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十和田湖の魅力 〜ブナ林に抱かれた巨大なカルデラ湖〜 ②湖畔編

前回は山の上から見下ろす十和田湖の「遠景」にフォーカスして話を進めてきました。しかし、十和田湖の魅力って、それだけじゃないんですよ〜

湖畔の森を散策しよう

ほとんどの観光客は、外輪山の展望台から十和田湖を眺めると、それで満足して帰ってしまいます。確かに予定がキツキツの方は、他にも行くべきところがあるでしょうから、これは仕方がないことなのかもしれません。

しかしやっぱり、湖面と数百メートルの標高差がある展望台から十和田湖をちらっと見て、それで終了〜というのは、すごく勿体無い気がします。

せっかく十和田湖まで来てくださったのであれば、せびとも湖畔を散歩し、湖と森が作り出す心地いい空気に触れて欲しい……‼︎

前述の通り、十和田湖では森と湖が近接しているため、湖畔の遊歩道を散策すれば「大木が生い茂る天然林」と「レイクサイドビュー」の両方を堪能できます。こんな場所、なかなかないですよ〜。
ここからは、十和田湖畔のおすすめ散策スポットをご紹介。

①十和田神社周辺
十和田湖南岸に位置する休屋(やすみや)は、湖畔最大の集落です。由緒ある宿泊施設、お土産屋、名物のひめます料理を食べられる食堂などが立ち並ぶ、十和田湖観光の中心。バスツアーでも必ず立ち寄る場所です。

そんな休屋集落の裏手にあるのが、十和田神社。
ここの境内の森が、すごくいい雰囲気なのです。(十和田神社には、面白い伝説がたくさんあるので、ご興味のある方はぜひググってみてください)


↑十和田神社入り口。鳥居をくぐると、そこは鬱蒼とした森。休屋集落から見ると、異界への入り口に見える。


日本で最も高くなる樹種・スギは、「空(神様の世界)に一番近い場所に到達する生物」であり、古くから神聖な樹木とされていました。そのため、神社にはスギの巨木がお住まいである場合が多いです。
十和田神社もその例に漏れずで、参道は荘厳な杉並木になっています。

下の写真は、その杉並木に在籍している大木。なかなかの迫力です。十和田神社の厳かな雰囲気は、彼らの気品ある樹姿によって醸成されているのでは、と思います。


↑占場へむかう階段。杉の木立の中にオシダが生える光景は、ジュラシックパークの雰囲気。階段がいい具合に朽ち、周囲の森の景観に溶け込んでいるのもイイ。


もちろん、十和田神社の森には、スギ以外にも魅力的なメンバーが多数お住まいです。参道を散策するときは、スギだけに注目するのではなく、背後の深い森にも目を向けてみてください。キャラの濃い樹姿パフォーマーたちが手をこまねいて待っていますよ〜。



たとえば、ぼくのお気に入りは岩上腰掛けカツラ。
屈強な根(もはや幹の一部となっていますが)でがっしりと岩肌を抱き込む姿が印象的。カツラって、水分豊富なところが大好きな樹種のはずですが…こんな岩だらけのところでも根を伸ばせるんだなあ。タフな一面に惚れ直しました。

さらにさらに、十和田神社には、キタゴヨウ、ウダイカンバ、アイヅシモツケ、アオハダなど、奥入瀬渓流ではあまり見られない樹種が大勢いらっしゃいます。やっぱり、普段見れない樹種と会える、というのは楽しいものです。


↑中湖(なかのうみ)を見下ろす青龍大権現付近にある、タコ足ウダイカンバ。湖を偵察してるのかな?と思わず妄想してしまう樹姿。台に足(根)をかけている姿がなんかカッコいい。なにカッコつけて決めポーズとってんだよ‼︎(笑)
切り株の上で発芽した若木が大きくなった後、土台の切り株が朽ちてこのオブジェが出来上がったと思われる。



