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東北のおすすめブナ林

このnoteでは、冷温帯林の代表樹種・ブナの魅力をいろんな記事で幾度となくお伝えしてきましたが、意外と「どの森に行けば良いブナが観れるのか」というブナ林の情報はあまりお伝えできていなかった。そこで今回は、ぼくがこの一年で行った名ブナ林の数々をご紹介したいと思います。

お色気むんむんのブナたちに捕まったら、もう抜け出せないですよ〜。覚悟して向かうべし‼︎

1 蔦のブナ林


奥入瀬渓流の下流側起点である焼山から、国道103号を青森市方面に10分ほど走ると、「蔦温泉」という温泉宿に差し掛かります。蔦温泉は、およそ870年前の平安時代に開湯された、歴史ある温泉。十和田・奥入瀬の名を全国に広めた紀行家・大町桂月が晩年を過ごした場所としても知られています。

そんな蔦温泉の裏手には、見事なブナ林が広がっており、その中に遊歩道が敷設されています。

蔦のブナ林内には、7つの沼が点在しており、それらは総称して「蔦七沼」と呼ばれます。遊歩道は、蔦七沼のうち6つを順番に巡っていくので、森歩きを楽しみながら、風情ある水辺の景色も堪能できます。


↑蔦七沼の中で最も大きいのが、蔦沼。周囲はブナの深い天然林に囲まれている。
夏の夜には蛍が飛び交う。

↑7月の菅沼。晴れた日には、湖面にブナ林の水鏡が現れる。沼のほとりの涼しげな風を浴びながら、
「カワセミ来ないかな〜」なんて言いながら切り株に腰掛ける。なんとも豊潤な時間。


ぼくが蔦のブナ林に初めて行ったのは、5月下旬のこと。
この時期には、太平洋から「やませ」と呼ばれる湿った季節風が吹いてくるので、十和田界隈は雨の日が多くなります。やませが八甲田山にぶつかると、山の中腹に位置する蔦のブナ林には霧が立ち込め、妖異な雰囲気になります。ぼくが蔦に出向いた日も、まさにそんな天気でした。

初・蔦ブナ林の衝撃は、なかなかのものでした。

故郷の関西に住んでいた頃は、ブナの大木が生い茂るような良質な落葉広葉樹林を歩く機会に恵まれませんでした。そのため、ブナの大木がそこかしこに生えている、という蔦の森の様相にまず度肝を抜かれた。当時はまだ青森に来たばっかりだったので、「こんな良い森に簡単に行けるのかよ‼︎すげえな青森‼︎」と感激しました。

ブナの色気は、大木になればなるほど増していきます。蔦の森のブナたちは、ちょうど色気が最高潮の樹齢に達していらっしゃる。まっすぐ伸びた幹に、洗練されたデザインの枝文様、スポーティーなボディライン……。麗しい樹姿に周囲を固められると、なんだかドキドキしてくる。こんなに見事な大木は、拡大造林の影響でブナ林が減ってしまった現在では、そう簡単に見られるものではありません。蔦のブナ天然林は、非常に貴重な場所なのです。


↑冬の蔦ブナ林。大勢のブナが、艶やかな樹姿をこちらに披露してくる。



↑幹がぱっくりと割れたブナの大木。

やませで霧がかったブナ林の風景も、また感動的でした。
霧のおかげで森の緑が一段とみずみずしくなり、樹々のすきまに白いカーテンが下される。森がミステリアスな雰囲気を纏い、こちらに迫ってくる感じ。自分はいま、深い深い森にいるんだなあ、という贅沢な感覚。これを手軽に感じられる、というのが、蔦のブナ林の一番の魅力なのです。


↑ギャップに霧と光が停滞して、独特な雰囲気を演出


↑霧がかったブナ林。このとき、ツツドリの声が森の中に響き渡り、怪しげな雰囲気がさらに増していた。




↑蔦の森はブナ林のイメージが強いが、渓畔林型の植生も点在している。特に、菅沼の南岸にはカツラの大木群があり、こちらも見事。ただし、このカツラ巨木群にアクセスするためには、深い深いリョウメンシダの海をかき分けていく必要がある。



