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#114 生活の基本と楽しみ方を教えてくれる本たち|【2021-01】3テーマ読書記録

毎月読む本は、心を豊かに、暮らしを豊かに、世界を広げるの3テーマに当てはまるなんでも良いことにしている。今月も”何となく”惹かれた本を読んだのだが、振り返ってみると日々の生活の基本や楽しみ方を教えてくれるというテーマにぴったりの本たちだった。
「なぜ今、暮らし系のYouTuber がこんなにも人気なのだろう?」と思っていたが、その理由も何となく分かった気がする。

では、さっそく振り返ってみよう。
(アイキャッチ画像:人によっては違って見えるかもしれない壁のタイル)

心を豊かにする読書

生きるぼくら ★★★★★

母親と二人暮らし、ひきこもりの少年「人生」が、”母親の家出”をきっかけに離婚した父方の祖母を訪ねて蓼科へ向かう。
祖母、マーサばあちゃんのもとにたどり着いたものの、認知症を患い人生のことを孫だと認識してくれない。そして、マーサばあちゃんが大事に続けてきた自然栽培の田んぼも続けられなくない状態になってしまう。そんな状況で、人生が何とかして田んぼを続けようと奮闘しながら、自分の人生を一歩ずつ歩いていく姿を描いた物語だ。

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ひきこもりだった人生が、蓼科の豊かな自然と格闘しながら、稲と仲間と向き合い、成長していく姿が印象的だった。以前同じ著者の「ジヴェルニーの食卓」を紹介したが、この作品と同様に、四季の変化や自然風景の描写の美しさが魅力的だった。

原田マハさんは美術にまつわる作品を多く書いている。「生きるぼくら」は美術を主題にした作品ではないが、日本画家・東山魁夷(ひがしやま かいい)の「緑輝く」という作品がどのように物語に関わっているのかも読みどころだ。

「生きる”ぼくら”」というタイトルの意味もぜひ読んで確かめてみてほしい。

暮らしを豊にする読書

OKUFAIRA BASE ★★★★★

内容も面白いけれど、朝、昼、夜の時間と順に時を進めるなかで、お気に入りの道具、こだわりとその理由、時間の使いたかた、楽しみ方、どんなことを考えているかが紹介されている。まるで一日の暮らしの中に奥平エッセンスが散りばめられたような構成は読者を飽きさせない。

個人的には、誕生日の近い奥平さんの等身大の暮らしに魅せられた。
・毎日の料理に没頭し、美味しいごはんで幸せを感じること
・モノを吟味し大切にすること
・テレビをあえて持たずに、日々の暮らしや友人との時間を楽しむこと
・消費するだけじゃなく、キッチンツールを作ったり動画で発信したりすること
などなど…共感の嵐!同世代に同じような考えを持つ人がいて嬉しく思うと同時に、自分の暮らしの、人生の、「ベース」となる場所を持つことの大切さを再確認できた本だった。
足るを知るってこう言うことなんじゃないかな。

世界を広げる読書

暇と退屈の論理学 ★★★★★

(第五章~)pp. 206-375
昨年12月に第四章まで読み終え、「消費と浪費」に焦点を当てて紹介した。今回は第五章で登場する「暇と退屈」を考える材料のうち、特に印象的だったものをいくつか紹介する。

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みんな異なる世界を生きている―ユクスキュルの環世界
(第六章「暇と退屈の人間学―トカゲの世界をのぞくことは可能か?」より)

エストニア生まれの理論生物学者、ヤーコブ・フォン・ユクスキュル [1864-1944] の環世界 (Umwelt)という概念が面白かった。本中では、ハイデッガーの退屈論を考察する際に用いられる概念である。
以下説明文を抜粋する。

ではユクスキュルのいう環世界とは何か?
私たちは普段、自分たちをも含めたあらゆる生物が一つの世界のなかで生きていると考えている。すべての生物たちが同じ時間と同じ空間を生きていると考えてる。ユクスキュルが疑ったのはそこである。彼はこう述べる。すべての生物がそのなかに置かれているような単一の世界など実は存在しない。すべての生物は別々の時間と空間を生きている!(pp. 263-264)

人にも環世界があるが、ヒトという単位で一つの環世界があるのではなく、年齢や社会的な立場によって異なる環世界を持っている。そして、他の動物と比べて、ヒトは異なる環世界を自由に行ったり来たりすることができるそうだ。

例えば、
・新しい言語を学ぶと、その言語に合わせて性格が変わった
・作曲を勉強したら、今まで聞いていた音楽が全く別のものに聞こえる

もう少し日常の例えを挙げるなら、
・会社にいる時と家にいる時の自分は全然違う自分である
(気づいた人もいるかもしれないけど分人の考え方と少し似ている!)

このように、”環世界を自由に移動できること”は世界を見る様々なフィルターをメガネのように掛け替えられること、と言えるだろう。これが人が退屈を感じることと大きく関係している。
環世界の話はそれ自体も面白かったが、どのように退屈と結びつくのかも読みどころだ。

ウィリアム・モリスと民衆の芸術
最終章「結論」では、三つの結論が述べられている。結論についてここでまとめることは控えるが、(次に書きたい考察に関係する)二つ目の結論とウィリアム・モリスについて触れたいと思う。

ウィリアム・モリスは、第三章「暇と退屈の経済史ーなぜ”ひまじん”が尊敬されてきたのか?」で、ソースティン・ヴェブレンとの工業製品に対する考え方が正反対の人物として登場する。

