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「自分と同じことを他人に求めるつもりはない」|東松寛文の提言その3

休日に旅行に行くことで、人生が有意義になったという東松さん。しかし、その生き方を相手に押し付けないようにしているという。本当の幸せは、自分で見つけるしかないからだ。でも、そのための一歩はとても簡単なことだと、東松さんは語ってくれた。小誌編集長島崎昭光との対談のラスト。

※2020年3月掲載記事

新しいコトを始めると、どんどんできることが増えていく

ーー島崎:
東松さんは、今の生き方で、何に幸せや楽しさを感じていますか?

東松:
やったことのないことがどんどんできていく感じが楽しいですね、行ったことのないところに行くのもそうですし、英語話せないのに道を聞けたというのも。それに、今は朝起きるのが楽しくて。

ーー島崎:
朝ですか。

東松:
起きてリーマントラベラーメールを見ると、知らない人から突然メールきている。今日どんなメール来てるのかなって。仕事の時ってメール開くの嫌じゃないですか、未読すげぇあるじゃん、みたいな。

ーー島崎:
ちょっと構えますよね。

東松:
そう思うのが、これを始めてから楽しくなりましたね。

ーー島崎:
まさにYouTubeもそうですよね、やったことないこと。

東松:
そうですね。

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ーー島崎:
いい意味で芋づる式に、新しいことを初めてみると新しいことが出てくる、みたいな感じですよね。

東松:
知ってることがどんどん増えて、知りたいことが増えて、円がどんどん大きくなっている。

ーー島崎:
そういう意味でも、YouTubeには意味があった?

東松:
きっかけは、子供たちに小学校や中学校で講演している中で、子供達がもっと動画を見たいって言ってくれたことだったんですが。

ーー島崎:
嬉しいですね。

東松:
それで自分の子供の頃を思い返してみたら、『電波少年』だったり、『世界ウルルン滞在記』、『世界ふしぎ発見』、『アナザースカイ』、『世界!弾丸トラベラー』とか、世界を知れる番組が色々あったなと。

ーー島崎:
そうですね、昔は色々あった。

東松:
番組を見ている時は、すげぇな、こんな世界があるんだなと思っているだけなんですが、実際行ける年齢になって、何が背中を押してくれたかというと、子供の頃に見た映像なんですよね。例えばジャマイカ行ったのだって、“セカホン”(『世界行ってみたらホントはこんなトコだった!?』)見たからですもん。その時のジャマイカの映像が忘れられなさすぎて、僕の中での聖地になっていたし、行くか、みたいな。

ーー島崎:
それはわかる気がします。そういう意味では僕は『世界の車窓から』ですね。

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東松:
いいですね!でも、今のテレビやYouTubeは極端なものが多くて、過激なところに行っているものとか、可愛い女性が行っている映像がバズってたり。局所だけを見たら確かに面白いんですけど、旅の本質が伝らないから、別に行ってみようと思わない。もちろん、今は制作費と需要が噛み合っていないのでしょうがないと思うんですけど。

ーー島崎:
確かに今、旅の本質を教えてくれるものって少ないかもしれない。

東松:
そうなんですよね。僕はテレビに背中を押してもらったので、今度は僕が押してあげたいなと。想像を膨らませる分には、文章は良いと思うんですけど、実際のイメージが伝わらない。だから、映像で見せるのが一番伝わるなと。それでYouTube。

ーー島崎:
なるほど。

東松:
英語が全然話せないのも僕は映している。「イッテQ」の出川イングリッシュとかもありますけど、あれは出川さんだからできている。実際話せない人が行ったらどうなるかを見せられれば、皆興味を持ってくれるかなと。

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ーー島崎:
自分でも行けるかも、という。

東松:
はい。僕は誰かの一歩につながることがしたいというのがすごくあるんです。そこには、できなかったことができていくのが楽しいっていう自分の経験もあるからかもしれないですが。子供も大人も、今少しでも海外に行ってみたいと思った人が、動画を見て、こんなに簡単にいけるんだと思ってくれたら嬉しい。

オンラインサロンは、ガス抜きの場

ーー島崎:
オンラインサロンも運営されていますよね、すべてご自身で?

東松:
やっています。

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ーー島崎:
どうして始めようと思ったんですか?

東松:
イベントの参加者からもよく聞くんですけど、会社の中だと、休んでいることが既に後ろめたいので旅行好きって言いづらいそうなんです。そういう人たちが羽を伸ばせる場所が会社の中で作れないんだったら、それとは別に、ガス抜きの場を作れればなと。旅で人生が楽しくなるようなコミュニティが作りたいなって思って始めた。

ーー島崎:
やっぱり旅好きが多い?

東松:
そうですね、参加者は比較的旅好きが多い。これから行きたいという人もいるので、既に行っている人から、いろいろ話を聞けます。

ーー島崎:
東松さんのサロンは今も人気があるとは思いますが、今後、もっと大きくしたいと思っているんですか?

