「異なるものの中から『同じ』を見つける」力は、あらゆる区分を飛び越える

 こんにちは。
 ナイキのCMが話題ですね。


 ナイキのHPによると、タイトルは『動かしつづける。自分を。未来を。』。「アスリートのリアルな実体験に基づいたストーリー。3人のサッカー少女が、スポーツを通して自信を深め、自分たちの未来を動かしつづける。」とあります。
 否定的な意見もあるそうですが、私は、みんながありのままで生きられる世界を自分たちでつくっていこう、というメッセージのこのCMはいい動画だと思います。

 ところで、今や巨大企業となったナイキの創業者フィル・ナイトさんが、50年以上前、いちばん始めに販売したのは日本製のシューズでした。今回は、そのシューズをつくった鬼塚喜八郎さんが、バスケットシューズを開発したときの等価変換についてです。

 おさらいになりますが、等価変換創造理論(ET理論)が考える創造の過程は、だいたいこんな図で表せます。

等価方程式(とりのぞく、とりいれる)


簡単に言い表すと、
 
② ある観点において、参考になるものAを見つける。
② Aの中からAに固有のものを取り除いて、ある観点での本質を抽出する。
③ その本質に必要なものを取り入れてBを作り出す。

です。

 この式については、こちらに書きました。

 さて、鬼塚さんの発想の過程をクイズ形式でみていきます。
 1940年代後半、敗戦間もない神戸でバスケットシューズ作りに取り組んでいた鬼塚さんは、「走っていても急にぴたっと止ることのできるシューズが欲しい」というバスケット選手の意見を聞いて、日々、どうすればそんなシューズができるか考えてつづけていました。
 そんなある日、晩御飯に出されたある料理を見て、「これだ!」と閃いて革新的なバスケットシューズを開発しました。
 ここでクイズです。次の写真を見てください。

りょうり4つ

(料理の写真はphotoACさんより)

 鬼塚さんが「これだ!」と閃いたある料理とはなんだと思いますか?

 a お好み焼き
 b 太巻き
 c タコの酢の物
 d かまぼこ
 
 
 答えはタコの酢の物です。鬼塚さんはタコの酢の物を見て、靴底に吸盤のようなくぼみの深いバスケットシューズをつくることを閃いたそうです。もしかすると、ほかのどれかを見て、まったく違う発想のバスケットシューズを作っていたかもしれませんが、このときは、タコの酢の物が鬼塚さんにインスピレーションを与えたのでした。

アシックス


                          アシックスHPより


 1950年代初めに発売されたこのシューズは大成功でした。鬼塚さんはこの後も、マメのできにくいマラソンシューズや、その他いろいろな競技用のシューズを開発していきます。
 鬼塚さんの会社はのちにアシックスという会社になりました。このエピソードは、アシックスとオニツカタイガーのサイトで紹介されています。

 のちにナイキの創業者となるフィル・ナイトさんは、学生時代に、日本製のカメラがドイツ製のカメラに迫っているように、日本製のスポーツシューズも、アディダスやプーマなどのドイツ製のシューズに勝てるか? というような論文を書いていたそうです。
 そして、高性能・低価格の日本製のシューズの販売店になろうと1960年代初頭に来日、神戸を訪れ、まだ起業する前だったにもかかわらず、鬼塚さんと会ってアメリカでの販売代理店契約を結んだそうです。
 鬼塚さんがタコの酢の物から画期的なシューズを発想したことと、現在のスポーツシューズやスニーカーブームのつながりが感じられるエピソードです。

 鬼塚さんは、タコの酢のものから、新しいバスケットシューズを閃きましたが、もちろん、そのままではうまくいきません。

たこからタコシューズ


 鬼塚さんの創造の過程は先ほどの図に当てはめると、次のように説明できます。

タコからバスケットシューズ式


 鬼塚さんの頭の中では、「どうすれば急に止まれるシューズが作れるか」と一所懸命に考えていたところに、タコ酢の物(A)という形の情報が目に飛び込んできて、直感的に課題解決の形として吸盤型の靴底(B)を閃きました。その閃きを分解すると、Aの情報に接した瞬間に、タコの吸盤が「吸盤」に抽象化されて、靴底に応用できること、すなわち、AとBに「同じ」があることを見抜いたということです。
 その後、「吸盤」に必要な変更を加えて試行錯誤を重ね、最終的に適した形でバスケットシューズに生かされました。

 創造的な閃きには、自分の課題に必要な観点からものごとの本質を抽出すること(抽象化)が不可欠です。それは、上の図で言えば、AとBの「同じ」を見つけること、すなわち、「異なるものの中から『同じ』を見つける」ことです。
 この、「異なるものの中から『同じ』を見つける」力は、ものごとの表面的なことから思考を解放して、「食べもの」や「生物」、「人が履くもの」や「人工物」など、カテゴリーや素材、用途、大きさなど、あらゆる区分を飛び越える力を持っています。だからこそ、ダイナミックな発想が生まれるのです。

 また、あらゆる区分を飛び越える「異なるものの中から『同じ』を見つける」ことは、冒頭のナイキのCMが発信していたような、多様性を重視する社会をつくることにも役に立つのではないか、とも考えています。それについては、いずれ書いてみたいと思います。

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