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実験する前に論文を書こう~「仮説思考」を読んで~ (ver1.0)

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どんな本か?

仮説思考のコンセプトおよびその有用性を理解した上で、仮説思考の運用方法と、仮説思考力の身に着け方を学べる本です

何故この本を読むべきか?

仮説思考とその使い方を学び、日々の仕事に応用することで、生産性を爆発的に高めることができるからです。

1. なぜ仮説思考が必要なのか?

1-1. 仮説思考とは

仮説思考とは、今ある情報をもとに、その時点で最も答えに近いと考えられる仮の答えを導き出し、それを検証・改善しながら答えの質を高める思考法です。反対に、十分な情報を集めた上でそれを分析し、一気に最善策を導きだそうとするのは、網羅的思考と呼ばれます。受験勉強に例えるなら、参考書の隅から隅までを万遍なく読んで暗記をした上で、一発勝負で本番に臨もうとするのが網羅思考型のアプローチです。とりあえず重要そうなところのみを暗記し、それでどのくらいの点数が取れるかを過去問等を解くことでテストし、解けなかった問題を解くために必要な情報を追加で取得していくのが、仮説思考型のアプローチです。

1-2. 仮説思考で生産性が向上する

仮説思考がおすすめなのは、特に複雑な問題を解く場合に、網羅的思考よりもが圧倒的に効率が良いからです。重要な意思決定を行う場合、網羅的思考の人は、十分な情報が集まることを待つため、ビジネスチャンスを逸してしまうことが多いです。特に、日本人はこの傾向が強いようです。仮説思考であれば、その仮説を検証するための材料以外は、切り捨てることができるので、不要な情報を集める心配はありません。もちろん、検証の結果、仮説の誤りが判明した場合は立て直しが必要になります。しかし、それでも、失敗から得られた知見をベースに、仮説を進化させられるので、後から立てられる仮説は、前より答えに近づいています。仮に最適解まで到達できずとも、十分な精度の答えまでかなりのスピードで到達できます。筆者は、網羅的思考は全探索、仮説思考は二分探索に例えられると考えています。いずれも、探索アルゴリズムの一種ですが、全探索がしらみつぶしに照合をかけるの網羅的アプローチであるのに対し、二分探索では、まずざっくりと当りをつけ、良さそうであれば絞込み、ダメそうであれば別の場所に当たりをつけるという仮説検証型のアプローチです。問題が複雑になればなるほど、二分探索の方が指数関数的に効率が良くなるということが証明されています。仮説思考の場合も同様で、問題が複雑になればなるほど、その威力が発揮されるものと考えています。

2. ビジネスにおける仮説思考の威力

2-1. 問題の発見と解決

仮説思考は、本当に解くべき問題が何かを見定め、解決策を導くことにおいて威力を発揮します。”売上が伸びない”など、ビジネス活動で問題として表出してくる事象は、様々な因子と複雑に絡み合っています。このため、網羅的思考ですべての可能性を虱潰しにするアプローチでは、いつまで経っても問題が解決されません。例えば、”売上げが伸びない”という事象に対して、網羅的思考で問題を発見しようとすると、消費者の購買行動・ブランド嗜好調査、営業マンの活動分析、競合他社との商品力・価格競争力比較、工場での原価分析、流通チャネルの経営分析などを行うことになり、膨大な時間と費用がかかり、調査が終わるころには消費者ニーズが移り変わってしまうこともあり得ます。

問題の発見と解決では、➀問題仮説の立案、②問題仮説の絞込み、③解決策の立案、④解決策の絞り込みの順番で仮説思考を運用します。まず、"何が問題か?"の仮説を立てる際は、その時点までに得られている情報をベースに、”これではないか”という少数の案に思いきって絞ります。この上で、各案を検証し、有望な案を選びだします。選んだ有望案に対し、なぜなぜ分析等で真因を探り当て、その真因を解決するための打ち手についても、少数の案を立てて、検証によって絞り込むという運用方法になります。

ここで大事なことは、考えた打ち手を実験をし、その結果を元に仮説を進化させることです。自分たちが考えた打ち手により一発で課題が解決されることがほとんどないためです。そして、失敗した時に失敗をダメなものとして避けるようなアクションをとってしまうと、網羅思考に逆戻りすることになります。このため、失敗から得た学びを元に、仮説を進化させるという、失敗を既定路線として捉えるのが仮説思考のスタンスになります。失敗は、繰り返せば繰り返す程、仮説は進化し、結果的にビジネスの改善が進むことになります。

2-2. プロジェクトマネジメント

仮説思考でストーリーの大枠を先に作ることで、成果に結びつけやすくなります。目的・結果志向で仕事を進められるようになるからです。知的労働であれば、その結果をレポート等にとりまとめ、上司・クライアントに報告することが求められます。このとき、作業を一通りすべて終えてから、その結果をレポートにとりまとめるのが網羅的思考の仕事のやり方です。一方、仮説思考では、レポートの要旨やキーメッセージとそれを支える根拠の論理構成を、仕事を始める前に仮説ベースで一旦作ってしまいます。これをすることで、ストーリーを完成させるために不足している情報、根拠が何かを明確にすることができ、それを取得することのみにフォーカスするようになるため、結果に直結したアクションをとれるようになります。さらに、このようなことをあらかじめ把握しておくことで、上司・クライアントや部下とのコミュニケーションも円滑に進められるようになります。

3. どうやって仮説を立て・進化させるのか?

