発想の転換でダイナミックな「創造」が生まれる

こんにちは。
暑いですね。今回は等価変換創造学会員(*1)の上坂且さんが開発した、家庭用のアイスクリームメーカーについて紹介します。

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                 (tookapicによるPixabayからの画像)

アイスクリームは、牛乳やクリームなどと卵、砂糖などの原料をよく攪拌し、空気を含ませながら凍らせて作ります。現在は、各社からいろいろなアイスクリームメーカーが発売されていますし、ネットを見ると手作りアイスクリームのレシピもたくさん出ています。今日、家庭でアイスクリームを作ることは、ひとつのライフスタイルとして定着しているようです。その起点となったのが、上坂さんが開発し、1983年に世界で初めて発売された家庭用アイスクリームメーカーでした。
 そのアイスクリームメーカーは、「どんびえ」という商品名で、あらかじめ冷凍庫で7時間以上凍らせた容器に原料を入れ、ハンドルを回して攪拌すると、どんどん凍ってアイスクリームができるというものです。発売されると一世を風靡し、日本だけでなく海外でも大ヒットしました。

どんびえと箱


日本軽金属株式会社というアルミニウムの総合メーカー社員だった上坂さんが、どのようにアイスクリームメーカーを開発したのか、上坂さんのブログ(http://blog.livedoor.jp/uesaka14/)からたどってみます。
 
当時、上坂さんの隣の部署で、「チルファスト」という蓄冷体が開発されました。マイナス10℃以下にまで温度が下がる蓄冷剤を、熱伝導率の高いアルミ容器に詰めたものです。十分に凍らせた蓄冷体を冷凍庫から出すと、蓄冷剤の熱(冷たさ)がアルミを通して少しづつ外気に放出されます。冷蔵車が一般的ではなかったので、冷蔵品を輸送するときの保冷用に開発されました。上坂さんは好奇心から家に1つ持ち帰ったものの、何カ月も冷蔵庫の冷凍室に入れっぱなしになっていました。
ある日、思い出して取りだして見ると缶全体に真っ白に霜がふいていました。そこに、たまたま息子さんがやってきて、牛乳パックを開けようとして手を滑らし、牛乳のしずくが「チルファスト」の缶にかかりました。

上坂さんイラスト


すると、缶の表面の牛乳のしずくが見る間に固まり、上坂さんはそれを爪でしごいた瞬間、「これでアイスクリームが作れるかも知れない」と思いました。それまでにときどき奥さんのアイスクリームづくりを手伝っていた上坂さんは、次の瞬間には、「蓄冷剤をアルミの二重容器の間に入れ、その容器の中に材料を入れてヘラのようなものでかき混ぜればアイスクリームができるにちがいない」とアイスクリーム製造器のおぼろげな構造が頭に浮かんでいたと言います。
それは、当時家庭でのアイスクリーム作りには大変な手間がかかっていたからです。材料を入れた容器を冷凍庫に入れて、2~3時間冷やし、そのあと30分程度の間隔をあけて冷凍庫から取り出して中身を攪拌する作業が3~4回必要でした。上坂さんは、十分に凍らせた蓄冷体の中で材料を攪拌すれば、蓄冷体に触れた部分が次々に凍るので、短時間でアイスクリームができるはずだと思いついたのです。
この発想を、等価変換論(ET論)の等価方程式の図に当てはめるとこのようになります。

どんびえ

このアイデアは、試作品作りから発売まで、技術的な問題やその他のさまざまな問題に直面しつづけた2年を経て、発売されました。「どんびえ」が大ヒット商品になったのには、高い技術力・問題解決力が必要だったことは、上坂さんのブログに記されていますが、とはいえ、アイスクリームメーカーの技術は、蓄冷体の技術からみて革新的というわけではありません。
「チルファスト」も「どんびえ」も、形は変わっているいものの、おおまかに言うと「蓄冷剤をアルミ容器に入れたもの」です。元となったA「チルファスト」と、B「どんびえ」に持ち越したものがあまり変わらないのです。創造の過程に含まれる「AとBの中の同じを見つける」ということで言えば、「AとBがかなり同じ」という状態です。

ここで真に創造的だったことは、十分に凍らせた蓄冷体が、表面に触れた液体を瞬時に凍らせたことを目にした経験から、保冷用の蓄冷体の技術が、「保冷」ではなく「凍結」に使えることに気づいたこと、そしてニーズもなかった家庭用アイスクリームメーカーを発想・開発したことです。それによって、冷蔵品の輸送にかかわる保冷のための技術が、家庭での楽しみのための技術へと、質的な飛躍を遂げています。
その結果、家庭で手軽にアイスクリームをつくるという今までになかったライフスタイルが定着し、のちに多くのメーカーから後続の商品が発売されるようになりました(現在発売されているアイスクリームメーカーは、多くが電動で攪拌するタイプですが、技術的な大枠は「どんびえ」と同じです)。
すでに実現している技術や考え方を受け継いで活かしながら、新しいものをつくり出すのが「創造」なのですが、その「新しさ」は、技術に限らず、使い方や価値観であったりするのです。