ヴェブレンは「有閑階級の理論」でひまじんの階級である有閑階級について書いた人物だ。彼は、全く同じものを大量生産できる機械製品がいかに素晴らしいかということを語っている。
一方モリスは、”産業革命以降、粗悪な工業製品が人々の生活を覆いつくしてしまったことを嘆いてアーツ・アンド・クラフツ運動をはじめた”人物である(p.115)。豊かな生活に対する考え方はヴェブレンとは対照的で、”生活の中に芸術が入っていくこと、つまり、日用品、生活雑貨、家具、住宅、衣服等々、民衆が日常的に触れるもののなかに芸術的価値が体現されること(p.361)”を考えていた。

豊かな生活では、一人一人が生活の中の芸術を味わい、楽しめるようになるための訓練が必要※だそうだ。そして楽しむことは考えることにもつながるという。※ラッセル「幸福論」より

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日常を楽しむことができ、そこから思考を広げていった先に、「暇と退屈の倫理学」の結論はどう帰着するのか、また新たな問いにどのようにつながっていくのか?この部分は最後まで読んだ人だけが味わえる本書の面白さだろう。

”暮らし系YouTuberが人気な理由”の考察メモ

「暇と退屈の倫理学」の読了後、「この最後の数ページの結論と問いかけのために、たくさんの人物の考えや概念を読んできたのかあ。」と二か月に及ぶ読書が終わり清々しい気分だった。と同時に、どこか「OKUDAIRA BASE」に通じる所があるよな気がした。
この考察(というよりはメモ)はその引っ掛かりについて考えてみたことの記録である。

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ラッセルの「幸福論」と楽しむための訓練(「暇と退屈の倫理学」より)
「楽しむための訓練」では、食べることを例に訓練について著者の見解が書かれている(ラッセルは食については言及していないらしいが)。

食を楽しむためには明らかに訓練が必要である。複雑な味わいを口の中で選り分け、それを様々な感覚や部位(口、舌はもちろん、喉、鼻、さらには目や耳、場合によっては手など全身)で受け取ることは、訓練を経てはじめてできるようになることだ。こうした訓練を経ていなければ、ヒトは特定の成分にしかうまみを感じなくなる。(p.356)

このことは食にとどまらず、モノを見る目を養うことも同じではないか?もう少し掘り下げてみよう。

どうやってモノを見る目を養ったらいいかわからない私たちに、やさしく語り掛けてくれる存在
OKUDAIRA BASEでは、
・出汁を取るところからみそ汁作りが始まり、土鍋でごはんを炊いたり、ビザを手作りりたり、手間はかかるが毎日時間を取って料理をしていること
・こだわってキッチンツールをそろえたり、月1回の不用品チェックをして物と向き合う時間を作っていること
・洋服や靴の選び方にもこだわりがあること
・部屋のDIYについて
といったことが紹介されている。

また、「物選びは生き方をデザインすること」「いつだって15万円で生きていける」という節がある。本の内容や節タイトルにも表れているように、暮らしのルールや判断基準を自分なりに作り、無意識のうちにモノを見る目を養っているのではないか。だからこそ暮らしを楽しめているのだと思う。

そしてYouTubeチャンネル「OKUDAIRA BASE」の動画では、本で書かれている、楽しむための訓練の(モノを見る目を養っている)様子が映像として発信されている。

動画で奥平さんの自然体の暮らしを見ていると、あたかも友達や息子の普段の生活を見ているような気分になる視聴者は多いはずだ。そして、真似してみようと思い立てば実践できるというところもポイントだ。
というのも、モノを見る目の養い方や、自分なりの判断基準のつくり方は誰かから教えてもらって身につくものではないからだ。自分でたくさん服を買ってみたり、色んなものを食べてみたり、作ってみたりしてはじめて身につく。

モノが溢れすぎて、いつの間にか精神的にも消費されてしまう現代社会に疑問を感じている私たちに、「こういう楽しみ方もあるんだよ」とやさしく教えてくれる存在。これが、OKUDAIRA BASEをはじめとする暮らし系YouTuber が人気を集める理由ではないか。

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上に書いたこと関係なく、OKUDAIRA BASEは映像や音の撮り方といった作品としてとても良いので、そちらもぜひ!

番外編:ムック、マンガ

TRANSIT 50号 ブルーに恋して!美しき日本の青をめぐる旅 ★★★★★
私が一番好きな色、青。青の歴史や日本の青の伝統色を知るうちにさらに青が好きになった。

偶然だが、「生きるぼくら」で登場する日本画家・東山魁夷は群青や緑青といった青色を基調とした作品を多く残している。そのことから「東山ブルー」と呼ばれているそうだ。そんな東山と日本の自然風景に関するページも見どころだ。

八百森のエリー ★★★☆☆
青果の市場流通について知りたいと思って手に取った漫画。まだ1巻しか読んでいないのでこれから読んでいく!

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3テーマ読書とは

「3テーマ読書記録」は、毎月1日に先月分の読書を振返ってみるというもの。バランスよく色んな本を読みたいので、1か月の間に以下3テーマの本を最低1冊ずつ読むようにしている。

#心を豊かにする読書
他人の人生を読書を通じて体験できる小説などの物語。
#暮らしを豊かにする読書
ミニマルに生きるためには、経済的に自立するためには?という自分自身が関心あること、そして日々の暮らしを豊かにするために読む本。
#世界を広げる読書
研究の幅を広げてくれる本、知的好奇心を刺激する本、歴史を知ることのできる本など。

ブクログでは、紹介したタグをつけて本棚登録をしています 

3テーマ読書のきっかけを話している音声投稿↓

2020年アーカイブス


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