↑トチノキの大木も遊歩道沿いに点在している。ぼくのお気に入りは瓢箪沼の近くの一本。

<蔦野鳥の森>
所在地  青森県十和田市
アクセス 青森市から国道103号経由で1時間。車がない場合、青森駅からJRバスみずうみ号でもアクセス可。(冬季はバスはありません)
駐車場  無料
遊歩道の整備度  運動靴で可。ただし、雨の後はぬかるむ
遊歩道の体力度  起伏はあるものの、急坂はなし。一周3キロほど。散歩程度のお手軽気分で歩ける。駐車場ー蔦沼間は車椅子通行可。
冬季の立ち入り  駐車場は年中オープンだが、遊歩道は使用不可。
※毎年、紅葉の時期には、駐車場で料金徴収が行われます。(昼間1台2000円、早朝は1台4000円+同乗1人につき2000円。詳しくは十和田市のホームページを参照)

2 梵珠山


梵珠山(ぼんじゅさん)は、青森市の西に位置する標高468mの低山。山一帯が「県民の森梵珠山」という森林公園として管理されており、手頃な長さの遊歩道が整備されています。

梵珠山の遊歩道沿いの植生は、ほぼ全部ブナ林。十和田界隈のブナ林と違って、林床に矮化したヒノキアスナロ(青森ヒバ)が生育しているのが特徴です。
梵珠山をはじめ、津軽半島・下北半島・白神日本海側のブナ林の林床にはヒノキアスナロがわさわさ生えているのですが、どういうわけか十和田八甲田のブナ林にはヒノキアスナロが一切生えていません。数十キロしか離れていないのに、同じ県内でこういった林床植生の違いが出るのは一体どうしてなんだろう。気になります。

↑ブナ林の林床で優占するヒノキアスナロ。

梵珠山は人里に近いためか、古くから人の手が入っているらしく、遊歩道沿いの森はほとんどが二次林です。それゆえ、生えているブナは皆若く、色気が出始める樹齢に達していません。色っぽいブナとの出会いを期待している方は物足りなさを感じるかもしれません。


↑比較的細く、小ぶりな樹が多い森。

しかし、遊歩道沿いに何本かブナの巨木が生えており、こちらは一見の価値ありです。一般的に「ブナ」と聞いて連想するような、繊細でスリムなボディラインの巨木は少なく、枝がぐねぐね曲がったり、幹にドデカイ瘤があったりと、個性的な作風の樹姿を披露してくるヤツが多いです。「上品な樹姿」というイメージが強いブナが、めちゃくちゃ攻めたデザインの樹姿を創りだしてる〜‼︎というギャップ萌えを感じれる場所、それが梵珠山です。


↑梵珠山ブナの巨木その1。幹は太く短く、枝は怒り狂ったかのようにぐねぐね。ブナのくせにアグレッシブな枝振りしてるじゃねーか(笑)。


↑梵珠山のブナの巨木その2。こちらは枝が三叉に分かれた「三頭木(さんとうぼく)」。
東北では、三頭木には神様が住む、とされており、伐採されずに残されることが多かった。
そのため、青森県内には、三頭木のブナ巨木が多い。


梵珠山に生育するブナ以外の樹種として、シナノキ、オヒョウ、トチノキ、サワグルミ等が挙げられますが、どれも数はそう多くありません。遊歩道沿いにオヒョウの大木が生えていたのですが、写真は撮っていません(泣)。オヒョウの大木は、そう簡単に出会えるものじゃないのに、惜しいことをした……

<県民の森梵珠山>
所在地  青森県青森市
アクセス  青森市街から国道7号を弘前方面へ走行し、浪岡大字大釈迦で脇道にそれ、細い山道を走ると駐車場にたどり着く。国道7号から脇道にそれるポイントには、「県民の森梵珠山」の看板があるが、小さいので見落とさないよう注意。公共交通機関の場合、JR大釈迦駅から徒歩45分
駐車場  無料
遊歩道の整備度  トレッキングシューズが望ましい
遊歩道の体力度  距離はそれほど長くないが、急勾配・長い階段あり。山歩きに慣れていない人はしんどいかも
冬季の立ち入り  駐車場までの山道は年中通行可。ビジターセンターである青森県立自然ふれあいセンターも、年中オープン。遊歩道は、冬季利用不可。