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と、そんなことを考えていて、40年前の「ウォークマン」の登場は、技術的には新しいところはなかったのに、用途の発想を転換して、まったく新しいライフスタイルをつくり出し、その後の歴史にとても大きな影響を与えた出来事だったと思いました。高音質の音楽を楽しむのは室内のオーディオで、というのが当たり前、というよりそれしかなかったときに、屋外で歩きながら音楽を楽しもう、という新しい価値観の商品をつくったのです。

ウォークマンアイデア

「ウォークマン」が最初に発売されたのは1979年。当時はカセットテープを再生するポータブルのステレオカセットプレーヤーで、軽量のステレオのヘッドフォンとセットでした。
ソニーのウェブサイトなどによると、ウォークマンの開発は、好きなクラシック音楽を出張先でも楽しみたい当時の名誉会長の「小型のテープレコーダーに、再生だけでいいからステレオ回路を入れてくれないかな」という言葉から始まったそうです。
実際の開発は、すでに発売していたカセットテープレコーダー「プレスマン」を元に進められました。「プレスマン」は、小型のカセット録音機で、録音、再生、早送り、巻き戻し、一時停止などの操作が片手でできて、ビジネスマンの間で人気があったそうです。機能的には、のちのICレコーダーにつながるような製品です。
この「プレスマン」から、スピーカーと録音機能を取り除き、ステレオ機能と高性能軽量のヘッドフォンを加えて「ウォークマン」がつくられました。

ウォークマン式

「録音」が大きな目的だった製品から、高音質での「再生」を目的にした製品は、技術的にはほとんど同じで、製造に使う金型も多くが流用されました。A「プレスマン」からB「ウォークマン」に持ち越されたものは、ほとんんどAそのものだったのです。「AとBの同じを見つける」ということでいえば、「AとBはほとんど同じ」で、実際、本体は見た目もほとんど同じです。

プレスマンとウォークマン
(写真はApple/Macテクノロジー研究所のウェブサイトより。このサイトでは、「プレスマン」と「ウォークマン」の比較をされています。https://appletechlab.jp/blog-entry-1353.html)

ソニーのウェブサイトによると、この1号機の開発には、技術的な苦労はほとんどなかったそうです。けれども、こうして生み出された新な製品は、人々の音楽の楽しみ方を決定的に変えるものになりました。「ウォークマン」が発売されると、音楽を自由に持ち運んでどこでも個人的に楽しむという新しいライフスタイルが世界中に広がり、「walkman」という和製英語は、1986年にはイギリスの『オックスフォード・イングリッシュ・ディクショナリー』に掲載されるほどになったそうです。
(https://www.sony.co.jp/SonyInfo/CorporateInfo/History/SonyHistory/2-06.html)
現在では、スマホで音楽や動画、ゲームなどのコンテンツを個人的に楽しむのが当たり前になっていますが、このようなライフスタイルは「ウォークマン」から始まったと言えます。また、そういう意味で、今後、さまざまなものが開発されると思われるウェアラブル端末の起点でもあると言えるのではないかと思います。

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今回は、製品の開発において、元になるものAと、新しい製品Bに持ち越されるものがほとんど同じ、AがほぼそのままBに生かされた例を紹介しました。
 前回、「閃き」の瞬間にある「異なるものの中から『同じ』を見つける」(https://note.com/harumiichikawa/n/nc38d072c239d)で、皿の上の油から、板ガラスの製造方法を閃いた例を紹介しました。この例ように、新しいものを発想するさいに、見つけられるA(元になるもの)とB(新しくつくるもの)について、AとBがまったく違うほうがダイナミックな「創造」になります。 
けれども、AとBが技術的・物理的にそれほど変わらなくても、新しい使い方や価値感によって、つまり発想の転換によって、非常にダイナミックに質的な飛躍を遂げることもあるのです。

 
 *1 等価変換創造学会についてはこちら↓をご覧ください。
https://www.jcdc.jp/%E7%AD%89%E4%BE%A1%E5%A4%89%E6%8F%9B%E7%90%86%E8%AB%96%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/%E7%AD%89%E4%BE%A1%E5%A4%89%E6%8F%9B%E5%89%B5%E9%80%A0%E5%AD%A6%E4%BC%9A%E3%81%AE%E6%B4%BB%E5%8B%95/

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創造理論「等価変換理論(Equivalent Transformation Theory =ET理論)」による子ども向けプログラムを開発・実施。創造性は生きる力につながります。ここではET理論の基礎となる考え方や、その視点から考えたことを書いていきます。等価変換創造学会準会員。
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