↑本殿に向かう階段手前にある、ネズコの大木。「子宝の樹」と呼ばれていて、子宝・安産にご利益があるんだとか。ネズコは、亜高山帯に多い針葉樹で、十和田神社ほどの標高ではあまり見かけない。実際、子宝の樹以外に、ネズコの自生は確認できなかった(見落としの可能性はありますが)。おそらく植栽だと思われる


↑キタゴヨウ。十和田神社がある中山半島の森には、キタゴヨウが多い。


いろんな個性を持つ樹とお会いできるから、十和田神社の森は歩いていて退屈しません。良い状態の天然林が保存されているので、大木も多い。
十和田神社の樹木たちに捕まったら、もう逃げられません。あいつらに目をつけたが最後、美しき樹姿に溺れてしまい、際限なく時間を吸い取られるでしょう。覚悟して向かうように……‼︎

…………ここまで読んで、「こんなマニアックな情報、樹木マニアしか興味ないやんけ!!」と思った皆様、ご安心ください。
十和田神社周辺は、樹木に興味がない方が訪れても、十分魅力的なスポットです。

特に、乙女の像近くの「御前ヶ浜」からの景観は、素晴らしいの一言です。


上の写真は、御前ヶ浜の沖にある「恵比寿大黒島」。十和田火山噴火の際に噴出した溶岩から成る小島で、島内に小さな社が2つ建っています。御前ヶ浜の歩道からもしっかりと視認できます。

この小島が最も美しくなるのは、晴れた日の夕暮れ時だと思います。(↓)


空にはまだ明るさが残っているけれど、湖面にはもう暗闇が降りてきている。是非、そんな”中途半端”な時間帯に恵比寿大黒島を訪ねてみてください。島に生えるキタゴヨウたちが見事な影絵を用意して待ってますから。

羊羹の表面みたいにべったりとした水面に、ぽつんと浮かぶ小島のステージ。その舞台上で、キタゴヨウという一流ダンサーたちが、外輪山に沈む夕焼けをバックライトにクールな樹姿を披露する。最っ高のショーです……

あれ、結局樹木マニア的な話になってしまった。やっぱり自然が深い十和田湖では、景色の主菜は樹木なのだなあ。そういうことにしよう。

②西湖畔ーカツラ巨木街道
秋田県側の十和田湖西岸は、観光開発があまり進んでおらず、訪れる人も少ないのですが、魅力たっぷりの捨てがたいエリアです。観光施設がない分、ありのままの十和田湖を感じられます。

ここのエリアの森には、見事なカツラの大木が大勢住んでおられます。そのお宅にお邪魔させていただき、彼らの雄大な樹姿を拝見する、というのが西湖畔散策の醍醐味です。(超個人的な主観ですが)



↑国道のすぐそばに、こんなヤツらがいるという悦び。


十和田湖一周道路と発荷峠へ向かう国道が分岐する「和井内交差点」を黒石方面に進むと、国道454号に入ります。この道は、沿線にカツラの巨木が高密度で生育する「カツラ街道」。車の中からでも、素晴らしきカツラの樹姿パフォーマンスを堪能することができます。(もちろん、車の中から流し見〜というのは勿体無い。ぜひ、車から降りて森を歩き、直に彼らと対面してみてください)

↑「カツラ街道」の地図。猿鼻岬の急カーブ先〜レイクサイド山の家間(青い矢印)が、カツラの巨木密集地帯。


カツラのご自宅を訪ねるのに一番良い時期は、6月始めです。
彼の同居人であるリョウメンシダの大群が、美しい絨毯を林床一面に敷きつめてお出迎えしてくれるからです。

↑おびただしい数のリョウメンシダが一斉に展葉することによって、素晴らしい絨毯が完成。


繊細なデザインの「リョウメンシダ・カーペット」が森じゅうに敷かれた光景を見ると、なんだか森の植物全員に盛大に歓迎されているような気がして、恐縮してしまいます。
だって、カーペットが織りなす景色が素晴らしすぎるのです。淡い緑色を全身にまとった、柔らかな質感の葉っぱたちが、初夏の涼しい風に身を任せてゆらゆらなびく…。この光景に心地よさを感じないほうが難しい。

