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表参道に物干し竿? 高級ブランドが並ぶ「表参道ヒルズ」20年前の意外な姿

世界最先端のファッションやアートを発信し続ける「表参道ヒルズ」の一角に、古めかしいたたずまいの建物があるのをご存知だろうか。20年ほど前まで、この辺りにはこうしたツタが絡まる古い建物が数多く立ち並んでいたという。

そう教えてくれたのは、表参道周辺の地域情報サイト「おもてサンド」(※現在、ウェブ版は更新終了。SNSへ移行)のディレクターのまあやさんとライターの重久直子さん。ふたりと一緒に、その歴史を辿ってみた。

表参道ヒルズの敷地には、“復興住宅”が広がっていた

「今の表参道ヒルズがある辺りは、10数年前まで鉄筋コンクリートのアパートがずらっと並んでいたんです。正式名称を『同潤会青山アパート』といって、関東大震災(1923年9月1日)の復興計画の一環で建てられた、頑丈な鉄筋コンクリート造りのアパートでした」

と重久さん。アパートを建設したのは、関東大震災の義捐金をもとに、当時の総務省が設立した財団法人「同潤会」。同会によるアパートは、表参道のほかにも代官山や上野など都内16カ所、震災被害の大きかった横浜にもあったという。

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昭和38〜40(1968〜70)年頃の表参道越しの青山アパート。表参道の通りも思いのほかシンプルだ

青山アパートは、3階建ての建物が10棟ほど並ぶ集合住宅で、当時としては珍しくガスや電気、水洗トイレが整備されていたのだとか。耐火性にもすぐれ、1945年5月にあった山の手大空襲でも焼け残ったそうだ。

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昭和60(1985)年頃の様子。寄って見ると、ますます本気の住宅。今の姿と比較すると表参道とは思えない

「平成に入っても、建物は残っていました。私もよく青山アパートの横を通っていましたが、ツタや木がうっそうと茂っている建物でちょっと入りづらかった印象があります」

とまあやさん。

「昔は古着を売っているような、知る人ぞ知るブティックやギャラリーなんかも入っていました。でも今の表参道ヒルズのような観光名所というイメージではなかったですね」

と重久さんも振り返る。

以前の面影も…名建築家が手がけた新生「同潤館」

青山アパートは地元の“顔”として親しまれてきた。しかし、施設の老朽化のため2003年に解体されてしまったという。跡地に今の表参道ヒルズができたのは、その3年後、2006年のこと。

新しい建物をつくるにあたって、地域の人からは、表参道の景観や格式を大切にしてほしいという声があったそう。そこで設計は、歴史的建築の改修なども手掛けてきた安藤忠雄氏に依頼したという。

安藤氏は「(青山)アパートのつくり出す風景が、人々の心の風景となっている」と考え、その風景を残すために「表参道ヒルズ」にさまざまな工夫を施したそう。

「たとえば『地下6階、地上6階建て』という構造は、ケヤキ並木より建物が高くならないための工夫なんです。ちなみに商業施設というイメージが強いですが、今も上層階には住居が設けられているそうです。そして、冒頭で紹介した古びた建物は青山アパートを再現した『同潤館』。建物自体は新しく建てられたのですが、ところどころに青山アパートの面影を残しています」

とまあやさんが教えてくれた。

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よくよく見てみると、確かに建物の外壁はまだ新しい。といっても、すでに12年近くは経過している。一方、壁を囲む石垣は苔むしており歴史を感じる。

表参道ヒルズ・広報の梅木さんによると、「同潤館」の中にも、青山アパートの“歴史”を感じられる場所があるという。まずは、入口を入ってすぐの階段手すりのこの柱。青山アパート時代の建具をそのまま使っているそうだ。

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20世紀の建築の階段には、このように木彫りの装飾を施した “親柱”を建てるのが定番だったとか。

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また、3階部分にかけられた非常用のはしごも、青山アパートから受け継いだもの。

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さらに、部屋のベランダ部分の天井に取り付けられているこの“くるくる”も青山アパートの遺産。何だかわかるだろうか?

実はこれ、天皇陛下が明治神宮に参拝される際や祝日などに、国旗を掲げるための“留め具”なのだ。こうした建具があるのは、表参道に面した建物ならではかもしれない。

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この“くるくる”の横には、物干し竿掛けと思わしきディティールも。今では考えられないが、青山アパート時代は、多くの家族がここで暮らし、「洗濯物を干す」という日常的な風景が見られたのだろう。

今まで「おしゃれすぎて入りにくいかも…」と思っていた表参道ヒルズだが、昔の人々の生活を垣間見るとなんだか親しみが湧いてくる。

【取材協力】
・おもてサンド
おもてサンド Facebook

【参考資料】
・大嶋信道「モダンあり、クラシックあり、装飾のディテール集成。」『東京人』157号(都市出版、2000年)
・表参道ヒルズウェブサイト「建築デザイン」
http://www.omotesandohills.com/information/about/architect.html

TOKYO DAY OUT より再掲

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