東松:
大きくなってもいいかなとは思いますけど、そこはあまり気にしていません。会社でも家庭でもない第三の場所として機能していれば、規模は一人でも百人でもいいんです。今は毎月1回の定例会と、イベントをやっています。

自己啓発本は悪である

ーー島崎:
オンラインサロンとか、ネット界隈で話題になる人って、「べき」論を振りかざしているというか。そういう人たちに、若い人たちが飛びついている感じがある。

東松:
あの人たちの書く自己啓発本ってレッドブルなんですよ、完全に。

ーー島崎:
レッドブルですか。

東松:
その人たちの自己啓発本を読むとやれそうな気がするんですよね、なんか元気が出るじゃないですか。でも、翌朝冷静になると、この人たちじゃなきゃできないな、となる。

ーー島崎:
そうですよね。

東松:
でもそれは、彼らのマーケティングだと思っていて。できないことをできる風に書けば、信者はついてくるし、自分の価値は高まるし、バズるので。

ーー島崎:
東松さんにはもっと有名になって欲しいです(笑)。

東松:
戦略として決めているのは、バズりを狙わない。僕が伝えたい人たちはサイレントマジョリティ。いいねをしないし、リツイートをしないんですけど、僕が発信するものを見てはいる。なのでここは地道にやっていくしかないなと。

ーー島崎:
ネットの具体的な反応がすべてじゃないですからね。それでお金儲けを目指しているならまだしも。自分が好きなことを自分がやりたいようにやることが大事だし、実際そういう人のほうがファンとの絆が長く続く気がします。

東松:
僕の文章は、過去の自分に対しての手紙だと思っていて、旅行に行く前の自分に刺さるかどうかで内容を決めています。ネット上での反応がなくても気にせず、そこはぶれずにやっていこうかなと思っています。

ーー島崎:
でも、閉塞感を感じていて、答えを求めている人たちや、東松さんのNBAのようなきっかけがまだ起きていない人たちに対しては、どういう環境を作っていけばいいんでしょう。

東松:
別に旅行でなくてもいい。でも、旅行は手っ取り早いんです。旅行は非日常なので、そこに行くだけで自分の心が動くようなことが起こるので。ただ、時間もかかるしお金もかかるし、語学面の勇気が必要だったりもする。でも、この3つの不安があるからやらないというくらいなら、ただ家から出れば良いと思う。

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ーー島崎:
家から出る?

東松:
はい、家から出る。週末に目的もなく出る、くらいでいいと思います。自分のルーティンと違うことをやって非日常を感じるだけで、心が何かしら動くので。そこで心が動いた理由を考えるのが大事。

ーー島崎:
それだけでも時間の過ごし方には意味があるんですね。

東松:
日常の中だと自分と向き合う材料は見つからない。だったらとりあえず旅に出て知らない街に行ってみるだけでも、自分と向き合う材料が見つかる。自己分析しなきゃとか、リフレクションしなきゃとか思う前にどこか材料を探しに行けばいい。何かしなきゃって思っているのにできない人は、そのための材料がないので、材料を探しに家から出てみたらいいと思うんです。

ーー島崎:
週末、あえて予定をビッチリ入れずにどこか行ったことのない場所に行ってみるとか、やったことないイベントに参加してみる、ってことかもしれないですね。簡単なことなのに、実際にやっている人は少ない気がします。なんででしょうね。

東松:
自分を変える必要がないからじゃないですか。死が迫っていたらやばい、と思うかもしれませんが、明日のことだけ考えてたら何もしないほうが楽じゃないですか。何かをやりたくなるタイミングは人それぞれだし、背中を押すことは大事だと思うんですけど、それでも変わらない人は結構諦めています。

ーー島崎:
そうですよね。

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東松:
まずは自分に興味を持てばいいんです。自分自身に興味がないから、旅先で何かしなきゃと思うのかも知れないですけど。同じ景色を見ても、自分がどう感じたか、それを感じられたかだけでも価値があると思う。違うことに足を止めてみる、そのきっかけが旅にはたくさんあるんだなって思います。

最後まではコミットしない。

ーー島崎:
東松さんの中では、限られた1日24時間、365日が、無駄には使いたくないという部分があるのかなと思っていて。周りの方を見て、もっと時間を効率的に使ったほうがいいと思うこともあったりするじゃないですか。

東松:
うーん、僕はあまり他人のことは気にしないかもしれないです。やるかやらないかは本人次第なので、示唆すると言うかアドバイス…アドバイスというのも上からですね…教えてあげるというか…、なんて言うか難しいんですけど、そう思っています。やるかどうかは本人次第なんで、最後にコミットしないようにしています。

ーー島崎:
そこも面白いですね、ネット界隈で活躍している人はどちらかというと「べきである」みたいなことを、わざわざ言う人もいる。

東松:
本人が幸せだったら、選択肢はなければないほうがいいのかもしれない。でも、僕は旅行で選択肢が広がって、選んでいくことで充実が生まれたので、そうやって選択ができる社会にしたいとは思っています。

第4回につづく。次回は東松さんと創るリーマントラベラーマップの話)
写真:南方 篤


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