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未生の時

かつて「弓弦」という短歌中心の同人誌が発刊されていました(1994~1999)。そのNo.12(1999.08)で発表した10首を投稿します。


未生の時 《作品十首》



息吸いて息吐きてゐる山肌に流るる瀑布の白あたらしき

吹く風に吹かれ追はれて吹き溜まるまにまに果てし暗緑の時

過ぐれども消え去りやまぬ闇色の風の聴こゆるまなこ瞑れば

両の掌(て)のなかでしづかに潰れゆく思ひあるらむ祈りのときに

終はりなき数多の夢の谺すう二日月夜の幽きひかり

秋(とき)は過ぎ春あらたまりなほ繁る紅葉の樹々(きぎ)は風に騒ぎて

鎮めうた低く流るる地のうへの降り積む腐葉 熱放ちをり

その時は今だ来たらず降る雨の黒きひとつぶ地に降りそそぎ

分去れ(わかざれ)の片への路は衝(たひ)らかにあれよと
今はかえり見はせず

このみちはいづこへつづくいづれかのときの虚貝(うつせ)に
まじりけむとも


初出:『弓弦』1998・08

拙稿をお心のどこかに置いて頂ければ、これ以上の喜びはありません。ありがとうございます。