「異なるものの中から同じを見つける」力は逆境に強い

こんにちは。
緊急事態宣言が解除されましたが、コロナ危機はまだまだ先行きが見えず、厳しい日々がつづきますね。
さて、今日は「異なるものの中から同じを見つける」力が逆境に強い、レジリエントな力でもあることについて、です。レジリエントとは、「強靭」と訳されることもありますが、たんに「強い」のではなく、ダメージに見舞われても回復力があることです。国連の持続可能な開発目標(SDGs)でも「レジリエントなインフラ」「レジリエントで持続可能な都市」など、重要なコンセプトの1つになっています。

少し前になりますが、コロナ危機の中、そんなレジリエントな力を感じた記事が東京新聞に掲載されていました。
「夫がテレワークになり、神経をすり減らしている――。そんな母親たちの声を受け、北区の子育てママ応援サロン『ほっこり~の』は、パパ向け臨時シェアオフィスを始めた」と始まる記事では、次のようなことが書かれています。
コロナのため休業中の「ほっこり~の」は、代わりに電話相談を始めていましたが、在宅勤務中の夫が「子どもを静かにさせろ」と怒鳴るという人や、電話がつながった瞬間に泣き出す人もいるなど子育て中のママたちの悲鳴を受けて、子育てサロンを「パパ用オフィス」として貸し出すことにしました。
1日4人まで個室が利用でき、電源やWi-fiなどもあって6時間で3000円。利用した男性の「(家では)子どもが仕事の電話中も寄ってきて、つい怒ってしまう時もあるが、ここなら集中できる」というコメントも紹介されています。

ほこり~の新聞部分


(東京新聞 2020年4月22日)

子育てサロンをパパ用オフィスにするという発想は、代表の内海千津子さんの「逆転の発想でパパを預かっちゃいます」という言葉どおり、すばらしい発想の転換だと思います。

記事から想像したことを、図にすると次のようになります(あくまで私の想像を図式化したものです)。

コロナ前はこんな感じ。

ほっこり~の1

コロナが流行してからはこんな感じ。

ほっこり~の2


「子育てママ応援サロン」(以下ママサロン)の事業は、子育て中のお母さんたちに子連れでサロンに来てもらって、その場でサロン職員や他の親子と交流することで、孤立したワンオペ育児から束の間解放されて気分転換したり、愚痴や子育て情報などを交換してもらうことでお母さんたちの力になることです。
ママサロンは、お母さんたちがおしゃべりしたり、ちいさい子を遊ばせたり、ゆったりリラックスできる場所です。その場所をお父さんたちが仕事のために使うというのは、いろいろかけ離れていてびっくりしてしまいますが、ママサロンの事業の目的という観点から、ET論的に図にするとこのようになります。

ほっこり~の方程式


ママサロンの事業の目的から見た本質は「サロンのスペースを使ってママを応援すること」です。
コロナ前、家にいるお母さんたちがワンオペで疲れているときは、母子がサロンに移動して、この目的を達成していました。
コロナ流行下、お母さんたちが家にいる夫によってストレスを感じているときは、夫(父親たち)がサロンに移動して、お母さんたちのストレスを減らして事業の目的を達成しています。
サロンに来る人やサロンの使い方は変わっても、事業の目的からみた本質は変わっていないのです。
さらに、この発想の転換によって、お母さんたちだけでなく、お父さんたちも集中して仕事ができますし、サロン事業にとっても収入が得られます。苦境の中でまさにレジリエントな発想力だと思います。


次に、同じようにレジリエントな発想の転換で、窮地を乗り越えた別の例を紹介します。
 明治時代の終わりごろ、大阪の小規模な電球メーカーだったその会社は、大手メーカーが電球を量産するようになってピンチに陥ったとき、「自社がもっている製造技術を生かして事業を継続する」という観点から、製造するものを、電球から魔法瓶に変えて成功をおさめました。
どうしてこのような業種転換が可能だったのでしょう?
それは、電球も魔法瓶もガラスを使って作られていて、形や大きさ、厚みや強度などは違っていても、「中を真空にしたガラスビン」という点では同じだったからです。当時の魔法瓶の基本的な構造は、中が真空の二重構造のガラスビンだったのです。

電球と魔法瓶イコール

 そこでこの会社は、電球をつくる技術の中の「中を真空にしたガラスビン」製造技術を生かして、つくる製品を切り替えました。

電球から魔法瓶式


今日では、素材がガラスからステンレスに変わり、大きさや使い方も変化し、魔法瓶はあまり見かけなくなり、かわりにマイボトルを使うことが多くなりましたが、飲み物の温度を保つための基本的な仕組み、構造は同じです。
 この会社は、大手メーカーに圧されて大変なとき、「電球」やその業種に囚われず、自分たちの持つ真空のガラスビンを作る技術を生かして、まったく異なる製品、魔法瓶を作る事業に切り替えることで苦境を乗り越えることができたのです。
(市川亀久彌著『創造性の科学』より)

全国魔法瓶工業組合のサイトによると、日本で最初に魔法瓶を作ったのは日本電球会社に在籍していた八木亭二郎さんという方で、輸入された魔法瓶を解体・研究して、1912年(明治45年)に魔法瓶の国産化に成功し、「八木魔法壜製作所」を設立したそうです。
今も有名な象印マホービン株式会社もタイガー魔法瓶株式会社も大阪の企業ですが、このサイトでは、江戸時代からガラス工房があった大阪でガラス工業が盛んだったことから、魔法瓶製造も盛んになったことも紹介しています。
http://mahobin.org/episode.html

2つの例で見たように、自分の力ではどうしようもない苦境に立たされた時、本当に大切な観点から本質を見極めることはレジリエントな力につながります。
ある観点から本質を見極めることは、ある観点で「異なるものの中から同じを見つける」ことでもあります。どんな観点から、どんな要素を削ぎ落して、どんな本質を見出せるのか、それによって得られる発想は大きくちがってきます。
でも、じつは多くの場合、観点を定めて、そこから本質を抽出して......と順を追って思考しているのではありません。観点と本質の発見、さらには解決案・新しい発想のうっすらとしたイメージをつかむところまで、たいてい、ひらめきのように直感的に同時に起こります。
「異なるものの中から同じを見つける」力を鍛えることは、さまざまなレベル、さまざまな位相、さまざまな遠近感での観点とその本質を発見する力を養います。「異なるものの中から同じを見つける」力がレジリエントな力につながる理由がここにあります。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?