リョウメンシダよ、おぬしは文化祭前日に張り切る女子か?林床をこんなに盛大にデコって。どうしてくれるんだ、この始末。君たちが敷いたカーペットのせいで森から出られなくなるじゃないか‼︎
こんなに美しい景色、去るのが勿体無い…なんて思って斜面に腰掛けてたら、マジで矢のような速さで時間が過ぎていくぞ。歓迎してくれるのはありがたいけど、美しさにも限度ちゅうもんがあるぞ。(笑)


↑リョウメンシダカーペットの中、心地よさげにくつろぐカツラの大木。この大木が羨ましくてしゃーない。なんでお前こんなに良いとこに住んでんの⁉︎床にティッシュのゴミが散乱した部屋で毎日寝てるぼくとはえらい違い。カツラよ、良い同居人を持ったね。


もちろん、森の上部空間を陣取るカツラたちも、とっても魅力的。

西湖畔の森には、かなりの高密度でカツラの巨木が生えているため、カツラ独特の猛々しい株立ち樹形を堪能し放題。歩いても歩いても、新しく見事な巨木が出てくるので、キリがありません。お前らはいつになったら僕を帰らせてくれるんじゃ〜と思いながら、毎回森を歩いています。

ほんと、カツラの巨木って個性豊かなんですよね。


シュッとしたモデル体型のやつもいれば…(↑)


威嚇するかのように枝をグネらせるヤツもいる。(↑)

見事な大木がそこかしこに生えているので、森を歩いていて全然空きません。樹姿のバイキングです。カツラの惚れ惚れするような枝ぶりを、心ゆくまで鑑賞できます。
ゆったりと森を歩き回り、巨木たちの樹形を舐め回す。これが、西湖畔の森の一番の楽しみ方でしょう。


↑西湖畔の北端にある、「レークサイド山の家」という宿泊施設は、見事なカツラの巨木に囲まれている。樹木ファンであればテンション上がること間違いなし。おそらく、施設が建設される前には、ここに深い渓畔林が広がって、カツラの巨木だけ残されたんだと思われる。



↑十和田湖西湖畔の国道沿いには、こんな感じの深い天然林が広がっている。


③西湖畔ー湖畔の散歩道
カツラカツラとさっきからうるせえ‼︎森よりも湖の景色が見たいんだ〜‼︎という方には、西湖畔の遊歩道がおすすめ。

国道454号沿いに、「大川岱(おおかわたい)」という小さな集落があります。いくつかの民家がまばらに立ち並ぶこじんまりとした集落で、ここの湖岸に、「西湖畔遊歩道」という良い雰囲気の遊歩道があるのです。

西湖畔遊歩道のいちばんの特徴は、「湖と森の境界線をなぞるように通っている」という点。波打ち際すれすれをかすめる箇所もあります。
それゆえ、森と湖、両方の景色をいっぺんに楽しめちゃいます。

西湖畔遊歩道から眺める十和田湖の景色には、なんともいえない味わい深さがあります。



湖岸に生える大木の枝葉の隙間から、青く輝く水をたたえた十和田湖が顔を出す……。この風景が、ぼくは大好きです。深い森に包まれた湖だからこそ味わえる、珠玉の絶景。

西湖畔には、大きな観光施設はありません。だから、人もそれほど多くない。車の騒音や、売店の呼び込みの音で静寂な雰囲気が掻き乱される心配はありません。
聞こえてくるのは、波が岸にぶつかったときの、ちゃぽん、ちゃぽん、という音だけ。自分の片方には深い森が、もう片方には凪いでトロトロになった湖面が広がっている。そんな景色を眺めながら、余計なことはなにも考えずにゆったり散歩する……。濃厚な時間です。