3  十二湖


十二湖は、白神山地の西麓・日本海沿岸にある湖沼群のこと。有名な青池があるところ、と聞くとピンとくる方が多いのではないでしょうか。

十二湖一帯の落葉広葉樹林には、手頃なハイキングコースがいくつか敷設されており、そこを通って森歩きを楽しむことになります。


↑十二湖の代名詞、青池。池のたもとにはカツラの大木が立っており、なかなかエモい枝ぶりだった。


中の池〜沸壺の池間の遊歩道、青池西側には良い雰囲気のブナ天然林が広がっており、優雅なブナの大木を好きなだけ鑑賞できます。

十二湖のブナたちは、皆いかにもブナらしい、スリムで優しげな雰囲気の樹姿を披露してくれます。
梵珠山と違って、アバンギャルドな樹姿でこちらを威圧してくるヤツは少数派です。

お上品な樹姿の大木が多いためか、十二湖のブナ林にはどこか落ち着いた雰囲気が漂います。
ゆったりとした気持ちで、森の美しさ、樹の美しさそのものを心ゆくまで堪能する。こういう穏やかな森歩きを楽しみたいのであれば、十二湖ブナ林はうってつけといえるでしょう。森に生えている大木全員が、紳士のような佇まいなのですから。

↑青池西側のブナ天然林。
まっすぐ伸びた白い幹には独特な気品が漂うが、同時に大木らしい威厳も感じる。


↑中の池ー沸壺間の遊歩道。ブナ天然林の中を縫うように歩く。

ただし、十二湖のブナ天然林の面積は比較的小さく、中の池ー沸壺間、青池西側の両方のブナ林を踏破しても、歩行時間はそれぞれ5分以下です(通常の速度で歩いて)。広大で奥深いブナ林の中に飛び込みたい…と思っている方は、規模の点で物足りなさを感じるかもしれません。


↑十二湖のトレッキングコースを歩いていると、このような風情ある水辺の景色が頻繁に現れる

十二湖の沖合の日本海には、暖流の対馬海流が流れています。その影響で、十二湖界隈は青森県内では最も温暖。この特徴的な気候が、植生にも多大な影響を与えています。

たとえば、十二湖の森では、イイギリ(Idesia polycarpa)というヤナギ科イイギリ属の樹種をちょくちょく見かけます。彼はどちらかというと南方系の樹種で、本州西部、四国、九州、南西諸島〜台湾にかけて分布します。そんなヤツが、本州最北の県のブナ林に生えている。ちょっとビックリしました。十二湖の気候がいかに温暖かが分かります。


↑道路脇の斜面に育つイイギリの若木。テーブル状に枝を広げるのが特徴



↑イイギリの葉。この葉っぱでご飯を包み、お弁当箱がわりに用いたから「飯桐」。


↑イイギリの大径木。皮目が発達しているのが特徴。

また、通常青森県内の森では北方型のミズナラが優勢となるのにも関わらず、十二湖に限っては南方型のコナラが優勢になっていたり、西日本の暖地を好むはずのエノキが生育していたりと、十二湖の森は「東北の森」という感じがしません。植生的には、関西の日本海側の森に近いので、「あれ、自分青森から関西にワープしてしまったかな?」と錯覚してしまいます。
ブナ以外の樹種にも目を向けると、十二湖の森の特異性が実感できて面白いのではないでしょうか。


↑十二湖の森でも、林床はヒノキアスナロが優勢。


↑渓畔林もところどころに存在する。十二湖のカツラは、まだ若いためか、奥入瀬のカツラのようにひこばえを出しまくったり、枝をぐねらせたりはしない。単幹で、スリムな体型のカツラが多かったのが印象的だった。(↓)


<十二湖自然休養林>
所在地 青森県深浦町
アクセス  青森市方面からだと、津軽自動車道つがる柏ICから国道101号をひたすら走って2時間。秋田方面からの場合、秋田道能代南ICから国道101号を北上して1時間。公共交通機関を利用する場合、JR五能線(日本海を望む絶景路線として有名)十二湖駅からバスで15分
駐車場  「森の物産館キョロロ」前(青池直近)に停める場合、500円。王池の近くに無料で停められる駐車スペースがあるが、長時間駐車はできない。
遊歩道の整備度  運動靴で大丈夫
遊歩道の体力度  青池、ブナ自然林など、主要なポイントだけを歩く場合、平坦な道ばかりなのでそれほどきつくない。森の奥まで足を伸ばしたい場合は、ところどころに急勾配・階段がある
冬季の立ち入り  スノーハイクツアーに参加する場合のみ可

4  岳岱(だけだい)