3-1. 仮説を立てるコツ

仮説立案では、意図してモノの見方を変えることが重要です。人は誰でも自分の得意な見方でモノを観て考察しており、多かれ少なかれ、視野狭窄に陥っているため、モノの見方を強制的に変え、視野を拡げることで、新たなひらめきを得やすくなるからです。具体的な手段として、➀反対側から考える、②両極端に振って考える、③ゼロベースで考えるの3つがあります。

  • 反対側から考える

顧客視点、現場視点、競争相手視点など、自分とは全く逆の立場でモノを捉えようとする考え方は有効です。例えば、商品開発者が、自社の製品・サービスを利用するユーザーの気持ちを理解しようとしたり、現場に赴き、現場の想いを観察し、体験したりすることで、これまで観えていなかった現場やユーザーのペインポントを実感することで、より効果的な仮説を思いつける可能性があります。また、競合他社の立場に立って考えることで、これまで自分達だけでは思いつかなかった自分の強みが明らかになる場合もあります。

  • 両極端に振って考える

これは、両極端なシチュエーションを想定することで、最も大きく影響する要素は何かを探れます。筆者は、色々な変数を大きく動かすことで結果がどう変わるかを思考実験し、重要な因子を割り出す、いわゆる感度分析の思考実験と捉えています。例えば、グッチのバッグの値段を9万円から10万円にしても売上個数は変わらなそうだが、逆に5万円にすると、ブランドイメージが棄損されて、メーカー全体の売上げが落ちるかもしれないなどと、考えてみてみることで、これまで見えていなかった構造が見えてくる場合があります。

  • ゼロベースで考える

既存の枠組みや規制を忘れて物事を捉えなおすことで、目的に対する最適な方法に到達しやすくなります。例えば、”コールセンターのコストを1割削減しろ”といわれれば、業務効率を上げるとか、1件当りの処理時間を1割短縮するなど、既存の枠組みで実現しようとすると思います。一方、”コールセンターのコストを9割削減しろ”といわれれば、これまでの考え方を諦め、全く新しい発想を取り入れる必要があります。例えば、AIチャットボットを導入してコールセンターを無人化したり、人件費が安い東南アジアに外注する等が考えられるかもしれません。

3-2. 仮説を進化させるコツ

立てた仮説は、深掘りして進化させることが必要です。そして、深掘りにおいて必要となるのが”構造化””検証”です。

  • 構造化

仮説をイシューツリーにより深掘り・具体化することで、具体的なアクションに結び付く仮説へと進化させることが大事です。イシューツリーとは、図1のように、頂点に問題があり、その問題の原因を要素分解した仮説が次の階層にあり、さらにそれらを分解した仮説が次に階層にあるといったような構成である。大抵の場合、最初に思いつくのは浅い層に位置する仮説であるが、図1の例では、、"競争に負けている"、"需要が減っている"だけでは、直接的なアクションに結びつきづらいです。したがって、これらはあまり良い仮説とは言えません。一方、イシューツリーを用いて大きな仮説を複数の小さな仮説に分割したいくと、仮説の具体性が増し、アクションにつながりやすい仮説になっていきます。例えば、図1の最下層の、"競争相手の販促が優れている”という原因に対しては、"こちらも販促に力を入れる"、"広告で差別化を図る"など、具体的なアクションが取りやすくなります。

図1 イシューツリーの例
  • 検証

深掘り・具体化を効率的に進めるためには、検証が不可欠です。検証を行うことで、筋の悪い仮説を切り捨て、筋の良い仮説に注力して仮説を効率的に進化させられるためです。検証には、実際に実験して検証する方法、自分の仮説をディスカッションやインタビューでぶつけて確認する方法、分析によって確認する方法の3通りがあります。実験して検証することが一番確実ではありますが、相当な企業体力が必要になる場合もあるため、より効率的なディスカッションでの検証、分析での検証と組合せることが必要です。

4. ひらめき力を高めるコツ

良い仮説を思いつくための仮説思考力は、日常的な訓練で鍛えられます。身の回りに起こった現象や、ニュース等の報道情報を受けて、”これの意味するところはなにか?”、”将来どのようなことが起こるのか?”、”なぜこのようなことが起こったのか?”などを考えることで、仮説思考力を磨くことができます。

仮説思考力を身につけるには、決して諦めない知的タフネスも大事です。なぜなら、仮説を立てることは決して単純な話ではないからです。このため、慣れないうちは失敗と反省を繰り返しながら、自分の間違いを修正していくしかありません。つまり、失敗を積み重ねた先にしか成功はないということです。この本の著者曰く、いくらIQが高くても、人に色々言われることに耐えきれない人よりは、多少IQが低くても、積極的に失敗をして、そこから学び取れる人の方が成長することができます。

まとめ

仮説思考を活用すれば、総当たりに可能性を潰していく網羅的思考と比較し、効率的かつ効果的に仕事を進め、成果を得ることができます。特に、ビジネス課題のような、無数の因果関係により成り立っている複雑な課題であればあるほど、仮説思考は威力を発揮します。ビジネスシーンが加速度的に複雑化している昨今にあっては、常日頃から、"なぜなのか?"、"つまりどういうことなのか?"を考え、失敗を恐れずに仮説と検証を繰り返しながら仮説思考力を磨いていくことが、今後のビジネスパーソンには求められると筆者は考えます。

参考文献

内田和成. 仮説思考: BCG 流問題発見・解決の発想法. 東洋経済新報社, 2006.


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