西湖畔遊歩道を歩いて見えるものは、森と湖だけです。そういう意味では、ここの景色はいたってシンプルと言えるでしょう。でも、そのシンプルさが味わえるのは、湖と深い森が近接しているからこそ。森と湖にサンドイッチされて、静寂かつ心地良い雰囲気に身を委ねる…というのは、西湖畔でのみ許される贅沢なのです。


↑西湖畔遊歩道は、それほどしっかり整備されていない。「遊歩道」というより、小学生の探検ごっこで開拓するような「秘密の抜け道」に近い。波打ち際と森の間の、僅かな隙間を縫う箇所もある。でも、この雰囲気が妙な冒険心をくすぐるんだよなあ。普通の遊歩道を通るよりも、ワクワクする。


もちろん、西湖畔遊歩道沿いにも、魅惑的な大木が大勢住んでらっしゃいます。
ぼくのお気に入りは、大川岱集落の裏手にあるドロノキ(↓)。



貫禄ある樹姿。なかなかお目にかかることのできないサイズです。

西湖畔遊歩道を散歩する際は、周辺の巨木たちのところにも、ぜひ寄ってあげてください〜。樹姿パフォーマンスの自信作を用意して待ってると思います。

まだまだある十和田湖の楽しみ方

ここにあげた以外にも、十和田湖畔には魅力的なスポットが多数存在します。十和田湖に行く機会がありましたら、ぜひご自身で湖の周辺を探索し、お気に入りスポットを見つけてください。別にそれは、ガイドブックに載っているような有名観光名所である必要はありません。魅惑的な風景を多く抱き込む十和田湖では、名前すらついていない岸辺の岩、何気ない道路脇からの眺望など、ありとあらゆる場所が、誰かのプライベートビューポイントになり得ます。

↑大川岱の国道沿いからの十和田湖。外輪山が湖を取り囲んでいる様子がよくわかる、いいビューポイント。でも、このポイントはガイドブックには載っておらず、名前もついていない。


また、散策以外にも、十和田湖畔の雰囲気を楽しむ方法はたくさん存在します。湖畔に腰掛けて夕焼けを眺めたり、展望台で日の出を待ってみたり、真冬の湖畔に出かけて「しぶき氷」の撮影に挑戦したり、湖面を悠々と進む水鳥の姿に酔いしれてみたり……。100人いれば、100通りの楽しみ方があるし、100通りの魅力があるでしょう。ありとあらゆるチャームポイントが、十和田湖には散りばめられているからです。

どんな人が、どんな時期に訪れても、その人なりの楽しみ方・魅力を見出せる。十和田湖は、そういった懐の深さを持った場所なのです。ですから、あなたが訪れた時も、十和田湖はきっと、実りある体験をプレゼントしてくれると思います。

「魅力的な観光地」って、こういう場所なんだな、と思います。


↑ぼくが一番印象に残っているのは、湖畔に腰掛けて夕焼けから日没まで、ずーっと空と湖を眺めていたときのこと。
↑湖面の波紋が、夕暮れ時の柔らかな光に照らされた光景には、「天然のプロジェクションマッピング」という表現が似合う。吸い込まれそうになるぐらい、眩しく煌めく湖面をずっと眺めていると、ながて日が暮れ、湖面は一気に紺青色に。
↑ 深い青をたたえた湖と、夕焼けの残香を漂わせた空のコントラストが非常に美しい。



↑外輪山の裏側に太陽が沈むと、徐々に夜闇の勢力が強くなる。湖面の隅々まで暗闇が行き渡れば、紺青色の湖面はやがて見えなくなる。考えてみれば、昼と夜の境界を、空を見上げながら超えたことなんて今までなかった。明るい青空から暗闇が生成されるまで、空の様相がどのように変化するのか、知らなかった。昼→夜→昼……のサイクルは、自分が生まれてから幾度となく繰り返されているはずなのに。
夜の闇は、空の青色が濃くなることによって出来上がる。昼夜の境界線って、こんなにも神秘的なものだったのか……。さえぎるものが何もない場所で、湖の波音に耳をすませながら、空を見る。こんな贅沢を許してくれて、ありがとう十和田湖。

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