こちらは、白神山地の奥深くにあるブナ林です。とんでもない山奥にあるせいか、アクセスは凶悪。離合困難な狭い山道を15キロ以上進む必要があります。

ぼくは秋田県藤里町から向かったのですが、前方の景色が、田んぼの中の二車線路→森の中の狭路→絶壁の谷底の狭路→ブナ天然林の中のダート…といった感じで変化していくのを見ると、どんどん人間の生活圏から離れ、森の聖域に立ち入っているような実感が湧いてきて、白神山地の険しさ・奥深さが身に染みました。
岳岱ブナ林は、そんなアクセスの悪さを乗り越えてでも行く価値がある場所です。

岳岱ブナ林には、二次林のエリアと天然林のエリアが混在しています。
駐車場の近辺は二次林エリアなので、訪問者はまず二次林から鑑賞することになるでしょう。

岳岱の二次林の風景は、非常に整っています。下草がそれほど生えていないため、目に映るのはブナの美肌樹皮だけ。ブナの若木たちの樹姿が醸し出す、気品ある雰囲気をかき乱す者はいません。いい意味でシンプルな森林景観なのです。


↑岳岱のブナ二次林。八甲田ブナ二次林よりも規模は小さいものの、森の美しさは抜群。


↑二次林の母樹の威厳も見事。どっしりとした幹の風格には、敬意を表します。


↑白神の森には、コケが張り付いたブナが多い気がする。コケの緑と、ブナの幹の白色のグラデーションが、これまた味わい深い。




↑二次林内には、シナノキの大木もいらっしゃる。ごつごつと瘤を連続させた幹が印象的。



二次林をくぐり抜けると、今度は天然林に突入。若木ばかりの二次林と違って、妙齢のブナが多くなります。いちばん色気がのった年齢のブナの、妖艶な樹姿をお楽しみあれ。


↑ブナらしい、細身で物腰の柔らかそうな樹姿。

ぼくが岳岱に行ったのは、冬季閉鎖の直前の11月初旬。その時期には、紅葉はとっくに終わり、ブナの葉は皆枯れて茶色くなっています。樹々に茶色くなった葉っぱがついただけの森、というのは、一見味気なさそうですが、そんなことはありません。ポスト紅葉のブナ林にも、それなりの魅力があります。

ブナの葉は、完全に枯れると丸めたティッシュペーパーのようにくしゃくしゃになってしまいます。そういった葉は、日光を反射しないので、枯葉ばかりをつけた樹に光が当たると、黒っぽい葉の”残骸”が樹の枝に無数にからまったように見えます。(下の写真↓)


↑ポスト紅葉のブナたちが、午後の柔らかな光を取り込み、見事な影絵をつくりだす…

ブナの繊細な枝ぶりと、役目を終えた大勢の葉っぱたちが作り上げた、珠玉の影絵。言葉にならないほどの美しさです。

さらに、冬枯れのブナ林には、もうひとつ最高の芸術作品が用意されています。
それは、「黄金色の枯葉」。
当然のことながら、ブナの葉は全部が一斉に枯れるわけではありません。葉っぱが劣化していくスピードは、枝の位置によって異なります。ある枝では完全に葉が色褪せ、くしゃくしゃになっているけれど、別の枝では葉が原型をとどめていて、色味やツヤもまだ残っている、ということだってよくあります。

紅葉は終わったけれど、完全に色褪せているわけでもない……そんな「紅葉と枯葉の中間」の状態にある葉に日光があたると、黄金色のステンドグラスが完成します。(下の写真↓)



↑ステンドグラスが出来上がったときのブナ。右側の樹についた葉っぱが、綺麗に輝いているように見える。こちらが、「紅葉と枯葉の中間」の状態にある葉。そこ以外の枝についた葉は、完全に枯れ、色褪せてしまった葉で、茶色っぽく見える。


約5ヶ月の間、葉っぱの面倒を見続けてきた日光が、散っていく彼らへの花向けに美しいスポットライトを浴びせる。黄金色のステンドグラスは、寿命が尽きる直前の葉の、盛大な引退ショーなのです。
「ブナ林」ときくと「紅葉」のイメージを抱きがちですが、紅葉の先にある、冬枯れ直前の森にも、宝物のような景色が眠っています。11月に入って、「紅葉の時期逃しちゃったな〜」とがっかりする理由はないのです。


