しているのだろう。

ほかにも色々あると思われるがパッと思いついたのはこのあたり。
ここまで触れなかったものの先輩二人はそっくりだった。のぼるシーンもかっこよかった。

おわり。

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