↑ブナの枯葉と、ツルアジサイの黄葉の共演も、味わい深い
↑「マザーツリー」と呼ばれる、樹齢400年のブナの大木。深い亀裂が入り、樹勢が衰えてきたのか、貫禄が弱まっていたのが残念。

<岳岱自然観察教育林>
所在地  秋田県藤里町
アクセス  国道7号二ツ井バイパスから県道317号を1時間ほど走行(33キロ)。国道ー岳岱間のうち、15キロは離合困難な山道。最後の6キロは未舗装。人の気配が全くない深山の道なので、交通事故にはご注意を
駐車場  無料
遊歩道の整備度  非常に歩きやすく整備されています。運動靴で可。
遊歩道の体力度  すべてのコースを歩いてもそれほど長くはない。急勾配、階段等、難所もなし
冬季の立ち入り  11月初旬〜5月末までアクセス道路が封鎖されるため、不可。

※<おまけ>
岳岱に向かう県道沿いは、天然秋田杉とブナの混交林となっています。天然の杉の大木と、落葉広葉樹が混生している森、というのはなかなか珍しいので、一見の価値ありです。

↑秋田杉とブナの天然林。冬枯れが始まる時期には、杉とブナの色の違いが明確に出る。


5  あがりこブナ


ブナ好きの方なら、「あがりこブナ」というワードは一度は耳にしたことがあると思います。

あがりこブナというのは、秋田・山形県境にそびえる鳥海山の中腹に生育する、奇形ブナのこと。秋田県にかほ市の「中島台レクリエーションの森」には、あがりこブナが林立する天然林があり、手軽に奇形ブナを拝むことができます。

いざあがりこブナの森に入ってみると、他のブナ林とは全く違った雰囲気に圧倒されます。

あがりこブナの大きな特徴は、幹の低い位置で枝分かれが始まり、全体的に株立ちに近い樹形になる、という点。


↑あがりこブナの幹は、皆こんな感じ。

通常、ブナは単幹なので、あがりこブナのように幹を好き放題乱立させるヤツらを見るのは新鮮でした。おまえほんとにブナか?
美肌樹皮にはスリムな1本立ちの幹しか似合わんだろ、という思い込みをぶっ壊してくれる、斬新なデザインの樹姿。これはこれで、美しい。あがりこブナが林立する森を見ると、ムーミンの「ニョロニョロ」を思い出します。



↑あがりこブナの森。どこか不気味な感じもする。

あがりこブナがどうしてこのような形態になったのかは、はっきりとは分かってしません。有力なのは、「炭焼きが原因である」という説。中島台の森では、江戸時代末期から炭焼きのためのブナの伐採が行われており、現在でも炭焼き釜跡が残っています。ブナの成木を根元で伐採→切り株から萌芽→30〜40年後に、大きくなった萌芽株を再び伐採→また萌芽…というサイクルが繰り返された結果、現在のこぶだらけの株立ちブナが誕生したのです。


↑「あがりこ大王」と呼ばれる、樹齢300年以上の巨木。「森の巨人たち100選」に選ばれている。


↑あがりこブナは幹数が多いので、1本の樹でひとつの森が出来上がっちゃってる感じがする。


基本的に、ブナは萌芽能力が低く、1度伐採されると再び芽を出すことはありません。ではなぜ、あがりこブナは萌芽を繰り返すことができたのか。実は彼らは、人間の助けを借りて萌芽を繰り返していたのです。

ブナの萌芽能力が弱い理由は、根に蓄えられた貯蔵物質が少ないからです。それゆえに、一度の伐採で全ての枝葉が失われると、生存に必要な養分を確保できなくなって樹が死んでしまう。
中島台の炭焼き職人は、この性質を知っていたのでしょう。彼らは、株立ちブナを伐採する際、数本の萌芽幹を残しておきました。こうすることで、樹が残りの枝葉を使って養分を確保できるようにしたのです。

独特なオーラを放つあがりこブナの森は、先人たちが築き上げた、持続的な森林施業の賜物なのです。


↑雨に濡れるあがりこブナの森


↑中島台の森には、立派なシナノキが多かった。ブナだけでなく、彼らの樹姿もイイね。

<中島台レクリエーションの森>
所在地  秋田県にかほ市
アクセス  日本海東北道象潟ICから車で30分
駐車場  無料
遊歩道の整備度 運動靴で可
遊歩道の体力度 非常に平坦で、歩きやすいです。大きな難所なし
冬季の立ち入り 不可


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